125・獣人国ガンドルグ
ワイバーンに乗った私達は、その日のうちに獣人の国ガンドルグの土地に足を踏み入れる事が出来た。
ワイバーンから降りて、発着場の外に出た私達が目にしたのは、多種多様な動物耳と尻尾を生やしている人の姿だった。
「これだけ獣人族がいると、リュネーも同じように見えるかもね」
「あはは、そうかもね」
猫人族と魔人族のハーフであるリュネーは、かなり獣人族と見た目が似ている。ガンドルグにいると、溶け込んでいるように見えるくらいだ。
「中には区別も付かずに迫ってくる馬鹿者もいるだろうから、リュネーは特に気を付けなさい」
「はい、先生!」
ベルーザ先生が、気持ち悪い話し方でリュネーを気遣ってるのを見て、少しだけ寒気がする。そう思うのは私だけではなかったようで――
「ベルーザ先生、流石にそれは気持ち悪い」
「うるさい。僕は教師だから、生徒に言った事を実践する必要があるんだよ。君に言われなくても、僕だって気持ち悪い」
フォルスがからかうように言い切ると、ベルーザ先生は目尻を少し釣り上げて、怒っているような態度を取った。実際はそこまで怒ってないだろうけど、そういう建前も必要なんだろう。
「それにしても、随分と人が多いですね…….。獣人族以外の人も沢山います」
「恐らく魔王祭の予選の見学でしょう。この祭りは、貴族の方々にも注目されておりますから」
レイアが不安そうにきょろきょろと辺りを見回している中、雪風は冷静に分析していた。
「それで……先生。これからどうするの?」
「今日はまず予約している宿に向かって、その後は自由行動をしても良い。情報では、予選の最終は明後日だからな。全員で魔王祭を見学するのはその時でいいだろう」
予定を聞かされて、思わず嬉しそうな声を上げている子もいるけれど……私はせっかくだから、魔王祭の方を見てみようかなと思う。
明後日もどうせ自由行動になるんだろうし、少しでも魔王祭の空気に触れてみたかったからだ。
「それじゃ、みんな付いてきなさい。はぐれないようにな!」
『はい(です!/っす)!』
五人の声がちょうど重なって、大きく響く。他にも少し違う事を言ってる人がいたけれど、そこは気にしない事にした。多分、もう反射で言ってるんだろうしね。
――
ベルーザ先生が予約してくれていた宿は、予想以上に広くて立派な場所だった。もっと質素な場所を想像していた私は、上手く言葉に出来ない程に驚くほどだった。先生が言うには、私やリュネーがいるのに、あまり質素な宿にするわけにはいかなかったそうだ。
私達としてはどっちでも良かったのだけれど……流石に体裁が悪いというのは問題があるか。
他のみんなは綺麗な宿に感動していたり、喜んでくれていた。別に私達のおかげって訳でもないのに感謝されたくらいだ。そんなこんなで宿に荷物を置いた私達は、それぞれ自由行動を取る事になって……ガンドルグを観光するみんなと違って、私だけが魔王祭の会場へと足を踏み入れる事にした。
どの国にもある決闘を行う為の会場で魔王祭は行われているようで、その道なりには幾つもの出店が存在していた。色んな食べ物や魔導具が売られていた。
会場の中では、今も予選が行われていた。獣人族の学生とオーク族の学生が激しい攻防を繰り広げていた。
『おおっと! ジーガス選手、怒涛の猛攻だ! 次々と繰り出される
ジーガスと呼ばれたオーク族の学生は、両手にしっかりと握り締めている大きな戦斧を振り回していた。対する垂れた犬耳をしている獣人族の男の子――アリディルは、盾で懸命に防いでいるけれど、片手の盾と両手の斧とでは威力が違いすぎて、振り回されているみたいだ。
それに……見たところ、ジーガスの方が腕力も強い。体格の良い身体から繰り出される剛撃はたまったものじゃないだろう。
それでも最初はアリディルの方も善戦していたけれど、実力の差が徐々に表れて……最後には構えていた盾ごと腕を弾き飛ばされてしまい、完全に無防備になったアリディルの身体に、流れるような雷の魔導が放たれた。まともに喰らったアリディルは身体の痺れを振り払うように動いたけれど……健闘虚しく、戦斧をその喉元に静かに当てた。
『ジーガス選手の斧が、アリディル選手の喉元に突き付けられ、完・全・決・着!! 魔王祭の予選最終戦は、ジーガス選手に出場が決定しました!!』
司会のゴブリン族の男性の大きな声に、観客が一斉に歓声を上げた。その中央では、さっきまで戦っていた二人の選手が、互いに健闘を称え合うように拳を握りあっている。どこか青春のような匂いがするけれど……多分、お互いに同じ地区の仲間のようなものだから出来る事だろう。
代理戦争としての部分は確認できなかったけれど、彼らは確かに一年生とは比べられない程の実力を垣間見せてくれた。僅かな間だったけれど、二年生から実力者を集めているというのも納得が出来る。
だけど……
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