111・怒り心頭のお姫様
「『バインドソーン』」
男が決して逃げられないように、拘束する魔導を放つ。倒れた男は、そのまま地面から生えた茨に身体を束縛され、身動きが取れない状態になった。一応、動かなければ痛い思いをする事はない。
それをわざわざ教えるような私じゃないけれど。
「『エリアプロテクション』」
立て続けにもう一つ。この監禁部屋を守る結界を発動させる。イメージとしては、私の許可しない者の出入りを防ぎ、害のある攻撃を防ぐ守護結界。これで、万が一ここの誰かを人質に取ろうとしても問題はない。
こういうのは強力な魔導を扱う人には大した効果が出ないんだけれど、ここにいる虚ろな視線の子供達や、あそこにいた男どもには到底開ける事が出来ない代物だ。
しっかりと確認した私は、上を目指した。地下から戻ってきた私は、今までと違ってわざと物音を立てるように進んでいく。
「何のお――」
私が立てた騒音に呼び寄せられた男の股間を蹴り上げて、前かがみになった顔面に拳を沈めてやる。
「『バインドソーン』」
情けない顔でのびている男に向けて拘束の魔導を発動させた私は、茨に包まれてる男を見届けて別の場所に移動する。
それからも出会った敵は片っ端からぶちのめして、茨の魔導で拘束していく。これほど何の感情も湧き上がらない程怒るのも久しぶりだ。
「うぉるぅらぁぁぁ!」
物陰に隠れて奇襲を狙ってきた男に呆れながら、避けるついでに足を引っ掛けて、後ろ頭にかかと落としを喰らわせてやる。ついでに顔面を蹴りぬいて戦意を喪失させると同時に茨の魔導で縛っていった。
――他愛ない。
この程度なのは知っているけれど、改めて対峙すると……本当に弱い。
奇襲するときも声を上げて襲い掛かってくる程度の輩に、私の動きに反応することも出来ない人達ばかり。
私が『シャドウウォーク』で追跡した悪魔族の男も、視界に入った瞬間にぶちのめして、問答無用で拘束した。具体的に後どれくらい……というのが分かればいいのに……と思っていると、建物の二階の奥の部屋でエルフ族の男を見つけた。
「貴様……」
私の姿を確認した男は、警戒しながら普通の剣より若干短い剣を握り締めていた。
「エルフ族が犯人だったとはね」
「奴らと一緒にするな」
心外だとでも言うかのように鼻で笑ってきた男は、憎々しげに私の事を見ている。それはどこか深く粘着質で、今ここにいる愚か者達を倒している事に対するものとは思えない程だ。
「どっちでもいいけどね。そんな事より……よくも私の町で好き放題してくれたわね」
「ふん、下等種共をどう扱おうが、主たる私の勝手だろう?」
なんて不遜な物言いなんだろう。別に私も人は平等だと説くつもりはないけれど、言い方というものがある。
それに『下等種』って単語。これを口にする種族は一つしかない。
「ダークエルフ族……」
「その下品な種族名で呼ぶな! 私は誇り高き『エルフ族』だ! 寄生種共にたぶらかされた愚か者が!」
私の言葉に吠えるように怒りを露わにするけれど、そんな下らない事はどうでもいい。こっちだって怒ってるのだから。
「これ以上、問答する気はないの。大人しく――」
身構えたダークエルフ族の男の懐に潜り込んで、身体を後ろに倒しながら捻って、それと同時に足を突き出して腹部に蹴りを放って、下がった頭を両手で掴んで膝蹴りを放つ。
「がっ……! ぐっ……こ、のっ!」
「――気絶していなさい」
しぶとく私を睨み上げてきた男のテンプルを拳で打ち抜いて、倒れた男の胸元に体重を乗せた肘鉄を喰らわせてあげた。最後に、おかわりを欲しそうにしている顔を踏みつけて、『バインドソーン』で拘束完了。
ダークエルフ族の男は、完全に意識がなくなってるみたいで、私の気も大分晴れた。
「さて……後は……」
結局、十数人の悪党を締め上げた私は、今後について頭を悩ませる。警備隊に報告するのはいいのだけれど、問題は二つある。
一つは変な腕輪を付けられた子供達。しばらくは病院か何処かで預かることになるだろうけど、元気になったら家に返さないといけない。
……もし、ここじゃないどこか別の国の子供だったら、探すのに時間が掛かるだろう。
万が一、両親がいなかったら……。
助けて『はいさようなら』なんて無責任な事は出来ない。助けたなら、最後まで助ける。そこまでして、初めて彼らを『救った』事になる。お父様に頼み込むくらいしか出来ないんだけどね……。
もう一つの問題は――
「……やっぱり、もう夜よね……」
すっかり陽が落ちきって、月が夜の世界を支配しているこの光景。どう考えても、学生が帰る時間を過ぎていた。
頭の中で、お父様やお母様に叱られる私が容易く想像できる程度には遅い時間だった。
ため息を一つついても、何の解決にもならない。仕方がない。今はやれる事をやるとしよう。
まずは、警備隊の詰所に行くことにしよう。私自身の事は、後でいくらでもなんとかなる。
心の中で何度もそう言い聞かせながら、月が照らす道を歩いていくのだった――
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