恵ってさ、すごい”人間”って感じるんだよねぇ


冴えカノ

俺の家

最後に攻略しないといけない大事な人、それが加藤恵だ。

折しも今は大晦日。新旧集まった仲間が、魂を削って、血反吐を吐いた渾身のギャルゲー『冴えない彼女の育てかた』が完成した。みんなで握手して、肩を寄せ合い泣いていた。伊織以外は。伊織にはまだ仕事が残っているからだと信じたい。いや、信じてる。

みんなが帰っていく。

伊織「この坂、角度厳しいから気をつけろよ~」

さぁ最後のヒロイン『加藤恵』の番だ。


冴えカノ

恵最終章

「もちろん話したいことあるんでしょ?」

私は分かっているというフラット、本当に久しぶりなフラットな恵が玄関から出てきた。

「俺さぁ。……ほんとに恵が大事で」

涙が止まらない。鼻も詰まってきた。それでも言わないと。

「うん。よく分かってるよ。私は大事で、『英梨々は大切で』……だ、だ……だからちゃんと話してくれたんでしょ?

相変わらず相談がなかったのは、なんだかなぁ、って」

恵の瞳にも涙出てきて……。

「早く英梨々のところに行って!! もう私はみっともなく大声で泣いちゃうから。最後くらいはフラットでいさせて」


冴えカノ

後ろから大きな涙声が聞こえてくる。それでも俺は走った。歩けば5分の距離なのに……1秒だけでも早く伝えたかった。

その女の子は、家の門の前で涙を零しながら、スケッチしていた。

そんだけデッサン用紙に涙を零していたいたら元絵が分からないだろう。それだけ泣いていた。泣きながら鉛筆を握り星空を描いている。紙に線が引かれる。そこには眩いばかりの星空があった。どうやら俺は1枚描き終わる待ってしまったようだ。

「英梨々? 話したいことがあるんだ」

「聞きたくない! どうせ私は主人公に選ばれなかった『サブヒロイン』なんだよ! (ヒロインは認めるのねということを言うとまた更に炎上してしまうので胸の中にぐっと堪えて)全員をフォローするんでしょ? だったら今日くらい泣かせてよ……」

「違うから」

「えっ? 」

「だから顔を見て言いたいことかあるから

今日ダメならもう諦めるよ」

英梨々はぐずぐずと泣きながら、スケッチブックで顔を隠して、でも答えを聞きたがってる。そんなポンコツでも萌えてしまう。国交断絶状態もあった。それでも10年間英梨々を好きでいた。

セミロングくらいかの金髪ツインテール。「ごきげんよう」なんて現代では死滅しかけている言葉を使い、美術部のエース。それは表の顔。

裏はもっとひどい。家にいる時は基本的に中学時代の緑のジャージ姿。エロ同人の作者『柏木エリ』締め切り間近になると毎度完徹で。でも最後に俺に頼ってくれた英梨々はもういない。


あぁあの時(恋するメトロノーム)の初稿を読んで欲しかったのは、今の俺の気持ちに似ているのかもしれない。

詩羽先輩には悪いことしたなぁ。あの時がルートの分岐点だったことに気がついたのは今さらだった。



冴えカノ

告白

「英梨々、俺はお前が3次元(リアル)で1番好きだ!」

「3次元って必要?」

「なんだその加藤全盛期の様なフラット感は」

「なんてね。恵が教えてくれたの、告白されても最初はフラットにいかないとどんどん調子にのってどんどん側室作るからって」

「全くもってそんなつもりはありません」

そんな信用要らないやい。

でも相変わらずの鳴き声で

「あたしは倫也は最後に恵を選ぶと思ってた。

だから、だから大好き」

涙まみれだけど世界一かわいい笑顔をみせてくれた

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