第157話 動く銅像

 昨日に引き続きセラリーナと七不思議巡りだ。

 今日は中庭にある動く銅像。


「これはっ。銅像というかロボットだろ」


 その銅像は四角い胴体に円柱の手足。

 そして、球体の関節。

 半球の頭に板の眉毛と目と口。

 どこから見てもロボットだった。


「可愛いー」

「まあ確かに愛嬌はあるな」


「ロボットっていうのが何かは分かりませんが、正体に心当たりがあるんですね」

「たぶん、これはゴーレムの試作品なんだと思う」

「ゴーレムなら動いても不思議はないですもんね」

「一瞬で解決か。風情がないな。このゴーレムがどんな感じか、ばらしてみたいな」


「こら、それに触ったらいかん」


 おじいさんから怒られてしまった。


「ゴーレムに興味があるんだよ。俺の体もゴーレムだから」

「若いのに殊勝な心掛けだな」

「おじいちゃんはこの学園の教授?」


 セラリーナは勇気があるな。

 気難し気な老人をおじいちゃん呼びとは。


「わしは生徒だ。かれこれ10年は通っとる」

「大先輩だぁ」

「まさかの生徒。それなのにゴーレムを作っているのか」

「上手くいっとらんがな」


「ちなみに仕組みは」

「歯車とゼンマイで動いとる」


 なんと昔ながらの方法でゴーレムを作ろうとするとは。

 無理だな。

 お茶くみ人形は作れてもロボットは歯車とゼンマイでは無理だ。


「魔法で動かす事は考えなかったのかな」

「そんなんじゃロマンがないじゃろ」


 まあ、人それぞれだから、口は挟まないが。


「動く所を見せてもらってもいいか」

「いいじゃろ」


 おじいさんは胴体の裏の板を外すとゼンマイを巻き始めた。

 ゼンマイを巻き終わり、背中のボタンを押すと、ギシギシきしむ音がして手が動いた。


「凄いな。歯車だけでここまでやるとは」


 ここで気が付いた。

 これを操作するには人がいないとできない。

 動く銅像の噂にはならないだろう。


「セラリーナ、このゴーレムの試作品は動く銅像ではないと思う」

「えっ、そうなの」


「なあ、じいさん。こいつを動かす時はいつもそばにいるよな」

「そうじゃな。他の者には触らせん」

「ここで他のゴーレムを見なかったか」

「見た」

「何時!?」

「今じゃ。お主ゴーレムじゃろ」

「ホムンさんが動く銅像の真相なの。がっかり」


 まさかの俺。

 ここは覚えがある。

 ベンチがあって、俺が通りがかった者から人生相談を持ち掛けられた場所だ。

 ミニアが授業を受けている時に暇つぶしにここに居たっけ。

 なんだ。

 動く銅像って俺じゃないか。

 それなら、動く甲冑だろ。

 噂って伝えられるうちに変質していく。

 動く甲冑が動く銅像になってもおかしくない。


 なんだよ。

 俺かよ。

 謎がわかったお礼にこのじいさんに知識を伝授しようか。


「じいさん、油圧シリンダーやベアリングやエンジンやクランクといった物に興味はないか」

「なんじゃ。無性に心惹かれるぞ」


 俺は覚えている限りの事を喋ってやった。

 そこでじいさんからガソリンについて聞かれた。


「ガソリンの作り方までは分からないな」

「なんとかならんか」

「爆発する液体ならいけると思ったが、危険だな。そうだ」


 魔法のイメージを組み立てた。


void main(void)

{

 MAGIC *m; /*魔法の定義*/

 while(1){

  m=fire_ball_make(1); /*火の玉生成*/

  magic_bomb(m); /*爆発*/

  time_wait(10); /*0.1秒待つ*/

 }

}


 これを魔道具にすれば、定期的に爆発を起こせる。

 爆発の威力と時間を調節すれば、ピストン運動が可能だ。

 俺は後日、じいさんに魔道具と魔法エンジンを作って届けた。


「こりゃいい。ゼンマイの何倍も強力じゃ。だが駄目じゃ。魔法を使っとる。ロマンに反する」

「こう考えたらどうかな。ガソリンとかキャブレターとかプラグとか作るのは大変だろう。それを作るまでのつなぎとして使ってみては」

「そうじゃな。エンジンの仕組みを理解するにはええじゃろ」


 動く甲冑の事が動く銅像の噂になる日も近いなと感じた。

 魔法エンジンをタルコットに見せたら、物凄い食いつきようだった。

 馬車から馬が消える日も近いらしい。

 余計な事をした気もするが、こんなの誰かが考え付くだろう。

 これぐらい良いと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る