第98話 更なる改良

 『古代王国の生活』の中に書いてあった呪文を解析した結果声を出す方法が判明した。

 『ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・ソクチス・カイトカろトカスガフエオムほふ挨拶文ふレ・トセイチノゆカイトカろトカガフエオムよレ・む』と言う呪文がそれだ。


 イメージにしてみる。


void main(void)

{

 char test_str[256]="挨拶文";

 speak(test_str[256]);

}


 一見正しそうに見えるが。

 『speak(test_str[256]);』はバグってる。

 正しくは『talk(test_str);』だ。

 これがなぜ古代王国の人間の言葉とされたのかは挨拶文と書かれていたからだ。

 何かの挨拶ではないかと本には書いてあった。

 これが正常に動いていたら、今頃は喋る魔道具が溢れていたかもしれない。

 『speak』の魔法語『トセイチノ』が分かったのでゴーレムから声を出せる。


void main(int argc,char *argv[])

{

 speak(argv[1]);

}


 このイメージの魔法で声が出せる。

 もう少し改良するか。


void main(void)

{

 TEL *tp; /*伝言魔法の定義*/

 tp=topen("クラモナミソナリナトヌ"); /*ゴーレムの回線を開く*/

 char s[256];

 while(tgets(s,256,tp)!= NULL){ /*伝言の読み込み*/

  speak(s); /*読み取った伝言を音声として流す*/

 }

 tclose(tp); /*回線閉じる*/

}


 これで伝言魔法でゴーレムに送った文章を読み上げてくれるはずだ。

 ミニアに頼んでゴーレムに組み込んでもらった。


「あー、ミニア、聞こえるか」

「聞こえてるよ」


 ティの耳とドラゴンの耳にも聞こえているのだから、ミニアに聞こえないはずはない。

 今日はもう日が暮れるから、明日はどこへ行って驚かしてやろうか。



 朝の学園をゴーレムで歩く。


「おはよう」


 俺は偶然、行き会ったダッセンに、音声を出して挨拶した。


「ゴーレムが喋っている。いや、俺は騙されないぞ。中に人がいるんだろ」

「兜の隙間から覗いてみろよ」

「うわっ、スライムがいる。じゃ、本当にゴーレムが喋っているのか」

「技術ってのは進歩するものなんだよ」

「でも、良く考えたら、全然、驚くには当たらないぞ。ゴーレムに喋らせるより、伝言魔法した方が早い」

「それも、そうだな。しかし、複数の人間と会話する時には重宝する。それに、最終的には呪文を唱えられるようにしたい」

「できそうで恐いな。ゴーレムの軍隊が進軍する光景が脳裏をよぎったぜ」

「軍事転用は今のところ考えていないがな」


 ダッセンと別れ次は誰を驚かそうかと考えながら歩く。

 おっ、前からくるのはセラリーナじゃないか。


「おはよう」

「あなたは誰ですか。鎧を着た男性は心当たりがないし。分かったミニアのいたずらね。声を変える魔法を試しているんでしょ」

「ミニアの師匠だよ」

「えっ、師匠さんなのですか。試験の時はお世話になりました。ありがとうございます」

「それは、ご丁寧にどうも」


「こちらへはミニアに会いに?」

「いや、ゴーレムの試運転だ」

「ゴーレムなんて居ないようですが」

「いるよ目の前に」

「えー、これゴーレムなんですか。古代魔道具ですよね。とっても高いんでしょ」

「自作だ。作成はミニアも手伝った」

「嘘よ。古代魔道具クラスの物が簡単に作れるはずはないわ」

「兜の隙間を覗くと良い。ティが居るぞ」

「またまた、冗談がきついですね。えっ、うそ。本当にティが居る」

「これからは、ゴーレムで授業を一緒に受けるから、よろしく」

「歓迎します。えっとお名前は」

「この姿の時はホムンと呼んでくれ」

「よろしく、ホムンさん」


 さてと、どの授業に出よう。

 俺が選んだのは魔法分類学。

 魔法の種類を分類しようという学問だ。


「えー、魔法分類学の三回目の授業をします」


 カツカツと音を立てて黒板に魔法の分類が書かれる。

 生活魔法、攻撃魔法、防御魔法、治癒魔法。

 生活魔法からさらに線が延びて、種火、生水、送風などが書かれる。

 今日のテーマは生活魔法のようだ。


 俺は手を挙げた。


「何だね」

「穴を掘る魔法はどのカテゴリーに入りますか。罠として使えば攻撃魔法。相手の攻撃を躊躇させれば防御魔法。ゴミを捨てる穴なら生活魔法です」

「ふむ、それはだね。生活魔法とされている。理由はだな。直接的な一定以上の攻撃力がないと攻撃とは認められない。防御もしかりだ。従って生活魔法だね」

「分かりました。参考になりました」


「君はなんと言う名前だね。冒険者らしい格好だが、生徒なんだろうね」

「いいえ、違います。生徒が作ったゴーレムです」

「嘘を言っては困る。魔道具は専門外だが、現存するゴーレムは全て古代魔道具だ」

「感覚共有の魔法で操っています。これが証明になりませんか」

「そうか、自立行動できないのか。ふむ、確かに自立行動出来ないゴーレムは確認されていない。仕組みを説明したまえ」

「感覚共有した魔石で複数の魔道具を操っています」


「なるほど、可能のように思える。後で私の所に来てほしい。是非とも分解してみたい」

「駄目です。他人の成果を横取りですか」

「あー、金貨百枚でどうだ」

「そんなはした金では売れないですね」

「そうか。おっと関係ない話で時間が潰れてしまった。教科書の16ページを開いてくれ」


 なるほど、講師に見せびらかすのは危険だな。

 成果を狙って色んな手を打ってきそうだ。

 俺はなるべく音を立てないようにそっと席を立った。

 見ると講師の目は欲でぎらついている。

 だが、ドアを閉める時に振り返ったら、諦めた目になった。

 宝くじの当たり券が舞い込んで来たと思ったら、風で券が飛ばされた。

 そんな、心境だろうか。

 次はタルコットを驚かせたい。

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