第71話 試験対策

「ミニア、そこは魔法暦1193年だよ」

「難しい」


 ミニアとセラリーナは宿で勉強会を開いていた。

 感覚共有したティはもちろん同席している。

 今までの会話から試験の科目を並べると、魔法の歴史、数学、呪文、滑舌この四つが試験科目だ。


 ティを通して歴史の年表を見る。

 ドラゴンの記憶力は抜群なので、瞬く間に覚えた。

 後でミニアにレクチャーしてやろう。

 語呂合わせという受験生必須の秘密兵器があるのだ。

 これで一つクリアだな。


 数学は四則演算だ。

 桁数がいくら多くとも基本を覚えれば楽勝なんだが。

 とにかくミニアはそれが苦手だ。

 勉強を手伝ってなんとかするしかないな。


 呪文は、火の呪文を三つ書けというような問題が出る。

 ミスさえしなければ何とかなるだろう。

 かなり多くの呪文をミニアは既に覚えている。

 難問が出なければ問題ないはずだ。

 これもクリアだな。


 滑舌の問題集をみると早口言葉だった。

 これは難問だ。

 実戦ではミニアには要らないものだが、これが試験なのだからしょうがない。

 ミニアにクリアできるか。

 待てよ。

 そう言えば呪文は流暢に発音してたな。

 滑舌の問題を一つ読んでみろと伝言魔法した。


「なまむぎ、なまごめ、なまたまご。なまむぎ、なまごめ、なまたまご。なまむぎ、なまごめ、なまたまご」

「急にどうしたの」

「試してみた」

「ミニアは滑舌いいのね」

「えへっ」


 なんであんなに喋るの苦手なんだ。

 早口言葉の方がよっぽど難しい。

 ひとつ思いついたので、その考えを伝言した。


「私はミニアです。現在、十歳になります」

「ミニアが普通に喋ってる。どうしたの」

「ドラゴン的な知恵よ。頭に文章を組み立ててから。早口言葉をするの」

「なるほどね。何がドラゴン的なのか分からないけど、頑張ったね。偉いぞ。よしよし」


 セラリーナはミニアの頭を撫でた。


「まだ、少し慣れてない」

「そのうち慣れるわよ」


 うん、ミニアの特徴が一つ減った気がするが、ささいな事だ。

 これでこの試験も一つクリアだ。


 残った問題は数学だ。

 掛け算は九九を覚えさせれば良い。

 足し算はギルドマスターに特訓されたんだよな。

 でもまだ苦手なんだよな。

 たぶん苦手意識が足を引っ張っていると思う。

 分からない所を分解していって突き詰めていくと問題は解ける。

 分からない事が多すぎて分からない事を分解出来ないのだろう。

 問題をみると一気にテンションが下がるかパニック。

 そういう事だと思う。


 まずは足し算だ。

 問題集の最初に載っている簡単な足し算をミニアに解かせる。

 あちゃー最初から間違っているな。

 桁上がりの分を忘れている。

 こりゃ先は長いな。


 裏技なんてないよね。

 ミニアに裏技を聞けなんて伝言してしまった。


「何か裏技はない?」

「あるわよ。聞きたい?」

「是非、教えて」

「まず、魔法学園の入試はカンニング歓迎なの」


 なんだってー。おい、おい。


「どうやるのか教えて」

「試験の仕組みから教えるわ。まず物の持ち込みは何でもありよ。でも身体検査と持ち物検査があるわ。カンニングを見破られると失格」

「見破られないカンニングがあれば、最強って事」

「そうよ、都合良いのがあればね」


 ふーん。

 コンパイルは知られてないから、ミニアは魔法を使い放題だ。

 念じるだけで魔法発動だから、見破られる心配はない。

 これだけでも有利だな。


「従魔は連れて行ける?」

「大丈夫よ。大きくなければね」


 ミニア、でかしたぞ。

 これで試験は合格したのも当然だ。

 ティが問題を見て、俺が伝言魔法で答えを送る。


 よし、試してみるか。


「今からカンニングします。セラリーナは見張ってて」


 次々に数学の問題を解いていくミニア。


「どうかな? 種が分かる?」

「ぜんぜん、分からなかったよ。どうやったの」


 ミニアから種を明かして良いか尋ねる伝言が来た。

 うーん、どうするかな。

 良い手を思いついた。

 答えを送る。


「あのね。答えが伝言魔法で飛んでくるの」

「その人はどうやって問題を見た訳」

「ティの目を通してだよ」

「不可能よ。テイマーの感覚共有は欠点があるのよ。哺乳類ならさほど問題はないわ。感覚のあり方がほぼ人間と一緒だもの。スライムにそれをやったら気が狂うと思う」


 おー、SAN値が減ってないかな。

 全然平気なんだが、気分も正常だ。

 これはあれかなドラゴンの頭脳ばんざいって事かな。


「師匠は最強だから」


 師匠がカンニングを手伝っているという設定にした。


「ドラゴンテイマーの師匠って想像がつかない。ちょっと、ずるいわ。私にもカンニングさせなさい」


 いいのかこれ。

 そのためには学園が何でこんなカンニング推奨なんて物をやっているか聞く必要がある。


「何で学園はカンニングを認めるの」

「少し昔、偉大な発明をした学園の教授が入試でカンニングした事を告白したの。それから入試の方向性が変わったみたい。つまり発想力を試している訳よ。見破られない手口を編み出せってね。後日、カンニングしたと思われる生徒には職員が尋ねて来るって。手口を喋らせる代わりに、報奨金を出す事にしているらしいわ」

「つまり過去の手口を乗り越えた人だけが。カンニングで合格できる」

「そのとおりよ。報奨金を貰った学生は塔に誘われるという噂よ」

「分かった。一緒にカンニングする」


 妙な雲行きになった。

 だが、もしもの時のために勉強は続けさせる。

 古代の魔道具とかで伝言魔法を封じられたらたまらないからな。

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