第67話 消えた暗部

「本日の議題は戦費の追加分です」


 そう議長がそう言って会議が始まった。

 貴族一同はみんな渋い顔。

 たが、議場は静まり返って反対意見も出ない。


「では、負担は領地の状況を勘案して行います」


 誰も意見を言わない。

 いや言えないのか。

 それとももう金額は決まっていて知らされているのかな。

 まあ出来レースだろうな。


「反対意見も出ないようなので本日は終わります」


 今日は早く終わったな。

 もっとも貴族は政務もこなしているだろうから、このぐらいの時間の方が嬉しいのだろう。


「ちょっとお待ちを」


 ミニアが城から出るために廊下を歩いていると人に呼び止められた。

 ピッパが振り返ったので俺の目にもその人が映る。

 老人だな。

 着る物の豪華さから貴族か。


「何?」

「そこの小部屋で少しお時間を頂けませんか」

「行く」


 ミニアが小部屋に入る。

 伏兵のたぐいは居ないようだ。


 襲撃の可能性は低くなったな。


「昨今の情勢は少し複雑な事になっているのですよ。王はそれを憂慮して簡単にしたいのです」

「どういう事」

「お惚けを。リトワースの宰相とお会いになられた事は分かっています」

「何の関係が」

「おや、どうやら更に事態は複雑なようですね。いいでしょう。リトワースの残党が問題なのです」

「どこが」

「亡国の姫の遺産というべき物が問題なのです」

「遺産? この剣の事?」

「半分当たりで半分は違います。その剣を持つものはリトワースの継承権を持つ」

「なるほど」

「普通なら亡国の継承権などさほど役に立たない。特に国境をリトワースだった所に隣接してない場合はです。この国でも厄介事の種ぐらいの扱いになります」

「なら、ほっといて」

「そうは行かない。問題は暗部なのです。トナークの暗部の九割がリトワース人だったようです」


 何だってー。

 ユフィレーヌはやり手だな。

 ミニアに疑問点の幾つかを伝言する。


「トナーク。よく許した」

「そこですよ。隠されていたのです。姫が死ぬまで」

「他には」

「職人なども居たようですが、それは問題ないのです。もう一つの問題は魔獣の飼育係です。一斉に居なくなって魔獣が反乱を起こしました」


 ユフィレーヌの評価を更に上げた。

 単騎で来たのは半ばもう建国を諦めたのかもしれない。

 ミニアに一騎打ちを挑んだのは死に場所を探していたのかも。


「私、暗部。引き継いでない」

「そうですか。それは困りましたね。あなたのいう事を疑っている訳ではないのですが、大半の人間は信じないでしょう」

「リトワース人、今どこ?」

「少数を除いて、この国とトナークに居ないのは確認が取れています」

「どうしてほしい」

「問題を簡単にするために魔法都市に留学してほしい。そして、結婚適齢期になるまで勉学に勤しんでほしい」

「最後。聞きたい。魔道具の一件は?」

「無茶な事を言えば暗部が出てくると思ったのです」


 ああ、暗部の所在を突き止めたかった訳か。

 結婚適齢期になるまで戻ってくるなって事は婚姻政策するつもりだな。

 それまでは猶予がある。

 その時に結婚相手をミニアが嫌がれば何かできるだろう。

 承知する手だな。


 俺は伝言で承諾しろと言った。


「分かった」


 貴族の反応が色々だったのは情報がある人とない人がいるからだ。

 ただ単にミニアに貴族みたいな顔をして欲しくない者。

 リトワースの残党の危険性に気づいた者。

 ドラゴンを危険視している者。

 色々だったに違いない。

 留学するなら戻ってくるまで貴族の心配は要らないな。




 俺は魔道具をはやばやと渡してしまう事にした。

 どうせ疑われているんだ。

 リトワース人が作った事にしてしまっても問題ない。

 魔道具の受け渡しの場所として城の前庭を指定した。

 受け取る役人は見るからに目つきが鋭くて、堅気ではない印象を受ける。


 俺はアイテムボックスを開いて魔道具を出した。


「驚いた。参考までに聞かせてほしい。魔道具の受け渡しはどこでやった。国境まで飛んだ時にか」

「会ってない」

「そりゃあ、簡単に手の内は明かされないよな。噂の秘伝、姿隠しの面目躍如かな」

「違う」

「ドラゴンを従える術はリトワースの秘伝かい」

「違う。ドラゴン的。友情」

「数々の魔法行使も秘伝かな」

「違う。ドラゴン的。秘術」


「まいったね。嘘が見抜けない。全部本当に見える」

「じゃ」


 姿隠しはリトワースの秘伝だったのか。

 盗賊には教えたのに。

 きっと隷属していたのだな。

 裏切れない人間だけに教えたのだろう。




 それよりもリトワースの暗部をどうするかだ。

 宰相が返答によっては刺客を放つと言っていたが、それが暗部のことだったんだな。

 どこかで宰相とは話をする必要がある。

 ミニアが本気で建国するなら暗部は必要だろう

 だが、嘘がばれると厄介だ。


 宰相はミニアの事をユフィレーヌの子供だと思っているのに違いない。

 母を殺してまでして止めた。

 そんなストーリーが今頃できている気がする。

 こころざしを受けついだとは言ってあるが。

 何時かばれるな。


 側近は絶対リトワース人以外を起用する。

 これしかないな。

 暗部の頭も信用できるリトワース人以外の人を使う。

 なんとかなりそうな気になってきた。

 なんとかなるかな。


 結婚適齢期の十五歳まで五年は掛かる。

 それまでにはなんとかなると思いたい。

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