第35話 大湿原の脅威

 夜が明け大湿原に霧が立ち込める。

 乳白色の世界だ。

 俺は岩に当たろうが雑魚の魔獣に噛み付かれようが屁でもないが、どうしたもんだろう。


「痛っ。誰だよ穴掘った奴。足をくじきそうになっただろう」


 『不壊の鎖』のリアムが転がり、ぷりぷりと怒った。

 すいません。

 それやったの俺です。

 ストーンウォールで埋めときゃ良かったかな。

 そうだ、土を消す魔法は落とし穴に使えるな。

 魔力の関係で大穴は作れないけどな。




「良いわね。希少薬草も採り放題よ」


 アニーが霧を見てそうのたまった。


「私は反対よ」


 リタリーが反対意見を述べる。


「俺らは霧ぐらいなんともないが」


 リアムが言い、ニコも頷いた。


「待ってよ。僕は反対だ。危険は冒すべきじゃない」


 ランドが待ったを掛ける。


「当然、グバートは反対してくれるわよね」


 俺に喧嘩を売ったやつはグバートというのか。

 リタリーがグバートの口が開きかけたのを見て言った。


「さん、いや。反対だ」


 これで三対三か。

 ミニアに注目が集まる。


「ウィザ。無敵。問題なし」


 ミニアの一言で行動する事が決まった。


 俺に乗り冒険者達とアニーは大湿原を行く。

 俺が歩く水音以外の音は聞こえない。

 不気味だな。

 アメリカ映画なんかだとでかい蛇とかが探検隊を一人ずつ飲み込むんだけど。

 フラグだったのか俺の尻尾が何かに食われた。

 痛くはないんだが、くすぐったい。

 尻尾を跳ね上げる。

 尻尾の先にはワニの魔獣がぶら下がっていた。

 ふてぇ野郎だ。

 ファイヤーボールの魔法を撃って黒焦げにする。

 これが合図になって無数のワニが水面に顔を出す。

 俺の赤外線が探知できる第三の目にはばっちりと見えた。


「ミストアリゲーターよ」


 リタリーが魔獣の名前を教えてくれる。

 見えない敵にはこちらも見えない攻撃だ。

 エアカッターを作って攻撃した。

 何匹かは霧の動きを察知して潜ったが、問題ない。

 水の上に出て人間を攻撃しないのならば見逃しても良い。

 水面が真っ赤な血に染まる。

 勿体ないので屍骸はアイテムボックスに収納。

 まあざっとこんな物だ。


「ミニアちゃん。最高。見えない敵にも当てるコツ教えて」


 リタリーがミニアを片手で抱きしめ言った。


「ドラゴン的。勘」

「えー、ドラゴンになんなきゃ駄目なのかよ」


 リアムが呆れた。


「ドラゴン的。愛」

「愛がなんで関係ある。それよりさっき詠唱してないだろ。どうやったんだ」

「ドラゴン的。秘術」

「もう良いよ」


 駄弁ってないでとっととこの物騒な場所を離れますかね。

 浮島が前方に見える。

 当然上陸する。

 浮島には真っ赤な花が咲き誇っていた。


「みんなも手伝って。全部摘むのよ」


 アニーがそう言って皆を急かした。

 花が六割ほど摘まれた時、霧が晴れていく。

 さっきまでの視界の悪さは何だったのかというぐらいあっけなく視界が確保された。

 赤い花が一斉に蕾み地面に引っ込んだ。

 おおっ霧の間だけ地面から顔を出すのだな。


 アニーはホクホク顔で赤い花をポーションにした。

 魔力が残り少なくなったのだろう。

 真剣な顔でミニアに詰め寄る。


「お願い。アイテムボックスに入れて。入れさせて下さい。一生のお願い」

「分かった」


 俺はアイテムボックスを開いてやった。

 赤い花がアイテムボックスに消えて行くたびにアニーの顔が綻ぶ。


「ちなみに、あの赤い花っていくらなんだ」


 リアムが聞いた。


「一本銀貨一枚ね」

「一本で一食分かよ。さっきので金貨十枚は稼いだんじゃないのか」

「ええ、遠征費用が出てお釣りも出るわ」

「俺、錬金術士になろうかな」

「馬鹿ね。そうそう美味い話ばかりじゃないと思うわ」


 リタリーが突っ込みを入れた。


「ワニ。忘れてる」


 ミニアも呆れ顔だ。


「あれが蹴散らせないといけないのか。難問だな」

「さぁ、ばんばん薬草採るわよ」


 アニーが話を締めくくった。


 俺達は探索を再開。

 微かに美味そうな香りのする浮島に冒険者達とアニーは上陸した。

 ドラゴンの本能が食欲を告げる。

 浮島が猛烈に食いたい。

 どうしたんだ地面が食いたいなんて。


 冒険者達は浮島のアニーの指示で薬草を採っていた。

 その時浮島に地割れが走る。

 そして、アニーが呪文を唱えた。


「ソクチス・ソリラカクイトガアワワワムレ・

ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・

モチキニソ・けモセレ・

モセほモチキニソろモチノイゆソリラカクイトネトニツイラハゆソリラカクイトよネニモチキイソリラカクイトよレ・

テクニリイゆヌよが・

モチキニソろリニハカゆモセネヌワワよレ・む・む」



 アニーだけが一メートルぐらい浮かぶ。

 首を伸ばしミニアを口に咥えて、急いで解析する。

 魔法はこんなのだと思う。


char clothes[3000]; /*たぶん服*/

void main(void)

{

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 mp=magic_make(clothes,sizeof(clothes),IMAGECLOTHES); /*服だと思うを魔法に登録*/

 while(1){ /*無限ループかな*/

  magic_lift(mp,100); /*100センチ浮かび上がらせるんじゃないか*/

 }

}


 急いで解析したので推測が多くなった。

 でも、これならこうやれば。

 俺は即興でストーンウォールを浮かばせる魔法を作った。

 それを発動。

 水に飲み込まれる前に冒険者達を石の板に避難させる事が出来た。

 地面が完全になくなる。

 ミニアは首を伝っていつもの羽の根元に収まった。

 むっ何かいるな。

 亀だ。

 無数の4メートル程の亀が寄り集まって浮島に擬態していた。

 アニーは服に吊り下げられ足が水面に近くなって今にも食われそうだ。


「こら、首を伸ばすな。私は美味しくない。筋ばっかりだぞ」


 可哀相なのでアニーを口に咥え石の板に降ろしてやった。

 亀は水面から石の板を突いていたがしばらくして諦めた。

 ふぃー、危機一髪だな。

 そりゃ、美味しそうな匂いがするはずだ。

 亀、美味いもんな。

 森にもブレスを吐く陸亀がいたが美味かった。


 ちなみに魔法のイメージはこうだ。


void main(void)

{

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 mp=stone_wall_make(1000); /*3メートルの石の板を作る*/

 while(1){ /*無限ループ*/

  magic_lift(mp,100); /*100センチ浮かび上がらせる*/

 }

}


「がはは。凄げぇな。俺ちびっちまったぞ」

「そうだね。僕も驚いた」

「あのぐらいでは俺様はびびらない」


 『不壊の鎖』の面々が言った。


「ありがとよ」


 グバートが短く感謝の言葉を述べた。


「ミニアちゃんの魔法、最強ね」


 とリタリーが感心した様に言い。


「ドラゴン的。魔法」


 ミニアが俺の背中で自慢気に言った。


「大湿原、舐めてたわ。薬草の宝庫なのに誰も行かないはずよ」


 アニーが着衣の乱れを直しながら言った。


 大湿原は中々びっくり箱だ。

 楽しませてくれる。


 あの亀、普段は何を食ってるのかな。

 たぶん陸地で休みを取る水で暮らす動物がいるのだろうな。

 あの島自体が疑似餌みたいな物じゃないかな。

 気が長い事だ。


 さて、奥地は何が出てくるかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る