第17話 バーベキュー

 必殺低温ブレス。

 俺はギガントボアの串肉に向かってブレスを吐いた。

 肉はじんわりと焼き上がっていく。

 いっちょあがり。

 召し上がれ。


「美味」

「ガハハ。滅茶苦茶うめぇ」

「ほんとほんと」

「むっ、ドラゴンにこんな特技があるなんて恐れいったぜ」

「本当よね。ドラゴンの生態は秘密のベールに包まれているわ」


 そりゃ美味かろう。

 ドラゴンは基本が食っちゃ寝だから、娯楽なんてない。

 俺はいかに上手く肉をブレスで焼けるか研鑽を積んだ。

 温度を押さえるブレスを吐くのが実はコツ。

 お客さんは『不壊の鎖』の面々と『連撃のリタリー』さんだ。


 どれ俺も味見するか。

 ギガントボアの肉はしっかりと火が通っているわりには硬くなっておらずふんわりと仕上がっている。

 噛むとじゅわっと肉汁が口の中に広がる。

 独特な肉の甘みがありそれに掛けられたミニアが買って来た甘辛いタレが良いハーモニーを奏でていた。

 美味いぞー。

 おっとまた吠えそうになった。

 ドラゴンの世界に調味料は存在しないからとっても新鮮な気分だ。


「改めて、よろしく。リタリーよ。ドラゴンさん」

「ガウ」


 俺は短く返事した。


「今日来たのはね。竜言語魔法について調べたかったのよ。あなたに言っても仕方ないわね」


 何っ、竜言語魔法だって。

 ドラゴン特有の魔法があるのか。

 非常に楽しみだ。


「もっと、詳しく」


 俺は我慢できずたまらなくなって魔法を使い文字を空中に出した。


「これ、何っ。これが竜言語魔法」

「竜の声。代弁」

「ミニアちゃん。あなたがこれ出しているの」

「そう。喋るの。苦手。だから」

「うん良いのよ。それより、詠唱してないわよね。どうやっているの」

「秘術」

「秘術じゃ仕方ないわね」

「竜言語魔法の事を早く話せ」

「ミニアちゃん。魔法だとばかに偉そうね。まあ、いいわ。竜言語魔法ってのは古代の文献に記載がある魔法なの」

「具体的には何が出来る」

「そこが分かっていないのよ。強大な力としか書かれてないわ」

「なんだ、がっくし」

「ミニアちゃんはあると思う?」


 考えた。

 竜生の中で一度もそれらしい能力は使ってない。

 でもあったら良い。


「ロマンだ」

「そうなの。ロマンなのよね。ミニアちゃん可愛い」


 そう言うとリタリーはミニアを抱きしめた。


「く、くるしい」

「照れちゃって。嫌がるミニアちゃんも可愛い」


 百合か。リタリーは百合なのか。

 でもドラゴンのせいかちっともたぎらない。

 魔法を一つ進呈する事にした。


「竜言語の情報を貰ったお礼だ。この呪文で空中に文字が出せる。『ヒラニシ・モチニミゆニミカ・チスキソネソクチス・けチスキヒガムよ・が・セスニミカハゆチスキヒガヌムよレ・む』だ。使い方は呪文を詠唱したら浮かべたい文字を念じるんだ」


「もう、お礼なんて良いのに。でも受け取っておくわ」


 リタリーは紙とペンを出し空中に出た呪文を書きとめた。


「そっちの用は済んだみたいだな。今度は俺の番だ」


 ええっと、確かリアムだったっけな。


「何の用だ」

「腕試しがしたい。俺の魔法の的になってほしい」

「いいだろう」

「よっしゃ、そうこないと。行くぜ。ヒラニシ……む」


 リアムから火の玉が発射された。

 この呪文には覚えがある。

 たしか三倍ファイヤーボールだ。


 俺は余裕を持って火の玉を受けとめる。

 火の玉は腹に当たり消えた。


「やっぱり駄目か」

「気を落とすな。お前の魔法は参考になった。活用させてもらっている」

「ちんまい、嬢ちゃんに言われてもな」


「肉食え。どんまい」


 ミニアが生暖かい目でリアムを見る。


 『そうよ。私の十連撃でも刃が立たなかったんだから、気にする事もないわ』と文字が空中に出る。

 リタリーがやったのか。

 詠唱していなかったけど、どうやっているんだ。


「その文字はどうやった」

「あなたと同じよ。魔道具を作ったわ」


 俺がファイヤーボールを受けていた時にこそこそ詠唱してると思ったら魔道具を作っていたのか。

 詠唱、聞きそこなった。


「魔道具って何だ」

「またまた、惚けちゃって。良いわ教えてあげる。魔獣から取れる魔石に魔法で詠唱を書き込むと作れるの」

「便利だな」

「そうでもないわ。魔力コストが三十までの魔法しか書き込めないのよ」

「呪文を教えろ」

「いいわ。教えてあげる」


 そう言うとリタリーは紙に呪文を書いた。

 どれどれ。

 俺は紙を覗き込んだ。

 『ヒラニシ・モチニミゆニミカ・チスキソネソクチス・けチスキヒガムよ・が・

モチキニソ・けモセレ・

モセほモチキニソろカララリろニミニカゆチスキヒガヌムよレ・

モチキニソろカララリろテスニカイゆモセネふここに呪文を入れるふよレ

モチキニソろカララリろソラモセニリイゆモセよレ・む』と書いてある。


 イメージは。


void main(int argc,char *argv[])

{

 MAGIC *mp; /*魔法の定義*/

 mp=magic_tool_init(argv[1]); /*魔石を魔法として登録*/

 magic_tool_write(mp,"ここに呪文を入れる"); /*呪文書き込み*/

 magic_tool_compile(mp); /*呪文を実行できる形にする*/

}


 こんな感じだろう。


「なんで、ドラゴンが呪文を書いた紙を見るのよ」

「さぁ、興味があるんじゃないか」


 俺は惚けた。


「そうなの。ドラゴンの生態って本当に謎ね」

「謎。分からない」


 ミニアが言った。


「ちょっと考えてみたんだけどこの魔道具便利よね。耳の聞こえない人とかに需要があるんじゃないかしら」


 みすみす儲けの種をあげちゃったか。

 失敗したかな。


「大量に売り捌くのか」


 俺は文字を浮かべた。


「まさか、秘術の呪文なんて他人には教えられないわ。私が暇な時にコツコツ作って小遣い稼ぎよ」


 著作権なんてある訳ないか。

 これからは呪文を教えるのは慎重にいこう。


「また呪文を教えてくれよな」

「そうね、また来るわ。今日はご馳走様」

「俺達もまた来るぜ」

「嬢ちゃん、冒険者、頑張りな」

「何かあったら、僕に気軽に相談して」


 お客さん達は帰って行く。


「さよなら」


 ミニアが手を振る。

 俺も手を振ってやった。

 リタリーの顔が驚きの顔に変わる。

 竜言語魔法は信じているのにドラゴンに知能があるなんて信じていないのだろうな。

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