第6話 SIDE:ギルドマスター ドラゴン現る

 わしは辺境都市ヤオマクの冒険者ギルドマスターのチュアランじゃ。

 臆病なわしは過酷な冒険者生活を危ない場面から逃げる事で乗り切った。

 Cランクで引退したわしはギルドに就職。

 そこで得意の危機を嗅ぎつける嗅覚を使い出世する事に成功。

 そして、ギルドマスターまで上り詰めた。

 わしのモットーは『君子危うきに近づかず』じゃ。

 辺境の冒険者ギルドは一攫千金を夢見る若者でごった返していた。

 今日も平和でなにより。


「大変だ! ドラゴンが現れた!」


 カウンターの後ろで椅子に座りふんぞり返っていたわしは引っくり返った。

 なんだとー。

 あいつらはEランクパーティの『青きたてがみ』。

 どうせ勘違いだろう。

 まったく年寄りをもっと労わらんかい。


 もしもの事があるので耳を澄ます。

 何々ファイヤーボールを撃ったが尻尾でなぎ払われただと。

 ふん、どうせビックリザード辺りを見間違えたのじゃ。

 森の浅い所にドラゴンなど出てくるものか。

 出てくるとしたら魔獣が沢山いる最奥じゃ。

 10メートルあったのもきっと見間違えじゃ。

 臆病者は寡兵も大軍に見えると言うしのう。




 一週間後。


「大変よ。ドラゴンよ」


 またもや引っくり返ったわしは腰をさすって起き上がった。

 今度はDランクパーティの『黄金の牙』か。

 ふんふん、泥を被り見えにくくしていたとな。

 これは、もしかするともしかするぞ。

 ドラゴンは賢い。

 昔の報告には姑息な手を使ったという例もある。




 それからドラゴン出現の報告は相次いだ。


 Fランクパーティの『折れない剣』からは視線をなぜか感じるので振り返ったら、黒山に目が有ったと報告が。

 Eランクパーティの『剛撃の斧』からは魔法使いが魔法を使ったら生臭い息を感じたと。

 Eランクパーティの『不壊の鎖』からは小山に三連続弾を撃ったが通用しなかったと。

 その他にも怪物を見たという報告は山ほどあった。

 困ったもんじゃ。


 決定的じゃったのはCランクパーティの『光輪の鋭刃』の報告じゃ。

 なんとファイヤーボール十連続弾を受けても無傷だったらしい。

 わしの任期ももうすぐ終わるというのにドラゴンの奴どうしてくれよう。




 そうじゃ。


「ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・

カイリ・けカセレ・

カセほカラセイミゆふトスチミノふよレ・

カセスニミカハゆカセネふ「緊急事態。ドラゴン現る」ふよレ・

カソリラトイゆカセよレ・む」


 と唱え魔法で伝言を飛ばした。

 しばらくして『明日、戻る』と頭の中にイメージが浮かび上がった。

 これで安心じゃ。




 次の日。

 Sランクの『一撃のザンダリル』がギルドにやって来た。


「浮かない顔ですね。そんなにそのドラゴンは強いのですか」


 ザンダリルがわしに問い掛けた。


「ファイヤーボール十連続弾でも無傷だったそうじゃ。ちまたでは魔法使い殺しと呼ばれている」

「そんなに大勢の魔法使いが喰われたのですか」

「いや犠牲者は一人も出ておらん。魔法使いがみんな自信をなくしてしまってのう」

「なるほど、ドラゴンにとっては遊びなのかも知れません」

「とにかく頼む」

「承知しました。吉報をお待ち下さい」


 ザンダリルは意気揚々とギルドを出て行った。

 心配じゃ。

 わしは何回もカウンターの後ろを行き来する。

 その行為を何十回と繰り返した時に『終わった』とイメージが届いた。

 やったか。


 しばらくしてギルドにザンダリルが晴れやかな顔で現れた。


「すいません。駄目でした。引き分けだったのかな。いいや相手にはまだ余力がありそうだったな」


 ザンダリルは報告とも独り言とも取れる言葉を洩らす。

 駄目じゃったか。

 こうしちゃおられん。

 領主にも声を掛けて討伐隊を編制しないとまずいのじゃ。


「ああ、言っておきます。討伐隊は止めておいた方がよろしいかと」

「そんな事をいっても面子がじゃな」

「一応忠告はしましたよ」

「分かっておる」




 わしは各所に魔法で伝言を飛ばし始めた。

 これで上手くいくと良いんじゃが。

 わしの嗅覚では危険はないと出ておる。

 一週間後に討伐隊は出発。

 それから、何日もわしは眠れぬ日々を過ごした。

 そして、遂にある日、伝令がギルドの中に入り声を張り上げた。


「ドラゴン発見できず! 繰り返します! ドラゴン発見できず! 隊は引き返すそうです。伝言の魔法がありました」

「ご苦労じゃった。帰還を歓迎すると伝えるのじゃ」


 わしはどっと疲れが押し寄せたように感じた。

 まいった、討伐隊の費用はどうしてくれよう。

 ドラゴンの財宝をあてにしとったんじゃがな。

 借金か、また借金が増えるのか。

 歴代ギルド長の中で一番の無能と言われる日も近いんじゃないじゃろか。

 うっきー、また髪の毛が抜けおったわい。

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