第3話 十連続弾

 気持ち良い朝だ。

 巣穴の最奥の宝物庫にちらりと目をやる。

 宝物庫には集めたガラクタが無造作に転がっている。

 ドラゴンについては謎な事がある。

 金貨とか見ると集めたくなるのだ。

 でもしばらくしたら飽きる。

 その次は綺麗な石とかその次は武器とか興味がころころと変わる。

 骨を集めたくなった時もあった。

 この本能は何だろね。

 せっかく集めてもったいないので捨てられない。

 宝物庫は広がる一方だ。

 でも、なんか呪文を集め始めてから、興味が呪文一辺倒になってしまった。

 コレクターになる呪いでも掛かっているのかな。




 つるつるした岩肌の横穴からのそりと這い出る。

 横穴は僅かな勾配があり出口に行くに従って若干低くなっている。

 水が横穴に入り込まないための仕掛けだ。

 そして横穴は突如剣山地帯に変わる。

 そして穴の向きは縦穴に変化して地上に通じている。


 今日は獲物が剣山に刺さってないな。

 たまに馬鹿な獲物が落ちて剣山に刺さっている事がある。

 狩りの手間が省けるので重宝している。

 自然にはこんな都合の良い洞窟なぞ存在しないのは誰にでも分かると思う。

 この自慢のねぐらは俺が作った。


 どうやって掘ったかと言えば胃液で溶かした。

 ドラゴンの胃液は岩をも溶かすのだ。


 胃液を自在に口から出す技はブレスの効きが悪い敵に会った時に覚えた。

 その敵に本能で胃液のブレスを吐いて退治したんだ。

 俺もその時、非常に驚いたのを覚えている。

 岩を纏った敵だったのでこの能力を使えば岩盤に巣穴を掘れると分かった。

 それで、成長に合わせてちまちまと巣穴を拡張した。


 縦穴を這い登り、入り口に被せてあるシダを頭で退ける。

 5メートルを越える葉っぱなんて物があるのがさすが異世界だな。

 このシダは怪獣シダと名前をつけた。


 外の眩しさに瞳孔を細める。

 今日は何か発見できそうな気がする。


 朝の冴えた頭で着火の呪文を考える。

 呪文の一行の区切りには『レ』がでてくる。

 『ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・

モチキニソ・けモセレ・

モセほハニスイろコチリリろモチノイゆヌよレ・む』という着火の呪文は『レ』が二回出てくる。


 『ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・

モチキニソ・けモセレ・

モセほテチカイスろコチリリろモチノイゆヌよレ・む』という生水の呪文も『レ』が二回出てくる。


 最初の『レ』の前は初期設定ではないだろうか。

 『モチキニソ・けモセレ』の部分が着火と生水で同じだ。

 たぶん初期設定。

 というか定義じゃないかと思ってる。

 こういうのはお約束だから、決まりきった書き方になる。

 意味はあるんだが、あまり意味を追求しても仕方がない。


 イメージにしてみる。


void main(void)

{

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 mp=fire_ball_make(1); /*火の玉生成*/

}


void main(void)

{

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 mp=water_ball_make(1); /*水の玉生成*/

}


 こんな感じではないか。

 イメージだからコメントをつけた。

 『/*』と『*/』の間がコメントだ。

 要するにメモだ。


 こうなったのは着火の呪文は『ハニスイろコチリリ』の部分がファイヤーボールを撃つときの呪文と同じだからだ、

 イメージでは構造体を定義している。

 構造体ってのはデータの塊だ。

 想像だが、『mp』には魔力の大きさや魔法の位置情報や状態などが入っていると思われる。

 イメージだから気にしない。


 魔法って色々出来るんだな。

 奥深い魔法をいつか全てを解き明かしたい。




 考えたら腹が減ったので朝飯を調達する事にした。

 滑空して上空から地上を眺める。

 牙がいかついサイに似た生き物が地上を歩いているのが見える。

 俺は翼を畳み急降下。

 地表近くに迫った時にブレスを吐きサイを仕留めた。

 反転して再びギュンと空中を駆け上がり速度がゼロになった所でふわりと落ちる。

 そして、仕留めた獲物の側に着陸。


「ギャオ(いただきます)」


 獲物をこんがり焼いて丸呑みする。

 ドラゴン的には大変満足だ。

 しかし、人間的には調味料とか料理してほしいと欲求が頭をもたげる。

 そのうちそこら辺もなんとかしたいな。



 もう一狩り行くかと上空を飛んでいる時に声が聞こえた。


「おら、ドラゴン出てこい! 俺達が退治してやる!」


 大声で叫んでいる男性が居る。

 傍らには魔法使いと思われる女の子。


 俺は滑空して音もなく男性の前に着陸した。


「リタリー出番だ」

「行くよ。ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・

ニミカ・ニレ・

ハラスゆニほワレニねヌワレニれれよが・

ハニスイろコチリリろカイトカゆよレ・む・む」


 新しい呪文だひゃっほい。

 『ハニスイろコチリリろカイトカゆよレ』だから、何時ものファイヤーボールだな。

 ファイヤーボールが発射され、俺の体に当たって消える。

 消えると次が発射された。

 三回を越えた時、段々と興奮してきた。

 あと何回続くのかな。

 六回を越えた時には感動のあまり尻尾をびたんびたんと地面に叩きつけてしまった。

 魔法使いの女の子が少し喜んだように見える。


 そして十回目のファイヤーボールを余裕で受け止める。

 女の子は涙目になった。

 反対に俺は元気になった。

 これは画期的だぞ。

 呪文の長さは三連続弾と変わりないのに十回か。

 後でゆっくり分析しよう。




 俺はもっと撃てとばかりに前足を広げて、掛かって来いと手招きした。

 女の子は唖然とすると何を思ったのか俺を素手でぽかぽか殴り始めた。

 どうすりゃ良いんだこれ。


「ギャオ」


 俺は短く吠える。

 我に返った女の子は後ずさり。


「すみませんでした」


 そう言うと男と一緒に一目散に逃げ出した。

 思うに自信があった攻撃だったんだろう。

 たぶん十回もファイヤーボールを撃てるのはかなり凄いとみた。

 天狗の鼻をへし折ったかな。

 可哀相な事をした。




 さてと、解析だ。

 気づいたんたが、ドラゴンは記憶力が良い。

 なぜなら、今まで喰った兎の数も全て覚えている。

 当然さっきの詠唱も余裕だ。

 まず注目すべきは『む』が二つある所だこれは終わりが二つある事を示している。

 二つという事は十回の繰り返しの終わりが一つ、全体の終わりが一つで二つだ。

 始まりの『が』も二つあるこれも繰り返しの始まりと全体の始まりで二つなのだろう。


 『が』と『む』に挟まれた『ハニスイろコチリリろカイトカゆよレ』という文言。

 『ハニスイろコチリリろカイトカゆよレ』はファイヤーボールだと分かっているから、イメージにするとこんな感じか。


void main(void)

{

 int i; /*物をカウントするもの*/

 for(i=0;i<10;i++){ /*10回繰り返し*/

  fire_ball_test(); /*火の玉生成*/

 } /*繰り返し範囲の終わり*/

}


 『for』というのは繰り返しだ。

 この場合10回繰り返しになる。

 0から9まで繰り返して10回というわけだ。

 1から始まるよう書くとこんな具合だ。


 『for(i=1;i<=10;i++){』とこうなる。

 こういうのも一命令毎に意味はあるんだが、決まり文句なので形で覚える。


 まあイメージだから。

 細かい事は説明しない。

 うん、魔法もだいぶ分かってきたな。

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