ー 雪壁 ー
真夜中。深夜と明け方のちょうど中間くらいだろうか。子供の頃体験した時と同じ、柔らかな雪が、私と同じ形にぬけた。
仰向けになり、すこしばかり身じろぐ。周りには小さな雪の壁。
私は身ひとつで、手近な大自然に飛び込んだ。
ただあまりにも手近なので、人に見られてはなるまいと、着古したスウェットの上下をネルシャツとジーンズに変えた。極め付けに、外行きのジャケットを羽織って家を出た。思い出しては妙に冷静な自分に笑えてくる。それを嚙み殺した吐息さえも、冬は白く変えてしまう。
夕方にびゅうびゅうと吹いていた風は、今は音もなかった。粉雪とも牡丹雪ともつかぬ雪が、ただ、深々と、辺りを埋め尽くしていた。
雪は、誰の味方でもなく、また敵でもなかった。私は大きく息を吸い、細く長い糸を作るように吐いた。お湯が沸いたやかんのように、蒸気機関車が煙るように、息が凍った。
透き通った冬の夜は、淡々と時が過ぎてゆく。私はそれが好きだった。そこに全てを委ねれば、すこしは格好良くなれるだろうか。私も、白く、染まれるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます