ー 雪壁 ー

真夜中。深夜と明け方のちょうど中間くらいだろうか。子供の頃体験した時と同じ、柔らかな雪が、私と同じ形にぬけた。

仰向けになり、すこしばかり身じろぐ。周りには小さな雪の壁。

私は身ひとつで、手近な大自然に飛び込んだ。

ただあまりにも手近なので、人に見られてはなるまいと、着古したスウェットの上下をネルシャツとジーンズに変えた。極め付けに、外行きのジャケットを羽織って家を出た。思い出しては妙に冷静な自分に笑えてくる。それを嚙み殺した吐息さえも、冬は白く変えてしまう。

夕方にびゅうびゅうと吹いていた風は、今は音もなかった。粉雪とも牡丹雪ともつかぬ雪が、ただ、深々と、辺りを埋め尽くしていた。

雪は、誰の味方でもなく、また敵でもなかった。私は大きく息を吸い、細く長い糸を作るように吐いた。お湯が沸いたやかんのように、蒸気機関車が煙るように、息が凍った。

透き通った冬の夜は、淡々と時が過ぎてゆく。私はそれが好きだった。そこに全てを委ねれば、すこしは格好良くなれるだろうか。私も、白く、染まれるのだろうか。

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