生配信7 サーバーの象徴
「どうも、今日もゲーム配信。配信者はお馴染みTakiチャンネルの滝です」
『どうも!』
『ばんは!』
『こんばんは!』
コメント欄には挨拶の文字がずらっと並んでいる。
「はい、リスナーの皆さんこんばんは」
挨拶には挨拶で返す。これは配信でも日常でも変わらない。
なんてまるで常識人みたいなことを思ってみたりして!
「はい、ええっとじゃあ、マイクラ配信をしていきたいと思います」
『待ってた!』
『早く早く』
『夜こそは!』
急かしてくるリスナーさん達。わかってますよ。でもまずは、
「昼配信でお伝えしたと思うのですが、改めて配信内容を説明していきます。この夜配信はリスナー参加型配信です。昼はね、リスナーさん達に家を作ってもらいました。例えば、これね」
俺はサーバーに入り、昼間作ってもらった城のような家を見せる。確かこれは『優』の評価も貰った建築物だ。
『城じゃん』
『優秀作品じゃん!』
『これはすごい』
昼配信を見ていた人、見れなかった人に紹介していく。
「そうなんですよ。昼配信見ていた人には分かると思うんですけど、見れなかった人にお伝えすると、これは2時間で1人のリスナーさんによって作られた家です」
あの少ない時間で城を作り上げてしまうリスナーさんは、本当に凄いと思う。作っている過程をちょっと見てみたかった。
「次の家作品は、このドーム型の家」
『可』の評価を受けた作品も見せる。どっちも俺では作れない作品なので、このまま一生残しておくつもりだ。
ドーム型の家を紹介し、元いた場所に戻ろうと歩いていると、1人のリスナーさんが気づく。
『クレーターがなくなってて草』と。
1人が気づくと、2人、4人とだんだん増えていく。
『直したの?』
このコメントが目に入り、俺は説明をする。
「俺は直してないよ。直したのは聡太さん」
『詳しく』
『マジか』
『1人で?』
詳しく説明して欲しいらしく、あった出来事を全て話す。
電話をしてきたこと。聡太さんが暇人化していたこと。サーバーに入り、1人で黙々と穴を埋めていたこと。全てだ。
「無くてもいい穴だから、全部埋めてもらった。1番被害が大きかったサキサキさんのファンの家の跡地、あれが1番キツかったって」
それはそうだ。だってあれが1番TNT置いてあったもん。爆破の後、めちゃくちゃカクカクしたし。
で、話を戻そう。
「昼配信で、夜何やるかって話になって、サーバーの象徴を建てようって話になりました。なので、また30人配信に参加して頂きたいと思っています。サーバーパスワードは配信画面に載せるつもりです。参加していただける方は打ち込みの用意をお願いします」
パスワードを用意しているうちに気づく。
「そう言えば、昼配信に参加した人は、夜配信に参加しないでくださいね」
そう伝え、パスワードの用意を終わらせる。
「もう用意できましたかね?」
『できた』
『できた』
『できた』
『できた』のコメントが連続で流れていく。じゃあ、準備はオーケイね。
「それでは、3、2、1のカウントダウンで表示していきます。3、2、1、はい」
表示した途端に、30人がサーバーに入ってくる。
「はい。終わりですね。今日はこの30人のリスナーさんと『マイクラ』配信して行こうと思います」
『入れた!』
『入れた』
『次の機会狙う』
「入れなかった人は残念ですが、よろしければ見て楽しんでいってください。じゃあ参加してくれるリスナーさん達は、その場で横1列に並んでください」
俺の指示で横1列に並んでくれるリスナーさん達。昼に控えていた昼配信参加者の名前と、今いる30人の名前を比較する。
んんっと、1人もいないね。ダブりは。
「はい、ありがとうございます。昼配信に参加した人はこの中にはいないようです」
『本当に?』
『俺は見る側に回ってる』
『俺も』
「はい、本当です。名前をね、確認したから。まあ、名前を変えられたり、違うアカウント使われたりしたら分かんないけど、そんな人は俺のリスナーにはいないから」
『そ、そうだよね(汗)』
『俺は考えてなかったよ(目を逸らす)』
『俺も(目が泳ぐ)』
「汗かいたやつ、目を逸らしたやつ、目が泳いでいるやつはブロック対象だよ。気をつけたほうがいいよ」
『あわわわわ』
『ブロック草』
『簡単にブロック草』
まあ、そんなことはしないんだけどね。
コメント欄と戯れていると、マイクラのチャット欄で『今日は何作るの』と質問される。
昼配信見れなかった人かな? じゃあ説明して行こう。
「今日何作るのか質問されたので、お答えして行こうと思います」
チャット欄では、昼配信見た人が見ていない人に説明をしている。
「今日はこの滝サーバーの象徴、大っきい俺の像を作っていきます。今、画面に出すね」
サーバーパスワードを消して、昼配信後に撮った俺の全体写真を表示する。
「これが俺の全体写真。この全体写真を見ながら俺の像を作っていきます。ちなみに、主に使うブロックは決めています」
緑色のブロックに黒色のブロック、石のブロックなどなど10種類のブロックを置いていく。
「これが主に使うブロック。主に、だから。もし、色が足りないとか、この色違うんじゃないとかあったら、臨機応変に対応していただけると嬉しいです」
『TNTがない』
『マグマなくない?』
『爆破要素が足りない』
「俺の全体写真見た? TNTとかマグマとか必要ある? それに爆破要素はなくて当たり前です。爆破する予定ないもん」
リスナーさん達と絡みすぎると時間がなくなるので、そろそろ作業を開始する。
「じゃあね。この広い、凹凸もない真っ平らな場所で作って行こうと思います」
チャット欄で『了解』『はーい』とちゃんと返事を送ってくれるリスナーさん達。送ってくれるということは、配信見ながら参加してくれているようだ。
「じゃあ、まずは土台である足を作っていきましょう!」
こうして、俺の像作りが始まる。
まずは、先ほども言った通り、足から。
「足はね、縦6横6に高さ4で良いんじゃないかな? もちろん黒ブロックで」
俺の配信を見ながら参加してくれているので、30人のリスナーさん達はすぐさま動いてくれる。
「中には何も詰めなくて良いよ。空洞のままで」
チャット欄には『はーい』の3文字。
『中に何も詰めないの?』
『時間がかかるから?』
『詰めようよ』
コメント欄は空洞のままが嫌らしい。
「空洞のままじゃあ、ダメ?」
『手抜き』
『手抜き』
『手抜き』
1人が『手抜き』と打つと、みんな打ち始める。
別に中にブロック詰め込んでもいいけど、かなり時間かかると思うんだけどな。
「じゃあ何を『終わった』ん? 何が?」
『手抜き』コールの中、1つだけ『終わった』と打ち込んでくるリスナーさん。
何が終わった? 何が終わったの?
配信が止まったのかと思い、スマホで自分の配信を検索する。検索結果を見ると俺の配信は止まっておらず、見ることができる。
じゃあ何が終わったのだろうか。と思っていると、チャット欄で同じ文字が打たれていることに気づく。
「え? もう終わったの?」
作り始めて3分も経っていない。リスナーさん達が作っていた場所を見ると、確かに俺が指示した通りののが出来上がっていた。
「早」
『早』
『早』
『早くて草』
俺的にはもっと時間がかかると思っていたので、ちょっと驚き。
出来たものを、真上から見てみる。
「うん、俺が思っていた通りにできてるわ」
中は空洞だが、外から見れば黒い箱状の物が出てきている。
『中詰めよう』
『中に何か詰めよう』
『マグマ詰めよう』
「じゃあ何詰める? マグマ以外。もう、そのまま黒のブロックでいいんじゃない?」
『ええ、マグマ詰めよう』
『マグマがいいと思う』
『マグマか水』
なんでこんなにマグマが推されているのか、全く持って分からない。
そんなにマグマがいいのか? でもマグマを詰めたところで意味ないよな。
なんて考えながら空洞の方を見ていると、1人のリスナーさんが、中に入っていき、何かを敷き詰めに行っている。
「ん、何敷き詰めてんの? あの人」
1人が何かを敷き詰めていると、2人3人とドンドン人数が増えていき、やがて何かを敷き詰め終える。
「おい、嘘だろ」
最初の方は何を敷き詰めているのか分からなかったが、段々積み重ねていくごとに、それが何なのか分かってきた。
「なんでTNTなんか詰めてんだよ! 起爆したら1からやり直しな「ボォオオオオオン!」んだ、ぞ。………おい、おいおいおい!」
TNTが爆発し、マイクラがカクツク。
『草』『草』『草』
『草』『草』『草』
『でっけー花火だ!』
そこにあったはずの黒色の箱状の物がなくなり、大きなクレーターが出来上がる。
「ふ、ふざけんなよ。1からやり直しじゃん!」
チャット欄に「誰が起爆させた」と打ち込もうとすると、その前に1人の参加者リスナーが『起爆させちゃった。ごめん』と送ってくる。
「ごめんで許されるか! おい、29人のリスナー達よ、そいつを殺せ!」
クリエイティブモードからサバイバルモードに変更し、起爆させた奴の殺しを命ずる。
命じられた29人の中には、一緒に敷き詰めた奴もいるが、起爆させた1人のリスナーが全て悪いので、他の奴らは許してあげる。
誰かがどうやら殺したようだ。キルログに名前が載る。
「よし、よくやった。じゃあ、まずはこのクレーターを埋めるところから始めよう」
埋める作業をすること10分。クレーターは綺麗さっぱりなくなる。死んだ奴も戻って手伝ってくれた。
「はい、じゃあさっきの指示通り、動いてください。中には何も詰めるなよ」
1から作り直し。中には何も詰めないことにする。
俺も作業の手伝いをするため、黒色のブロックを持ち、作業場へと向かう。
俺1人では5分かかるところを、30人いれば3分以下で終わる。
爆破から13分で元通り。次の工程に入っていく。
「よし、次は下半身を作っていきます」
ここが、俺の像を作る際に1番難しい所。迷彩柄って、緑一色というわけではない。深緑や薄緑など使わなくてはいけない。また配置も工夫しなくてはいけない。
迷彩柄に使うブロックは、スライムブロックにエメラルドブロック。緑色のブロックに茶色のブロック、黒色ブロックなんかも使う。
さて、どう動くか。
難しい所だけあって、慎重に動かなくてはいけない。
30人のリスナーも慎重に………動いてないんだが。
リスナーさん達の動きをよく見ると、まずは緑ブロックをある程度の高さまで積み立てている。縦横は足と変わらずで、高さは10と言ったところか。
積み立て終えると、緑ブロックを破壊し、破壊した所を色んな色のブロックで補強している。また別の場所を破壊しては補強、破壊しては補強。徐々に迷彩柄っぽくなっていってはいる。
なるほどね。こういう風にやれば良かったのか。
俺が考えていた作り方は、ブロック1個1個慎重に積み立てていくやり方。あのように緑一色に染めた後、色々な色のブロックを入れてみる方法は思いつかなかった。
俺1人だけボーッと見ているわけにはいかないな。
リスナーさん達に混ざって、迷彩柄を作っていく。
「ついでに、上半身もこのまま作って行こうか」
全身迷彩柄なので、この作り方で上半身も作っていく。
………
……
…
配信が始まって2時間と50分。見ている側のリスナーさん達からアドバイスや工夫の仕方を教わり、参加しているリスナーさん達の邪魔にならないように作業を続け、やっと俺の像が完成する。
写真と像を見比べると、若干違う所はあるが良い出来栄えだった。
「これがサーバーの象徴か!」
『でっかい滝』
『近くで見てみたい』
『マイクラ配信定期的にやってほしい』
リスナーさん達の要望には答えてあげたいが、次のマイクラ配信はやるかどうか、決めていない。だからなんとも言えない。
「はあ、めちゃくちゃ良いわ。めちゃくちゃ嬉しい。あの像の近くで写真撮ろ」
昼間も参加者リスナーさん達と記念写真を撮ったので、今回も記念写真を撮る。
『どこで撮るの?』
『足元じゃあ映えないよ』
『頭の上で撮れば』
足元近くで撮ろうと思っていたのだが、それを言う前に『足元じゃあ映えないよ』のコメントが目に入る。
確かに、映えないな。
「頭の上にみんな集合!」
30人のリスナーさん達と一緒に頭上まで飛んで行き、2列ぐらいに並び、記念写真を撮る。
昼間同様、撮り終えたら配信は終わり。のつもりだったが、1人の参加者リスナーさんがチャット欄でこんなことを呟く。
『背中見てみてw』と。
しかも、呟いた奴は起爆させたリスナーさん。
嫌な予感がして、すぐさま背中を見に行く。
もしも、背中に大量のTNTとかあったら、アイツ絶対ブロックしてやる。
そんな事を思いながら背中を見ると、
「おいおいおい。これも記念に残るの?」
『サキサキさん 大スキ』と2行に分かれて書かれていた。
『滝もサキサキさんのことが好きなのか』
『告白か?』
『同志だな』
『爆破しないの?』
「いや、確かに配信者仲間だから友達として好きだけど。告白するほど知っているわけじゃないし、まだ知り合って1週間も経ってないよ!」
初絡みだって、昨日のマリカーだし。
「爆破………いや、後で直すわ。この配信終わったら私かに直すわ」
もう、余計な事しやがって。TNTじゃない分、良かったけども。
サキサキさんにバレでもしたら、絶対次のコラボでネタにされるもん。
「はあ」
ため息をついていると、
『Souちゃんチャンネル : サキサキさんに知らせといた。スクショも送ったよ(^ ^)/』
聡太さんがまたしても俺の配信を見ていて、余計な事をしてくれる。
『バレて草』
『ナイスです』
『草』『草』『草』
「ちょっと、余計なことしないでくださいよ。聡太さん!」
『Souちゃんチャンネル : もう少し待ったらサキサキさんくるよ!』
「今日はご視聴ありがとうございました。では」
俺は速攻で配信を終わらす。
マイクラサーバーに残っている30人のリスナーさん達にチャットでお礼を伝え、出てってもらい、マイクラを閉じた。
これでサキサキさんと会うまでは、ネタにされることはないだろう。
そう安心し、タバコに火をつける。
いつも通り吸っていると、Twitterから通知が。スマホのロックを解き、Twitterを覗くと、
『Takiチャンネルの滝さんは私のファンらしい! ほら、見て見て! 背中に私の名前と『大スキ』の3文字が! 後で、配信動画を見なくては!』
サキサキさんが呟いていた。
俺はスマホの電源ボタンを押し、見なかったことにした。そう、俺は何も見ていないのだ。
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