百戦鬼の襲来

 それは突然に発生した。


「な、なんなんだ!あれは?」教室の窓から沢山の生徒達が身を乗り出している。

 西高の運動場に大きな球体が姿を現した。突然に表れた未確認飛行物体に誰もが驚愕の表情を浮かべた。

 学校の回りは、既に強烈な人だかりになっていた。


「通報があったのはこれか・・・・・・」警察車両も数台駆け付けている。その中には狩屋の姿もあった。

「兄貴!こっち、こっち!」瑞希が狩屋を見つけて大きな声を上げた。 

「瑞希、大丈夫か?」狩屋は大きく手を振った。

「ええ、大丈夫よ!でもあれはいったい何なのかしら」瑞希は首を傾げた。


 校舎の陰には、変身を終えたバーニ達は集合していた。

「あれは・・・・・・ まさか・・・・・・百戦鬼?」球体の上に、黒いマントを纏った百戦鬼が浮かんでいた。その姿は、いつもより一回り大きく見えた。


「また、おいでなさったわね・・・・・・!」シオリは空を見上げて歯を食いしばる。

「しかし、なぜこの学校ばかり狙ってくるんだ。おかしいじゃないか?」岬樹は、男の姿のまま空を見つめている。金・銀のアプサスはすでにこの場所からは消えているはずである。

「私が思うに、百戦鬼の狙いは、岬樹さんだと思うの。奴はあなたが手に入れた金のアプサスを狙っているのよ」シオリは岬樹に説明するように語った。 

「えっ、俺を狙っているだって?」岬樹は自分の顔に指差した。

百戦鬼は自分の体を強化する為に、きっと金のアプサスが欲しいのだわ。あの銀のアプサスと対にして、最強の力を手に入れようとしているのよ」百戦鬼は最強の力を手に入れるためにバーニのミサキを殺し、アプサスを完全なものにしようとしているのか。


「ハハハハハハ!」学校中に百戦鬼の笑い声が響く。

「この声は、百戦鬼!」ナオミが身構える。上空の百戦鬼を探した。

「やっと、お出ましやな!」ムツミは待ち構えていたかのように言葉を発した。

「なんだ?なんだ!」学校の生徒達が騒ぎ始める。

「あれは、一体何!」女子生徒の一人が上空に浮かぶ男の姿を見つけて悲鳴を上げる。

「人が浮いている! 」

百戦鬼は大きな笑い声を上げながら、ゆっくり球体の上に降りてきた。 


「フハハハハ! なにか勘違いしているようだな・・・・・、俺の欲しいのは、そのミサキという男女ではない。ナオミお前を喰らいたいのだ!その男女を所望しているのは、あそこにいる女だ!」百戦鬼が指差した先には、銀のアプサスに身を包んだカトリーナの姿があった。カトリーナは百戦鬼の言葉に答えず無言でミサキの事を見つめていた。

「なにを言っているの?私は貴方にそんなことを言われる覚えは無いわ!」ナオミの言葉を合図にしたようにバーニ達が校庭に集合した。

「ナオミよ!お前と俺は一つになる定めなのだ。喜ぶがよい!」百戦鬼は歓喜の言葉を全身で表現した。

「変なことを言わないで!私は・・・・・・」ナオミは少し頬を赤くしたかと思うと、岬樹のほうに視線を送った。 その視線の意味が判らず、岬樹は少し頭を傾けた。

「キー!」ムツミとイツキが同時に、盛りの猫のような奇声を発した。


 岬樹も戦闘に参戦すべく、ポケットからカプセル一錠を取り出して口に含んだ。


「百戦鬼!お前の言っている事は解からないけれど、とにかく今日こそ決着をつけましょう!」シオリは全員に目配せした。シオリ達は四方八方に飛び散り百戦鬼を囲むように配置する。

「これでも喰らいや!」ムツミの膝から大きなミサイルが発射される。それが百戦鬼目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。百戦鬼は腰から大きな青龍刀のような刀を出すと、そのミサイルを先端から真っ二つに切る。少しの余韻を残してから、二方向に飛んだミサイルは爆発を起こした。


「ムツミ!周りに生徒たちがいる事を忘れないで!」シオリは窘めるように叱咤した。ムツミはフンと鼻を鳴らす。

「仲間割れか?」百戦鬼が素早く動き、彼女達の視界から姿を消した。

「なにっ!」言うと同時にサツキの前に百戦鬼が姿を現す。

 百戦鬼の口元がニヤリと微笑んだかと思うと、サツキの鳩尾に、百戦鬼のアッパーパンチが命中した。「ぐっ、この!」サツキが両手を組んで、百戦鬼の頭に鉄槌を食らわそうとするが、そこに百戦鬼の姿はすでに消えていた。「えっ・・・・・・!」サツキが驚愕の表情を見せた。 消えた百戦鬼を探すが見つける事ができなかった。


「早い!早すぎる!」ナオミは百戦鬼の動きに驚愕した。

「きゃー!」声のする方向に目をやると、サツキが百戦鬼の蹴りを腹に受けて、壁に激突した。

「サツキさん!」ミサキが飛び出してきた。再び、百戦鬼の口元がニヤリと歪んだ。

「ミサキ!避けなさい!」シオリのその声に反応するかのようにミサキは側転して、横に移動した。その後ザックと何かが突き刺さるような音がした。ミサキが居た場所には、百戦鬼の体から飛び出した無数の太い針のようなものが突き刺さっていた。シオリの声に反応しなければ、ミサキの体には無数の穴が開いていただろう。

その光景を想像したミサキは体を震わせていた。

「お前が出る幕は無い! 男女の邪魔者は失せろ!」百戦鬼はミサキを指差して、この場から立ち去るように脅した。


「うおー!」ミサキは、全身に力を込めて叫ぶと、金色のアプサスが姿を現した。 アプサスは四散したかと思うとミサキの体に装着された。

「皆。ここは俺に任せて・・・・・・」ミサキは百戦鬼を睨みながら立ち上がった。遠くから狩屋達警察官が息を飲んで状況を眺めている。

「狩屋刑事、この場を納めなくては」新人の刑事が進言する。しかし、狩屋達はその場を動かぬように指示を出したままであった。


「こんな怪物達、俺達がどうこうできる筈がない・・・・・・・」それは絶望にも似た言葉であった。

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