一歩前進
「……………何?」
ピオンの言葉にサイは数秒沈黙した後、顔を上げてそれだけを呟く。その顔には「何を言っているのか分からない」という内心が書かれていた。
「さっき前の画面に現れた文章の群は、ドランノーガの操作法や機能などの説明文だったんですよ。それを特殊な信号と一緒にして映し出すことでマスターの脳の記憶分野に……まあ、要するに今のマスターはドランノーガの関する知識を全て記憶しているという訳です」
サイに詳しく説明をしようとしたピオンだったが、途中で説明が長くなると思ったのか要点だけを告げた。しかし当の本人は実感が湧かないといった表情を浮かべる。
「ドランノーガの全てを知識を記憶……? いきなりそんな事を言われてもな……」
「知識を呼び起こすのにはちょっとしたコツがあります。例えば今日は何をする予定だったとか、財布はどこにしまったのか、という風に思い出す感じです。試しに……そうですね『ドランノーガを動かすにはまず何をしたらいい?』と自分に問いかけるようにやってみてください」
「自分に問いかける……」
知識を頭の中に刻み込まれたといってもその知識をうまく思い出せないサイは、ピオンのアドバイスを実践してみることにする。
(ドランノーガを動かすにはどうしたらいい? 俺はまず何を………っ!)
ピオンのアドバイスを実践したサイの脳裏にドランノーガに関する知識が浮かび上がってくる。その知識の量はあまりにも膨大で、一度に膨大な量の知識を呼び起こしたせいか強い頭痛が起こった。
「うっ、く……!」
「マスター、大丈夫ですか? 落ち着いてください。……ほら、これでも触って」
サイが右手を額に当てて頭痛を堪えていると、席を立ったピオンが彼の空いている左手をとる。
すると次の瞬間、サイの左手から柔らかくて温かな感触が伝わってきた。
「…………………………え? なっ!?」
突然伝わってきた左手の感触にサイが自分の左手を見ると、そこには自分のたわわに実った二つ乳房の片方に青年の左手を押しつけるピオンの姿が。服の上からでも分かるピオンの胸の感触に、頭痛で苦しんでいたはずのサイの意識が一気に覚醒する。
「ピオン!? おまっ! お前、何をしているんだよ!?」
「何をって、マスターが情報の多さにパニック状態になっているようでしたので、ちょっとショック療法をと……。どうですか? まだ頭痛はします?」
「……いや、もう大丈夫だ」
赤くなった顔を横に向けるサイにピオンが笑いながら聞いてくる。それに答えながら青年は、驚きのあまり確かに頭痛が吹き飛んだが、同時にせっかく呼び起こしたドランノーガの操縦法も吹き飛びそうになった、と心の中で小さく文句を言った。
「そうですか。それはよかったです。ではいよいよドランノーガを動かしてみましょうか?」
「分かったよ。分かったから早く座ってくれ。危ないだろ」
「は~い♪」
サイの言葉にピオンは訓練が順調に進んでいるためか楽しそうな声で答えて自分の席に座った。
「それではまずドランノーガを歩かせてみましょう」
「分かった」
サイはピオンに頷くと先程呼び起こしたドランノーガの操縦方法を実行しようとする。
「まず……肘掛けにあるこの球を触るんだったな?」
自分の脳に刻まれた知識に従ってサイは、自分が座っている椅子の左右の肘掛けにある球。その上に両手を置いた。
「それで自分がしたい事をこの球を通じてドランノーガに伝えたらその通りに動く、と……。それじゃあ前に歩け、ドランノーガ」
『………!』
左右の肘掛けにある球に両手を置きながらサイが命令すると、ドランノーガの命令に従って右の脚部を前に出して一歩前進し、それによりサイ達がいる操縦席が大きく揺れた。
「おお……! 俺、動かした! ドランノーガを、ゴーレムトルーパーを動かしたぞ!」
今サイが行ったのはドランノーガを一歩前進させただけ。だが子供の頃からの憧れであったゴーレムトルーパー、ドランノーガを動かしたという事実に彼は子供のようにはしゃぐのであった。
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