倉庫の秘密
「ここに来るのも何年ぶりかな?」
実家に帰ってきた次の日。サイはイーノ村から少し離れた天然の洞窟を利用したリューラン家の倉庫へと来ていた。
サイがこの倉庫へやって来たのは、軍の入隊に向けて何か持っていける物がないか探すためである。
軍に入隊すれば軍服や武器に最低限の生活用品が軍から支給される。しかしそれらは本当に「最低限」でしかなく、それ以外で必要なものは全て自分で用意するしかない。
その為、入隊の際にあらかじめ用意していた生活用品や嗜好品等の備品を軍に持ち込むのは特に禁止されておらず、貴族や軍人の家の出身者が自前の刀剣等を持ち込むという話もある。
「何か使える物があればいいんだけどな。……それにしてもこの鍵って一体何なんだ?」
そう呟いてサイは自分の右手の内にある二本の鍵を見る。
この二本の鍵は昨日父親に渡されたもので、一本は目の前にあるこの倉庫の扉の鍵。そしてもう一本は倉庫の奥にあるという扉を開けるための鍵だそうだ。
父親の話によるとこの倉庫の奥には曾祖父がこの領地を買い取った理由があるらしい。
曾祖父は「この地には巨万の財を生む宝が眠っている。しかし今は宝に価値はない。宝を財に変えるには儂の死後の百年、せめて五十年は待つ必要がある」と言っていたそうだ。しかし祖父も父親も、そんな曾祖父の話をあまり信じておらず今日まで半ば忘れていたのだが、昨日サイが倉庫に行くと聞いた父親が曾祖父の話を思い出して鍵を渡したのだった。
「ひいおじいちゃんがこんな田舎の土地を買った理由、巨万の財を生む宝か……。何だか宝探しみたいだ」
サイは冗談半分に言うと扉を開けて倉庫の中に入った。倉庫の中には灯りがなかったので、あらかじめ用意していたランタンに火を入れてから倉庫内を調べるが、特に役立ちそうな物は見当たらなかった。
「ロクな物がないな……。それで後はこれか」
一人呟くサイの視線の先にあるのは金属製の頑丈そうな扉。扉の前には立派な錠前が一つ取り付けられていた。
「本当に倉庫の中に扉があるよ。前ここに来たのは子供の頃だったから気づかなかったな。この鍵で錠前を開けたらいいんだよな……て、アレ?」
錠前を手に取って鍵を挿しこもうとするサイであったが、立派に見えた錠前はすでに錆びついて脆くなっており、彼が手に取ると左右の戸を繋ぎ止める棒の部分が崩れてしまった。これにはサイも驚いて思わず壊れた錠前を凝視する。
「うわ……。一体どれだけボロボロなんだよ? こんなの鍵を持ってきた意味ないじゃないか。……まあ、いいけどさ」
サイ気をとりなおして扉を開くとその奥に進んで行く。扉の先は一本道の通路だったが、しばらく進むと周りの様子が一気に変わった。
最初はここが天然の洞窟を利用した倉庫であるため岩肌の壁に床、天井であったが途中から金属のものになったのだ。
「これは……もしかして前文明の遺跡なのか?」
サイは軍学校での授業で習った知識を思い出す。
遥か昔に滅んでしまった前文明は現在よりも高い技術を持っており、前文明の建物は金属や断面が鏡のように切り揃えられた石材、金属でも石でも木でもない物質で建てられていたという。
三年間王都で暮らしたサイはこんな壁に床、天井が金属で作られた建物など見たことはなく、ここが前文明の遺跡であると確信する。それと同時に曾祖父が言っていた「巨万の財を生む宝」の話が現実味を帯びてきたと思った。
前文明の遺跡は常に各国が探しており、未発見の遺跡を発見して国に報告した者にはその国から褒賞金が与えられて、遺跡の規模によっては遺跡の管理を任せる為に貴族の地位が与えられることもある。
しかしそこまで考えたところでサイの中で一つの疑問が生じた。
「この遺跡の事を国に報せるだけでも大儲けなのに、何でひいおじいちゃんはこの土地を買ってまでここの事を隠したんだ? ……もう少し調べてみるか……痛っ!?」
サイが壁にランタンを持つのとは逆の手を当てて先に進もうとしたところで手に痛みが走った。よく見ると壁の表面に塗装が剥げている箇所があり、そこで手の表面を切って血が出ていた。
「まいったな、血が出てる。……気をつけて進もう」
そう言うとサイは前文明の遺跡を探索すべく再び歩き始めた。
X X X
探索を始めて二時間くらい経って分かったが、この前文明の遺跡は輪っか状のかなり大きな建物らしい。通路には決められた間隔で部屋と階段もあるが、全ての部屋の中を調べても何もなく、階段は下にしか続いておらず上に続く階段は見当たらなかった。
下の階に降りてはその階にある部屋を全て調べてまた下の階に降りる。それを何度も繰り返して五階は降りたところでサイは疲れたようにため息を吐いた。
「はぁ、疲れた……。これだけ探しても何も見つからないってどういうことなんだ? せっかく遺跡を見つけたのにこれじゃあ何の意味もないじゃないか」
愚痴を言いながら次の部屋の扉を開けるサイ。内心で「この部屋も何もないだろうな」と思っていた彼だったが、その部屋は今までのとは違っていた。
「え……?」
部屋の様子を見てサイは思わず呆けた声を出した。
その部屋には人一人が入れそうな円柱形の水槽らしきものが四つ並んでおり、一番奥にある水槽からは淡い光が放たれて部屋の中を照らしていた。
「この部屋は他の部屋とは違うな……。この水槽、一体何が入って……うわぁ!?」
注意深く部屋に入ったサイが光を放っていない三つの水槽の一つにランタンを近づけてみると、水槽の中にはミイラのように干からびた人の死体が入っていて、至近距離から見たサイは悲鳴を上げて後ずさった。
「し、死体!? 何で死体が水槽に入っているんだよ? ま、まさかこの中にも?」
サイは光を放っていない水槽を恐る恐る見ると、やはりそこにも干からびた人の死体が入っていた。そして残った最後の一つ、光を放っている水槽の中を見ると、彼は先程の三つの水槽の中を見た時とは別の意味で驚き目を見開いた。
「……お、女の子?」
光を放つ水槽の中には一人の少女が、眠るような表情で水の中に浮かんでいた。
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