お礼

 家に帰ると人の姿になったモグは着ていた服の懐から出したお札を家のあちらこちらに貼り始めた。


「それは一体なんなの?」僕はモグの行動を不思議に思い聞いてみる。


「おお、これは魔除けのお札や。これを張っておいたら邪悪なものとかが入れんようになるねん」自慢気にモグは胸を張った。


「でも、そんな事をしたらモグも……」お札のせいでモグもこの部屋に居れなくなるのではないかと心配した。


「あのなぁ、自分で自分が入られへんようにするヤツ、普通はおらんやろ。これを張って入れんうになるのは悪霊や未練を残してあの世に逝かれへん死霊しりょうとかや。俺ら妖怪はスルーやで」僕には違いがよく解らなかった。


「でも、前に人間に恨みがあるって……」僕は恐る恐る聞く。


「そうやったな。俺ら妖怪と人間は昔は共存してたんやで。人間が運ばれへんもん運んでやったり、仕事の手伝いをやたったりして、その変わりに人間からは食べ物貰ったりして仲良くやっとってん。でも、だんだんと人間が知恵や力がついてきたら、俺らみたいな妖怪は邪魔になってきたんやろうな。どんどん排除していきよった。俺が住んどった山は平和やったのに埋め立てで土がいるとか言うてどんどんとを潰していきよったんや。そのせいで俺のおとんやおかんも死んでもうたんや。ほんまは復讐したろうと思うて町にやってきたんやけど、坊主ゆうたとお母はんに命を助けてもろたから……、猫は三日で恩を忘れるっていうけど、あれは嘘やからな」作業を続けながらモグは話を続けた。


「あの敦子って女はそうとうな曲者くせもんや。一筋縄ではいかん……」そこで手が止まる。


「今の俺は別に坊主ゆうたらが人間やからどうやからやない。お前とお母さんが好きやからやってんねん」再びお札を貼り始める。


「ねぇ、モグは何て言う妖怪なの?」


「俺か?俺はな、猫又って妖怪や。猫が長生きしたら段々と尻尾がもう一本生えてきて猫又になんねん。俺の尻尾は一本千切れてもうたけれど、まあそのお陰で人前にも堂々と出れるんやけどな」これでもかというぐらいお札を貼っている。


「じゃあモグは何歳なの?」


「俺か?だから俺は永遠の17歳やって言うとるやんけ」


「ふーん」話半分に聞いておこう。


「さあ、準備万端や!夜まで寝るで!」そう言うとモグは猫の姿に戻ってベッドの上で丸くなった。

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