3-3

 二人が鉄道を乗り継ぎ、辿りついたのは篩別という町だった。ここから最北の目的地までは、十数キロの距離がある。篩別は何と言っても寂れた町で、車なんかは借りれそうにない。ここから先は歩くしかないだろうということでキティも同意した。

「なんだってこんな寂れた場所に住みたがるんだ?」キティが言う。

「カルトだろう? あんまり都会でやると、潰されるという自覚があったんじゃないかな」ジャックが言う。

「じゃあ、そのまま引きこもってりゃあ良かったのによ」

「フリードマンと接触して自信をつけてしまったんだろうね」

 町唯一の洋服店で買い物を済ませる。ジャックは元着ていたものより分厚いコートを、キティはウールの入った防寒着をスーツの上に重ねて着た。「クリスマスの前に山登りですか?」と店員が言ったことで、今日が何の日かを思いだした。クリスマスイブだ。

「今年一年は良い子にしてた自覚があるよ」ジャックが言う。

「これから死のうって奴はみんな悪い子だ」キティが返した。

「キティ、すぐに向かうのか?」

「出来るだけ急いだほうがお前は良いんだろ?」

「ああ……」ジャックは頷く。

 町を出た二人は、アルメルにもらった地図を頼りにして、雪原を進んでいた。ジャックが先に歩き固めた足跡をキティが後からなぞるように歩く。雪はどこも膝の高さまで積もっていて、そうでもしないと進めそうになかった。時々、ジャックが後ろを確かめるように振り向くと、キティはこちらを見て首を横に振った。「見てないでさっさと行け、馬鹿野郎」という意味だろうが、どう見ても彼女は辛そうだった。目的地までは、まだ八キロある。見渡す限り雪以外に何も見えない。

「大丈夫か?」ジャックは再び立ち止まる。

「うるせえ、聞く暇があったら歩け」

「橇を買っておけば良かったな」

「トナカイはお前で、アタシはサンタクロースか?」息の上がったキティは苦しそうに笑った。

 ジャックは道を戻り、キティに近づく。

「今度こそおぶっていこう」

「次それ言ったら殴るぞって言わなかったか?」キティはジャックを睨む。

「誰かが見てるわけじゃないし、僕も最後にはいなくなる。君の恥にはならないよ」ジャックは微笑み、屈んで腰を低くする。「着くまでに君がへばったら困るだろう?」

「はあ、わかったよ」キティは溜息をついてから、ジャックの背中に掴まった。「正直に言うと、けっこう脚にきてた」

 ジャックは背中にキティを乗せて立ち上がり、そのまま歩き始めた。

「これ、もし他人が見たらどう思うだろうな」キティが言った。

「どうって?」ジャックは尋ねる。

「友人、恋人、家族とか……、アタシたちが何に見えるかって話」

 ジャックは少しのあいだ黙って考える。十歩進んだ後で、口を開いた。

「雪原を行く勇敢な冒険者と、その相棒かな」

「相棒か……、まあ、それで良いや」

 またしばらく沈黙が続いた後で、キティが言葉を発した。

「師匠が死んで、ジャックが現れた。ジャックが死んだら……、どうすれば良い?」

 ジャックの首の後ろに水滴が当たった。キティは泣いていた。

「アタシ、また一人ぼっちになるんだぜ?」

「友達がいるだろう? ほら、バーで働いている。ええと、エマソンだったかな。あの子なんていったっけ?」

「エミリ……」

「そう、エミリだ。それに、大狐堂のおばあちゃんだっている」

「そうだね……、そうかもしれない、けどさ……」

 ジャックは歩き続けた。

 雪原には雪を踏みしめる音だけが聞こえている。

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