29 奴隷
「パパ!」
「よし、じゃあこの子は?」
「イミナ!」
「よしよしいい子だ。俺とお前はこの子を命を懸けてでも守らないといけないんだわかったか?」
「うん!」
「あのーリミドさん何してるんですか。」
ギクゥ…。なんだ、もう朝か。どうやらイミナが起きてしまったようだ。
「気持ちはわかります、この子かわいいですもんね。ふふふ。」
そういうとイミナは俺の分離体を抱き上げた。
「リミドさん、早く髪をといてください。」
俺らは近くにある平原に来ていた。
「よし。それじゃあまず第一ステップだ。いったい何体までこの分離体を生成できるかだ。」
結果:俺の量が尽きるまで無限。
ガントレットとブーツを解除し、できる限りの俺を使って分離した。実験をしていた平原を大量の分離体が埋め尽くさんばかりに放出してしまった。
「イミナ、いそいで吸収しろ!」
「でも、これかわいくないですか!」
「はやく吸収しろ!」
「第二ステップだ。本体との意識結合は可能かだ。」
結論:できる。
分離体に俺の意識を移すことができるのだ。そのさい、イミナ本体の俺の意識はなくなり、完全にイミナの指示で動いている状態だった。そしてこの状態で様々な実験を重ねたところ、様々なことが分かった。とりあえず、俺が分離体に意識を持って行った状態を「俺が離れた状態」という風にする。俺が離れた状態のときは、俺のスキルがイミナに同化しないということだ。俺はステータス補正と再生のスキルを持っているが、俺が離れた状態のときはそれが発動しなかったのだ。そして一番の問題が浮遊が発動しないというもの。俺が離れたときは空を飛ぶことができないのだ。
そして二つ目、俺が離れたとき、イミナ本体の俺の変形は可能だが、相当難しいということ。ガントレット、ブーツ、服などの定型的な形態は問題なくできるのだが、複雑な指示を出して俺を動かすことは難しいようで、うまくできていなかった。俺が離れたときは、イミナは弱体化してしまうということだ。ただ、俺が入った分離体では俺の持つスキルが問題なく使うことができた。浮遊もできるし、転翔も使えた。転翔はイミナも所持しているスキルなので俺が離れた状態でもイミナは使える。俺の入った分身体では俺は自由自在に変形できるのだが、その分離体の量の範囲だけであった。
「俺とイミナの別行動ができるようになったが、意外と難点が多かったな。」
「それでも、監視役としておくことができるのはかなり便利ではないでしょうか?」
「それはそうなんだが、俺が離れるとイミナが危ないっていうのが大きいんだよなぁ。まぁ、監視カメラとして使うだけなら別にいいか。」
「監視…カメラ?」
「前世の世界の話だ。気にしないでくれ。」
分離体の使い方について考察しながら、俺らはギルドに寄った。さて、今日はどんな依頼をしようか、そう考えながらギルドに入ると、大勢の冒険者が倒れていた。
いな、酔いつぶれていた。イミナはあまりの酒臭さに鼻をつまんだ。
「そうか昨日ウンディーネ討伐の宴をやっていたんですね。臭いです。」
「まったく大人がだらしねぇな。イミナ、二階にいくぞ。」
二階も同様の光景が広がっていた。ただ一人を除いて。シルヴァはエールを片手に何やら書類を見ていたようだ。まだお酒飲んでるの…。すごいな。しかし、シルヴァは酔った様子もなく、いたって普通だった。俺らがシルヴァに近づくと、声をかける前にシルヴァの方から俺らに気づいたようだ。
「…お、新人Bランクじゃないか。ちょうどよかった。少し付き合え。」
そういわれて俺らはとあるところにつれられたのだ。
「ウンディーネ討伐おめでとうございます。」
「あぁ。」
「ところで、私たちをどこに連れていくおつもりですか?」
「裏市場だ。ここ海岸貿易国ポーラルでは様々なものが船から運び出されるが、その中にはポーラルが許可していない商品も貿易されている。それが裏市場といわれる場所で売買されているんだ。とても危険な薬物や呪われた武器、盗まれた国宝級アイテム、それに奴隷なんかがその代表例だ。俺ら高ランク冒険者は街の治安を守るのも仕事、見回りをしてそういうのがないか確かめるんだ。」
シルヴァは昨日会った時よりもものすごく落ち着いていて、説明も省かないできちんとしていた。疲れているのだろうか。
「それで、どうして俺らを?」
「テール公爵の会食のときのこと覚えてるか。お前東の大陸出身だったってな?」
「は、はい…。」
イミナの心拍が上昇するのがわかる。
「おいシルヴァそれは」
「今から奴隷館に行く。奴隷は一応ポーラルは貿易を許可しているんだが、厄介ごとが多くなるため奴隷は関税を多くかけるんだ。そのせいか関税を払わずに奴隷を密輸するやからがいる。東大陸からの白髪の奴隷は特に関税が高くてな…。今日は奴隷館を回ってそれをチェックしにいく、ついてこい。」
「おやおや、これはこの街の専属冒険者シルヴァ様ではありませんか。どのようなご用件で?もしかしてうちの奴隷をご所望で?」
「そんなわけない。俺が来る理由など一つだろう。早く今日輸入した奴隷、そして貿易証明書を見せろ。」
「おやおや、せっかちな方ですね。奴隷を所望する冒険者は大勢いますよ?」
「御託はいい。早く見せろ。」
俺らは奴隷館の中に案内された。
「これが今日輸入した奴隷です。そしてこちらが貿易証明書です。はい。」
「…。うん、本物だ。この人数分、きちんと税が収められている。」
「私どもがそんなずるするわけないでしょう?私どもはルールにのっとった商売をしていますので。ははは。」
するとシルヴァがものすごい形相で奴隷館の主の胸倉をつかむ。
「冗談はその辺にしとけ、俺が気づかないと思ったか。貿易品の書類を確認したが、どうも計算が合わなくてな。俺は気配察知のスキルで丸わかりなんだよ。上の階に閉じ込めている白髪の奴隷二人を出せ。今すぐ!!!」
どうやら奴隷館の主は白髪の子供の奴隷二人を密輸していたらしい。それをシルヴァは書類を見ただけで気が付き、あらかじめマークしていた奴隷館を回って確認しようとしたのだ。本人も、最初の一件目で見つかるとは思っていなかったようだ。
奴隷館の主は警備隊に連れていかれ、白髪の子供たちは奴隷の刻印を取り消された後に教会に送られたようだ。
「しっかり学べ。俺が気づかなかったらあのガキたちはどうなってたと思う。」
「…。」
「密輸された白髪の奴隷ってのはたいてい闇組織に買われてひどい扱いをうけるんだよ。」
「…。」
「どうあがいても俺らは人間で、できることに限りがある。だからこそ、自分ができることはやれ。」
Aランク冒険者、シルヴァ=ルビリット。
「俺も昔は奴隷だった。こういうのには人一倍敏感でな。よし、帰るぞ。」
俺らは今日、こいつから大切なことを学んだ。
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