27 イミナの休日
てっきりウンディーネ討伐に参加できると思っていた俺らは、討伐隊が出発した後の静まったギルドの中でBランクの依頼を見ていたのだが、どれもパッとしないし、いっそのこと今日は休むかといったところイミナは喜んだ。
「じゃあ海に行きましょう!」
そういってイミナは水着売り場にむかったのだ。
元男の俺にとっては地獄のような場所である。
あちらこちらに並ぶ女ものの水着は俺を激しく混乱させた。そして何よりもまずいのがここでドキドキしてしまうとイミナにばれてしまうということ。そこで俺はイミナの中から出ないでできるだけ周りを見ないことしたのだ。
「どうリミドさんこれも素敵じゃない?」
「あぁ素敵だと思うよ(棒)。」
「ほら、これとかれ色合いがかわいいです!」
「あぁそうだな(棒)。」
「うわぁこれ露出度高いですね。」
「わぁ、本当だ(棒)。」
「…。ねぇリミドさん。」
「は、はいなんでしょう。」
やべ、見てないのばれた?
「試着…してもいいですか。」
「おぉ、イミナ似合ってるじゃないか。」
フリルがついていてへそを出さないタイプの健全なやつだ。
水着ときいてビキニばかりを思いつくやつはきっと変態だろうね。
まぁ…俺もそれを予想していたんだが。布面積が増えるとコピーが大変になるから実はビキニの方が…いやいや、イミナの肌を有象無象共に魅せる方がもっと悪い。
そう、本来水着とはこういう健全なものなのだ。さてと…じゃあ取り込むとするか。と、そこで俺は思いついてしまった。
「なぁイミナ。今思ったんだが、別に水着を俺が取り入れなくてもよくないか?」
ある程度の資産がある俺らにとって、別にこの水着を買うことはそこまで苦ではないはずだ。せいぜい一万、つまり1金貨くらいだろ?それなら別に買った方がいいじゃないのか。
「そ…そうですけど…。」
と、なぜかイミナは照れ始めた。
そしてぼそぼそとつぶやく。
「リミドさんに…その、慣れてしまって。リミドさんを着ていないと不安というか…なんというか。」
なんだか本当に俺が犯罪者に近づいて行っていないか。その発言はいろいろまずいと思うが…。あぁいや。俺はもう実質女みたいなものだろうから別にこの発言も意味深なものじゃあない。な?な?(威圧)。
「いやぁ、イミナうれしいこと言ってくれるね。これは俺も頑張って取り込むとするか。」
ただ、さすがに一度試着した水着を戻す…というのは抵抗があったらしくそのまま購入した。つまり、二度手間である。まぁ、そこら辺の感覚はわからんでもないから別にいいし、正直俺がイミナの服になった方が強度もあるし、いざというときに変形して身を守ることもできるのだ。そして何より、体のサイズに合わせることができるため、「あぁーもうこの服ちっちゃくてきれなーい」という問題が起こらない!どうだ、とても便利だろう?とかなんとか合法化しているが、俺が元男の転生者だとばれたら確実に周りから変態と呼ばれるに間違いない。ひぃおそろしい。
さて、現在俺らは何をしているかというと潮風を感じながら優雅に日光浴をしている。どこでだと思う?砂浜だと思うだろ?
「申し訳ありません、ウンディーネ討伐のためここ近辺の海は遊泳禁止となっていまして、このビーチも閉鎖しているのでございます。」
イミナの顔から笑みが失われた。
で、じゃあどこで日光浴をしているかというと、俺たちが止まっている宿の屋上である。俺はビーチチェアに変身し、イミナにサングラスをつけさせる。
「この、さ…サンなんとかっていうものは見たことありませんが、なんだか私様になってませんか。」
あぁ、本当に様になっているよ。どこぞのセレブみたいだよ。
まぁ、たまにはこうして子供らしくのびのびするのもありなのかな。
俺が転生してきたから、イミナには自分の身を守らせるべく少し厳しく指導してきた。フォールン大森林にいるときもほとんど鍛錬に費やしていたし、この子は本当に苦労をしてきたのだ。子供らしいことも何もできなかったのだろう。そして何よりも心苦しいのが同年代の友人がいないということだ。果たしてちゃんと育ってくれるのだろうか…。
「リミドさん、何か考え事?」
「ん、あぁいや。イミナにはさびしい思いをさせてしまっているからな。こういうのもたまにはありかなーなんて。」
「私、さびしくなんかないよ。」
「だって、リミドさんがずっと一緒にいてくれるじゃない。」
あぁ、この笑顔だ。白い髪をなびかせる純粋無垢な笑顔。
俺がイミナを守ろうと決心した理由だ。そうだ。
俺はこの子を一生守らなければいけないのだ。だから二度と、
悪魔帝トゥルモティアスとの戦闘のときような状況になってはいけない。
「うれしいこと言ってくれるじゃねぇか。」
「へへへ。」
俺らはしばらくの休日を楽しんだ。
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