第117話 水着イベント……ってなんだ?

 俺たちが戻ってくると、レヴィアもメリッサもゼインも元気に朝飯を食っていた。

 そう言えば飯を食ってないなーと思ったら、俺のお腹がぐう、と鳴ったのである。


「朝ごはんを食べるぞ」


「ウェスカーさんが食べずに出かけるなんて珍しい! 今日の朝ごはんは、火山島の木の実と果物のサンドイッチだよ!」


「うまそー」


 メリッサが差し出した俺の分を受け取ると、がぶりとかぶりつく。

 おほー、あまーい。

 俺、甘いもの大好き。

 むしゃむしゃ食べて、湧き水で淹れた茶など飲む。

 充実のひと時である。

 レヴィアは三人前ばかり平らげて、のんびり茶を飲んでいる。


「これからどうしたものかな。いきなりこのピースを使い、魔将の世界に攻め込んでもいいが」


「女王様よ。どうせ魔将は逃げねえぜ。むしろ俺らがのんびりしてりゃ、こっちの世界に攻め込んで来るんじゃないか? こう、今はどっしり構えてるくらいでいいと思うぜ。ピースを集め始めたばかりの時とは随分違うんじゃないか?」


「そう言えばそうか」


 ゼインの言葉には頷けるものがある。俺も同意だ。

 世界の半分以上は取り戻したっぽいし、魔将もたくさん倒した。

 えーと、フォッグチルだろ。プレージーナだろ。シュテルンは倒したけど復活して、ネプトゥルフだろ。フレア・タン。オペルクっていう奴はまた生きてたからノーカン。


「四人倒したのかー」


「速いのか遅いのか……。だが、魔王軍と戦えているのは良いことだ!」


 満足げにレヴィアが腕組みをして胸を反らした。

 うーむ。

 大きいなあ。


「またウェスカーさんがレヴィア様の胸みてる」


「やはり注目せざるを得ないだろう。だってあれすごいぞ。ものすごい」


「開き直ってるー。ま、ウェスカーさんだからいいんだけど。でね、でね、提案! ちょっと何日か休もうよ!」


 俺に対するジト目から、ころっと切り替わってメリッサ。

 いい考えがあるらしく、元気に挙手をした。


「いいな。たまには私も、手を空かせて鍛錬したかったところだ」


 とても色気がない答えが返ってくるあたりが、女王騎士のぶれないところだ。


「レヴィア様のその答えは予想してたけど、残念ながら私はノープランなのです」


「では、わたくしにいい考えがあります」


 満面の笑顔で、マリエルが挙手した。


「南の島で、皆さんで泳ぎましょう。ハブーの方々もみんなで楽しむと良いですわ。人が住んでいないらしい島ですから、遠慮はいりません!」


 ということで、ハブーは一路、三日月形の砂浜の島を目指すのであった。





 わーっと、ハブーから大量の小舟が出発した。

 上には、ハブーの住人たちを満載している。

 蒸気船の町に残ったのは、厳正なる町民全員参加のじゃんけん大会で負けた、運が悪い人たちだけだ。

 ちなみに運が悪い人たちは、その後で一週間仕事免除の特典があるので、フェアである。


 当然、俺たちは遊ぶ派。


「ふふふ、見てろよウェスカー! あたいのセクシーなところ見せてノーサツしてやる」


 不適に笑むアナベル。


「のうさつ? アナベルはウェスカーと模擬戦でもするつもりか。勝利宣言とはかなりの自信があると見えるな」


 何も分かってないレヴィア。

 他に、メリッサにマリエルも、すぐに脱げるタイプのフード付きの上着を羽織っている。下は水着らしい。

 これは、日焼けしたくない人のために、アナベルの兄、アンドリューが開発したものだそうだ。

 男も羽織っていいんだが、俺とゼインは普通に上半身裸。

 水着だけの格好である。


「ウェスカーさん、こうやって見ると、魔導師としてはありえないくらい体つきがしっかりしてるよね……」


 メリッサがじーっと俺を見ている。


「なんだなんだ。あれだぞ。馬に乗ったり空を飛んだりしていると、勝手に体は引き締まるものだぞ」


「甥っ子はナチュラルに鍛えられた体だからな。いわゆる細マッチョというやつだ。だがちびっこ、俺のこの筋肉はどうだ! ふんっ」


 なぜか上半身が褐色に焼けているゼインが力を込めると、全身の筋肉が膨れ上がる。


「おおー、肩に小さなソファゴーレムを乗せているような筋肉だ」


「ウェスカーさん何その表現! でもすっごいー! 触っていい?」


「いいぞ!」


 メリッサがゼインの筋肉をぺちぺち叩いている。そして、「うわあ」とか「かたい!」とか言って、最後には力瘤に掴まってぶら下がり、振り回されてキャッキャ言ってるな。

 ちなみに、ゼインの肩の筋肉に例えられたソファは、『ま”?』呼んだ?とばかりにこちらに泳いでくる。


「よし、では俺はソファに乗って一足お先に」


「ずるいぞウェスカー! あたいも行く!」


「そうだ、ずるい! 私も行くぞ!」


 両脇にアナベルとレヴィアが座った。


『ま”!』


「なに? いつもより柔らかいって? ソファ、お前そんなことが分かる機能があったのか!!」


 という事で、すいーっと平泳ぎで小舟を追い越していくソファ。


「あら、負けませんよ? 本場の人魚を舐めないでくださいね」


 マリエルはパッと上着を脱ぎ捨てた。

 小麦色の肌を覆うのは、緑と青のストライプの水着で、胸と腰の狭いところしか隠れていない。

 俺もゼインも、あっ、と驚きの叫びを上げた。

 直後、俺の太ももが左右からつねられた。

 レヴィアの方は千切れるかと思ったのでやめてほしい。


 マリエルは、腰についた紐をほどくと、すぐに下半身を魚に変えた。

 ばしゃんと海に飛び込み、ソファを猛烈な速度で追い越していく。


「はやい!! 人魚はすごいな!」


 レヴィアがはしゃぐ。

 彼女、何気に人魚大好きっ子だからな。


「おいソファ、負けてていいのかよ! がんばれ!!」


『ま”!!』


 ソファゴーレム、アナベルに激励されてやる気になったようだ。

 平泳ぎから、フォームを変えて、両腕をぐるぐる回して水を掻き始める。さらに足は後ろをバタバタ叩いて、水力を生む。

 おおっ、加速したーっ!


「陸を走るばかりと思っていましたが、なかなかやりますわね!」


 追走してくるソファを見て、マリエルが眼光を鋭くした。

 なんでそんなにやる気なの。

 あと、ソファが猛烈に泳ぐから、俺たちに水がばしゃばしゃかかって大変だ。

 上着がびしょ濡れになって、アナベルは堪らずにこれを脱ぎ捨てた。

 下は真っ白な肌と、やはり胸と腰しか覆ってない、白黒の水着だ。


「うわあ、露出度すごいなあ」


「ん? ビキニって言うらしいぜ! この間ウェスカーたちが掘り出したゴミに資料が入っててさ、兄貴が開発したの」


「アンドリューすげえな」


 当のアンドリューはじゃんけんで負け、男泣きに泣きながら船に残っている。

 妹の水着が凄く見たかったらしい。

 なるほど、アナベルは着やせするタイプらしくて、胸も腰もなかなか。


「ば、ばっか、じろじろ見るな! いや、見られるために着てたんだよな? ええっと、見てもいいけど見るな! でも見ろ!」


「む、難しい!!」


 俺は唸った。


 さて、必死にソファは泳いだが、やはり人を三人乗せて人魚には勝てない。

 結局は圧倒的に差をつけられて、マリエルに敗れたのである。

 マリエルも大変大人気おとなげない。


「あはははは!! 勝ちましたわー!!」


 下半身魚のままで、器用に尾びれで立ち上がり、ガッツポーズを決めている。

 続いてソファが上陸し、


『ま”ー!』


 悔しそうに砂浜を叩いた。

 そして、マリエルにびしっと指を突きつける。


『ま”ま”ま”ま”! ま”ー!』


「挑戦はいつでも受け付けますよ!」


 変なライバル関係がここに生まれてしまったようだ。

 早速、俺たちを置いて海に戻っていく二人。

 泳ぎで競争をするのだろう。


「いやあ、楽しかった……! さて、私もひと泳ぎするか! 水中は思うように体が動かなくて、その分だけ良い鍛錬になる!」


「またまた、レヴィア様はそんなことばっかり言って……」


 既に鍛錬に頭が向っているレヴィアに、アナベルはホッとした風だ。

 ちょっと突っ込みなど入れていたのだが、レヴィアが上着を脱ぎ捨てると、その表情が驚愕に変わった。

 うむ。

 説明不要だな。でかい。あと、肩とか背中とか腹筋とか太ももとか、全部凄い。

 レヴィアが身に着けた真っ赤なビキニは、水着というか、そういう戦闘服にしか見えなかった。


「くうっ、だめだ、あたいのライバルがあまりにも強すぎる……」


「アナベルは何を泣いているのだ」


「そんな女心が分からないウェスカーさんはー! おしおきー!」


「む? ……むぎゅう」


 声がしたと思ったら、いきなりボンゴレがでかくなって跳んで来て、俺を押しつぶした。

 上にはメリッサが乗っている。

 フリフリがついたピンク色のワンピース水着だ。


「メリッサ、どくのだー」


「ウェスカーさんはそうして反省しているといいよ!」


「ええい、せっかくの海でボンゴレに押さえつけてばかりいられると思うなよ! 行くぞ、エナジーボルト……コチョコチョチックルモード!」


 俺の手足から、細いエナジーボルトが放たれた。

 これがふわふわっと軌道を曲げ、ボンゴレの毛皮の間に入り込み、この赤猫をくすぐり始める。


「フャ!? フャャャャン~!」


 赤猫はくすぐったがって、俺の上から離れると砂浜の上でじたばたし始める。

 勝った!


「きゃー」


 メリッサは転がったボンゴレから落っこちて、海にドボンだ。


「うひやー! やったなあ!」


 俺に水をざばざば掛けて来る。


「やる気だな! 受けて立つぞ!」


「あたいはメリッサに協力するぜ!」


「な、なにい! 二対一だと!?」


「ほう、ウェスカーを相手にするのか? では私もウェスカーを鍛えてやるとしよう」


「三対一! おい待つんだ。ゴリラ級がいるのは反則だろう」


「ほう……!?」


 レヴィアが凄い速度で水面を掬って、俺に叩きつけた。


「ぎえーっ」


 俺は彼女が放った水に弾かれ、海面をバウンドしながらぶっ飛んでいくのであった。

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