4ー5
流石の夏祭り、神社の中は様々な店が並んでおり、その道通りには男女のカップルや家族達が楽しくしていた。
時間的には真っ暗な筈なのに数多い提灯達が照らし続けているのだ。
「やっぱり毎年人が多いな」
「そりゃー、夏の行事と言ったら夏祭りだからよ」
「ふっ、お前を見たらそう思うわ」
いつの間にか、荒木の両手にはりんご飴や袋に入っている焼きそばなどを持っていた。
神社に入った後、四人で見ていると竹本が結衣を連れて射的屋へと行ってしまったので、男同士の俺達は食べ物を買いに行っていたのだ。
「そう言う達也だって、りんご飴を買ってるじゃん」
「ん?あぁ、これは白崎さんの分だよ。俺は少し苦手で…」
「へぇ〜、珍しいな。飴が苦手なのって」
「飴自体は食べれるんだが、りんご飴は少し駄目なんだよ」
射的屋に行っている結衣の分は俺が買っており、荒木は彼女である竹本の分を買って射的屋へと向かって歩いた。
「さてと、心は何を取ったかな〜」
「そもそも取れてるのか?」
「うちの心を舐めては困る!去年……心は射的屋で取りまくって、射的のおっさんを涙目にさせたんだ」
「……射的のおっさんが心配だ」
「だな、さっさと行こうか」
結衣と竹本のお土産を持って射的屋に行くと、パンッパンッと鳴る音と少年少女達の声が聞こえてきた。
何事かと思って見てみると射的用の銃を構えた竹本と結衣が正確に1発1発、景品に当てて落とすを繰り返し、並べられていた景品は二人の物となっていた。
「……これは、手遅れだったな」
「……だな」
店の隣には涙目になりながらハンカチを咥えてキィーッと唸っており、竹本と結衣は打ち落とした景品のいくつかを周りの少年少女達に渡していた。
貰って嬉しいそうにしている少年少女達を見届けると、その先にいた俺達に気づき、満足そうにしながら近づいてきた。
「よっ!男達諸君、元気かな?」
「そう言う、心の方が元気そうじゃねーか」
「そりゃー、景品を殆ど打ち落としたからね!」
「容赦ねーな、お前」
殆どの景品を打ち落とした事に満足している竹本に対して荒木は呆れていた。そんな二人を見ていると、熊のぬいぐるみを抱いている結衣が話しかけてきた。
「……達也」
「ん?その熊のぬいぐるみ……取ったのか?」
「……うん……心ちゃんに……コツを教えて貰って」
熊のぬいぐるみを大事そうに抱いている結衣の表情は柔らかく、優しい微笑んでいた。
そんな表情を見せる結衣を見て、やっぱり結衣も女の子なんだなと思った。
(学校では無表情が当たり前、一部の生徒からは感情というのが無いのでは?と言われていたが……やっぱり結衣は普通の女の子なんだな)
また、そんな結衣を知れた事に対しても嬉しくなり、つい、結衣の頭を撫でてしまった。
「……え?」
「結衣達の分の焼きそばとか買ったんだ。後で四人で食べようぜ」
「……う、うん」
俺が急に撫でた事に動揺が隠せない結衣は片手で自分の頭をさすって手の平を確認していた。
勝手に結衣の頭をさすってしまった事に少しばかり罪悪感が湧いてきた。
(無理矢理誤魔化したけど……後で謝ろ)
俺は歩いて荒木と竹本の方へと歩いて行った。
一人残された結衣は、置いてかれたのに気づき、達也の後をついて行った。
(……わ、私の頭に……何かついてたんだ……そうに違いない……多分)
ーーー
俺達四人は神社にあるベンチに座り、俺と荒木が買ってきた焼きそばなどを食べる事になった。
ベンチはお店とか人が並んでいるところよりも離れている所で、少し暗かったが人混みで食べるよりも良いと思った。
「ほら、これがお前の焼きそばだ」
「やったー!射的した後の焼きそばは美味いんだよなぁ〜」
「多分、そんな事を言えるのはお前ぐらいだと思うぞ」
「そんなのは〜♪気にしない〜♪美味しいのだ〜」
「あ、俺も食べさせろ」
隣のベンチではバカップルの如く、イチャイチャとしている二人を見ながらもーー別に羨ましくはないけど、結衣の分の焼きそばを渡した。
「隣のバカップルさん達はイチャイチャしてるな」
「……羨ましいの?」
「ノーコメ」
「……本当は?」
「めっちゃ羨ましいです」
俺は素直とお人好しをモットーに生きております。はい。でも、羨ましいのは本当ですから。
「そんなのバカップルはバカップルで、俺達は俺達で食べるか」
「……うん」
「りんご飴も買ってきたから後で食べるか?」
「……りんご飴?……美味しそう」
「甘いからな。先に焼きそばでも食べるか」
「……はーい」
着物を着ている結衣は汚れないように袖を押さえながら割り箸で焼きそばを食べて始めた。
流石に袖を押さえながら焼きそばは持てないので、俺が代わりに持って結衣が箸で食べてる光景はなかなか無いだろう。
「美味しいか?」
「……うん……とっても」
店の焼きそばは家で食べる焼きそばとは違った美味しさがあり、俺も好きなのだが、結衣は本当に美味しいのか食べる速度は衰えなかった。
(ま、俺の分が無くなっても帰りに買えば良いか)
俺が美味しそうに食べているのを自分を見ている事に気づいた結衣は少し恥ずかしそうにしながらも聞いてきた。
「……達也も食べる?」
「ん?貰えるなら貰うが……もう割り箸が」
「……んっ」
「え?いや、その割り箸……」
「……んっ!」
「あ、はい、頂きます」
「……よろしい」
俺が焼きそばを持っている為、自分の手で食べれないから結衣にあーんして貰った。
確かに、美味しいだけど!だけど!あーんして貰った時の割り箸は結衣が使ってた……ような。
「……美味しい?」
「とっても美味しいです、はい」
「……なら……良かった」
そう言った結衣はまた焼きそばを食べ始め、俺に食べさせくれたりとしてくれたが、俺が思っていた事は結衣には気付いていないらしい。
かと言って、この事を言ったとしてもまた気まずくなるだけだし、言わないでおこうかと決めた。知らぬが仏やな。
仏は知らぬが、悪魔の二人はそれを見過ごさなかった。
「結衣ちゃ〜ん、それって間接キスになるんじゃないの?」
「……え?……〜〜っ!!!」
「なぁなぁ、達也」
「ん?」
「白崎さんが使ってたの知ってて、あーんさせて貰ったのか?」
「YESかNOかで言ったらYESだな」
「……〜〜っ!!!」
「もぉ〜!結衣ちゃんったら側から見てたけど大胆だね〜!」
「……こ、これは……違う!」
「全く……達也も達也で罪な奴だな」
「いや、俺も言おうかと思ったんだけど……白崎さんの食べろって言う圧が」
「……だって……私だけ……食べるのはちょっと……あ、あぅ」
自分が口をつけた割り箸で異性でもある俺にそのまま焼きそばを食べさせた事に気づいた結衣は、その事を竹本にグイグイと攻めてくるのに反論出来ていなかった。
本当なら、グサッ!と来るような言葉を竹本に言って牽制するのだが、今回は達也にあーんをした事にも恥ずかしいのに間接キスとなったら……恥ずかしいだろう。
「いやぁ〜、最初はどうやって食べさせるんだろうな〜って思って見てたんだけど、自然に自分が使った割り箸であーんされるんだから私ビックリしたよ!」
「…………私もビックリ」
「全く〜!達也君の幸せ者〜!」
「万年バカップルのお前らに言われたくねぇよ」
「ま、確かに俺と心は外でもイチャイチャしてるからな」
「自覚あったのかよ」
「うん……親に言われてから意識するようになりました」
俺にあーんされたのと間接キスの事実を知った結衣は着物の袖で紅くなっている顔を隠し、結衣大好きっ子の竹本その真実で弄り倒し、そんなのバカップルの相方、荒木は呆れて見ていた。
そんな中、俺は自動販売機にでも言って飲み物を買おうかと決めて、ベンチから立った。
「なんか飲み物を買ってくるが……何が良い?」
「私はオレンジジュース!」
「……達也……わ、私も」
「結衣ちゃんはアップルジュースで良いよね。なら、少しお話しようよ〜」
「……へ、ヘルプ」
「あはは……頑張れ」
「俺は、コーラで頼むわ」
「オケ、その代わり竹本から白崎さんを弄るのをやめてやるように言っとけよ?」
「心が白崎さんを弄るのをやめろって言っても聞くと思うか?」
「思わん」
「だろ?なら、仕方がない」
俺と荒木は竹本が結衣の事が大好きなのはよく知っているので、助ける事を早々に諦める事にした。
だって、止めた所で此方にも火種が来そうで怖いからである。
3人の要望を聞いた俺は、気分転換に神社の外れにある自動販売機の所へと向かって歩いて行った。
ーーー
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