3ー8
俺は高尾家の当主、高尾 勝の葬式の為に来ていたが、東海組や鬼頭組などの有名な組も来ていた。
次期当主は高尾家の長女、高尾 千夜かと思いきや、高尾家を出て行った高尾 剛が『高尾家を継ぐ』と言って帰って来たのだ。
「この状況をお前はどう捉える?」
「自分なら、実の長男である剛が継ぐべきだと思いますが……」
「その剛のバックには唆した裏の人物がいる……そして、その人物はアスタロトグループとしても黒龍組としても見逃せない」
今、俺は高尾家の用意した部屋で海堂と今回の【高尾家の跡取り】について話し合っていた。
高尾家とは、アスタロトグループ社として今は亡き、高尾 勝と深い関係がある為、あんな横暴な性格の者に継がすのは会社として悪影響を及ぼすと考えた。
「高尾家はな〜良い意味でも悪い意味でも影響力があるからなぁ〜めんどくせぇ〜」
「剛本人が金目当てで帰って来たのなら、アスタロトグループ社の影響は無いのですが」
「絶っ対に、裏で誰かがいるんだよぁ〜」
はぁ……と少し大きめとため息をつくと、廊下側の襖がスーッと開いた。その奥には高尾家の家政婦がいた。
「お食事が出来ましたので、【翡翠の間】に来て下さい。他の皆様も来ておりますので」
「分かりました。すぐに向かいます」
そう言って食事が用意されている【翡翠の間】に向かう前に、やる事だけはやっとおこうと思った。
「『狐』」
「はい、ここに」
付いてくると行っていた『狐』の名を呼ぶと、天井裏から声が聞こえた。
「高尾家の家系及び素性を調べ直せ。それと高尾 剛が帰郷前に誰かと複数回会った人物を調べておけ」
「分かりました。今晩中にご報告に来ます」
「それと、『日ノ河』の数人は高尾 剛の監視をしろ。さらに接触して来た奴も監視しろ」
「「「了解しました」」」
「頼んだぞ」
現在の時刻は5・40。今晩中にそれだけを調べて報告に来ると言う『狐』には流石だと思い、俺はそのまま部屋から出た。
(多分、美味しいご飯だと思うが、他の厳ついおっさん達と食べるとなると……そう考えないで食べよ)
この屋敷に来てから心が休めないのに対しても疲れているのに、これから厳ついおっさん達とご飯を食べる…と言う事実だけで疲れて来た。
ーーー
【翡翠の間】
俺と海堂と後で合流した瀧ノ衆数人は案内された部屋に入った。
そこには、ズラッと厳つい他の組員が並んでおり、もちろん東海組や鬼頭組もいた。
(夜飯ぐらいは部屋で食べるとか言っておけば良かったかなぁ〜)
後から来た俺は「さーせぇん」と言いながら、俺の組が用意された食事の席に着いた。
運が良かったのか悪かったのか俺の隣には『フリーマン』と呼んでいる灰島がいた。
「あ、どうも、奇遇すね!」
「そうだな……どうだ?酒でも酌んでやろうか?日本酒もあるぞ?」
「え?良いんですか?」
「あぁ、良いとも、是非酌ましてくれ」
頼むよフリーマン君、この厳ついおっさん達の中で君と俺は歳が近い気がするんだよ。鬼頭組の組長やその部下達は女性だが、さっきからすっごい目付きで睨んできて俺はスッゲェ怖い。
灰島…じゃなくてフリーマン君のお酌に酌み、俺自身は未成年の為お酒は飲めず、お茶をちびちびと飲んでいる。
周りを見ると、東海組も鬼頭組も同じ組者同士酒を飲むあったり、賭博の話や競馬の話をしていた。
(酔って喧嘩でもし始めると思ったけど暴れるような奴はいねぇな。流石に縁がある所では暴れないか?)
どっかの宴会みたいに酒を飲みまくって騒ぎ出して、他の組同士暴れ出すのかと思いきや、皆、ゆっくりと酒を飲みながら会話をしているのを見て意外だった。
「喧嘩が起きなくて良かった、良かった」
「もちろんですよ。ここで酔って喧嘩でもやり始めたら自分達の組長に殺されますよ」
「やっぱりか?」
「東海組の組長さんや鬼頭組の組長さんも高尾 勝に恩義がありますし、恩義のある人の住まいで喧嘩でもしたら……本当にコンクリート詰めされて海中水泳でもされますよ」
「恩義ねぇ……お前って東海組の組長と鬼頭組の組長がどうして恩を持ってるか知ってるか?」
「詳しくは分からないですけど、確か東海道組長、東海 豪一は昔からの親友だったとか?鬼頭組組長の鬼頭 彩芽は……確か……師弟の仲?だった気がします」
ふぅーん、東海組の組長さんは勝の親友。でぇ?鬼頭組の組長さんと勝は師弟の仲ぁ?何の師弟だよ。
何の師弟かと聞いてもさぁ?と分からないと言い、特に高尾家の跡取りの件には関係の無い事なのであまり気にしなくなった。
(それにしても当主候補の千夜って女は自分の部屋で飯を食ってんのか?剛…じゃなくてお子ちゃまも部屋で食ってんだろうな)
お茶を飲みつつ、用意された和風のご飯を食べていた。
明日は明日で高尾家の跡取りで今日よりも疲れるのか明白、だったら今日ぐらいは美味しいご飯をのんびりと食べるぐらいの権利はあるだろう。
「そう言えば、黒崎さん」
「あ?なんだ」
「来る前にも聞きましたけど、どっちに付くんですか?」
「あぁ〜、どうしようなぁ〜」
「はっきり決めた方が良いですよ。じゃ無いと、明日からは敵同士になるかもしれない組がいるかも知れないんですから」
「そう言うお前はどっちに付くんだよ?」
「俺ですか?俺はですねぇ……やっぱり美しき千夜様に付こうかと」
「ふぅーん、なら、精々高尾 剛に付く組に狙われないようにするんだな」
「えぇ〜、その時は助けて下さいよぉ〜、可愛い子分が居なくなっても悲しく無いんですか?」
「お前が狙われても俺はお前を助ける理由は無い、そしてお前は俺の子分でも無い。俺は余程の理由が無ければ赤の他人を助ける気は無い」
「うわっ、三回の内、二回俺の事で無いって言われた」
隣で灰島があからさまに「俺、悲しい!」と言いながら、嘘泣きをしていた。
今飲んでる熱〜い熱〜いお茶をぶっかけて目を覚ましてやろうかと思ったが、それだと、また何か言って来そうなので無視する事にした。
「海堂、それと瀧ノ衆の者達、今晩と明日は自分達に近づく者に警戒しろ。襲って来た場者がいた場合は捕縛し、俺に報告しろ」
「「「「わかりましたっ」」」」
「自命に関わる程の実力者だった場合は始末しても構わん、その時は俺が弁明してやる」
「「「「はいっ」」」」
一応、海堂と瀧ノ衆の3人に今夜襲って来た場合の事を話した。
俺を狙う者がいれば、その時は俺を守る者を始末するのが一番で、次に俺を狙うだろう。
諜報部『日ノ河』のエース【狐】は情報を集める為に下山しているだろうし、他の者は高尾 剛の監視をする様に命じた。
(護身用に覚えた武闘術はあるが……流石に拳銃や自動小銃には敵わない。それに対処する為に特殊に鍛え上げた諜報部の『日ノ河』や『暗ノ道』がいる)
あはは、悲しいなぁ〜、その二部隊も今は俺の命令で側にいないんだからぁ〜。護衛に二人ぐらい側に置いたけば良かったな。
今更、命令した事を後悔してもどうしようも無いし、出来るだけ自分自身を守る事にした。
「ま、今晩中には帰って来ると言ってたし、大丈夫だろ……大丈夫だよな?」
そう不安と諦めを持ちながらお茶をちびちびと飲んだ。
ーーー
【高尾 千夜・自室】
その和室には一人の着物を着た女性が用意されたご飯を静かに食べていた。
彼女の目蓋は閉じているのに、普通に煮物、白米、焼鮭を淡々と箸で食べていた。
食べ終わると箸をキチンと揃え、廊下にいるお付きの人を呼んだ。
「光さん、もうご飯は食べ終わったので下げて下さい」
「分かりました」
「それと、黒龍組組長の黒崎 達也さんをここに来るよう言ってきて下さい」
「はい」
そう言ってお付きの人は千夜が食べたお皿を下げて、和室の部屋はまた静かになった。
一人になった千夜は立ち上がり、外が見える襖を開き、見上げると空は光り輝く星達が
一面と広がっていた。
しかし、その光り輝く星の存在をこの女性は分からない。小さき頃、とある事件で目が見えなくなった彼女は『色』も失えば『光』も失った。
「何も見えない……それだけが私を蝕む」
少しの冷たい風が彼女を無残に襲った。
ーーー
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