バトルボール1年決勝⑥

「……そういや、今回は最初から魔法具を使うてるな」

「それもそうね?この前は後半から使い出して逆転する展開だったけど…」

シヴァがふと気づいたように言うと、フリージアもそれに同意した。


「今回は他の選手もいますから、先行逃げ切りで行く気なのではないでしょうか?」

「んー、でも、アンもルーシィも試合開始からずっと魔法具を連続で使用しているわよね?同じ魔法だから魔力が切れるのも同じくらい?その後は残りの2人だけで試合をするなんて無謀な戦法、あのルーシィが取るのかしら…」

マリンの意見に対してアザレアは首を傾げる。



試合時間は20分ほどが経過し、残り10分ほどとなった。この前と同じ魔法具を使用しているとすれば、そろそろ魔法石に蓄えられた魔力が尽きるころである。


「そろそろかな」

ルーシッドはそうつぶやくと、左手に持っていた『式崩壊グラムコラプション』用の魔法具をホルスターに戻した。そして、左のポケットから何かの部品のようなものを取り出しながら、ミスズに呼びかける。


「スズ!の時間!」

ミスズはその声に反応してルーシッドの方を見る。

そして、その部品をスズの方に放り投げると、ミスズは魔法具を装着していない方の手、左手でそれをしっかりと掴み取る。


それを聞いていたシアンも反応し、後ろにいるルビアに声をかける。

「ルビィ、私もわ。リカ、援護よろしく!」

「了解」

「あぁ、任せておけ」


ミスズが部品をキャッチしたのを確認して静かに頷いてから、ルーシッドは右手に持っている『土の造形魔法モデリングマジック』用の銃の横側に付いているボタンを親指で押した。すると、グリップの下部から部品が飛び出す。そこには蓄積していた魔力がわずかとなった魔法石が埋め込まれていた。そして、左のポケットから取り出したそれとの部品をそこにはめた。そして、銃をホルスターに戻して再度魔法を発動する。


ミスズが右手に装着していたガントレット型の魔法具は、腕の部分には折り畳まれた魔法回路マジックサーキット、手首の部分には魔法石がはめ込まれていた。ちょうどレバーを持ち上げて魔法回路マジックサーキットを展開すると、魔法回路マジックサーキットの中央部分に魔法石が位置するように設計されていた。

ミスズが拳を握りしめると音を立てて手首のパーツが外れる。そして、手を振り下ろすと下に落ちた。手首の部分は取り外せるブレスレットのようになっており、拳の部分にあるボタンを押すことで、このブレスレットのロックが外れて取れるようになっているようだ。ルーシッドから受け取ったパーツはこの取り換え用だった。ミスズはそれをガントレットの手首の部分にはめるとロックをかけた。それははまった。ミスズは再び魔法を発動する。


シアンがグリップの上部にある引き金とは別のレバーのようなものを親指で降ろすと、左手で持つ部分にあったパーツの一部が外れる。それはちょうど円筒型の演奏装置メロディカを覆うカバーのような構造になっており、そこに魔法石が取り付けられていた。そして、シアンはポケットからそれと同じ部品を2つ取り出して、魔法石の色を確認しながら同じ位置にはめこんだ。そして、再び右手の引き金を人差し指で引いて魔法回路マジックサーキットを展開し魔法を発動させる。



「……こ、交換用の魔法石やと…魔法球技でそんなもんまで持ち出してくんのか」

「なるほど、魔法石に魔力を補充するより部品ごと交換した方が早いですもんね。あれ、でもそれじゃあなんでこの前の試合ではやらなかったんでしょうか?」

シヴァに対してアザレアが尋ねる。

「今回の魔法球技用にルーシィさんが生徒会カウンサルに依頼してきた魔法石はちょうど人数分だったわ。多分、前の試合では他の魔法具のために魔法石を使用していたから交換用までは確保できなかったんじゃないかしら」

「え、でもつまりそれって…」

「そうや、あいつはこの球技戦期間中に使用済みの魔法具をバラして魔法石を取り外し、それを取り換え用の部品に作り変えたっちゅうこっちゃ。魔法具の魔法石だけを交換するっちゅう技術自体は実用化されてはいる……せやけど、交換部分の構造式の精密さがありえへんくらいエグいんや。寸分たがわず全く同じ部品を作らなあかんからな。それを1日かそこらで3つも作るなんて……ホンマに人外の仕事や、まさしく神業や」



すでに勝敗は決していた。


こうして圧倒的な点差をつけて、最後の試合に勝利したルーシッド達のディナカレア魔法学院での初めての『学年別クラス対抗魔法球技戦』は、1年生史上初めての全種目優勝で幕を閉じたのだった。

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