1日目終了

1日目の全ての競技が終了し、ルーシッド達は一度解散した。そして、各自お風呂や着替え、夕食などを済ませた後、教室に集まっていた。クラス対抗戦期間中は、授業終了後もミーティング等を行うために教室が解放されていた。日が暮れて辺りは暗くなっているので、明かりの魔法具が灯されている。


ディナカレア魔法学院は生徒の自主性を重んじる学校である。特にクラス対抗戦は、生徒会カウンサルを中心とした生徒主体のイベントである。学校側は必要な場所や資材、資金などは提供するだけで、先生たちは求められれば手助けはするが、基本的にはあれこれと口出しはしない。生徒たち自身がクラスメンバーの個性や使用できる魔法などを考えて、出場選手を選抜し、作戦を立案して行うのである。


「みんな、今日はよく頑張りました。本当にすごかったわね。先生驚きました」

担任のリサ・ミステリカはその日の競技を振り返ってそう述べた。


「出場選手や作戦立案、魔法具の作成などはほとんどルーシィがやってくれました」

シアンがそう言うと、リサはわかっていたようにルーシッドの方を見て微笑んで言った。

「そう、ルーシィさん、本当にお疲れ様。ストライクボールの完璧な戦略も見事だったわね。1年生チーム初のパーフェクトゲームと、試合時間の最短記録には先生たちも驚いていましたよ」


「ありがとうございます。でも、実際に勝てたのはみんなが頑張ってくれたお陰ですので」

先生にそう褒められて、ルーシッドは謙遜にそう言った。

「でも、あんなに速く魔法が発動できたのは、ルーシッドが教えてくれた詠唱法のお陰だよ」

「そうね、あの方法が無かったら、砂の壁も相手の魔法発動と同じくらいになって効果は半減したと思うわ」

「うん、それに私の魔力生成速度ジェネレイトスピードだと、巨人の壁ジャイアントウォール作るのも、魔法詠唱終了と同時ってわけにはいかないから、普通通りの詠唱だともっともっと時間かかってたよ」

「私の魔法もだよ~」

ラコッテとロイエ、キリエがルーシッドに感謝を述べる。


「あの詠唱法は、理屈は簡単でも実際にやるのは結構大変だよ。サリーも最初は苦労してたしね。だから実際に勝てたのはやっぱりみんなの努力のお陰だと思うよ」

「もう、ルーシィってば、勝利の影の立役者なのは間違いないんだから、そんなに謙遜しない!」

特に今日の勝利を喜ぶでもなく普段通りなルーシッドに対して、ため息をつくルビアだった。


ルーシッドがクラスの皆に教えた『簡易短縮詠唱法』。それは、短縮詠唱アブリヴィエイションとは全く異なる短縮法だった。リサはそれについて聞いたとき、そんなことが本当に可能なのかと疑った。

リサは魔法詠唱の理論面に関してはかなり自信があった。その知識がしっかりとしていたからこそ、オリジナル魔法の詠唱文を作り出すことが出来たのだ。

しかし、『魔法詠唱文を造形魔法モデリングマジックで補う』などということは全く考えたことが無かった。しかし、よく考えてみれば確かにそうだ。

ルーシッドの魔法理論を聞いていると、自分がいかに今まで積み上げられてきた知識をただなぞっていただけだったのかということを思い知らされる。自分で考えているようで、実はすでに完成しているものをちょっと加工しているだけなのだ。

魔法詠唱の基本的な型から入る魔法使い達は、その文章が必要なことを信じて疑わない。だから、それを削ったり変えたりしたらどうなるかなど考えたことも試したこともない。そんなことしたら魔法が作動しないに違いないと思っているのだ。いわば盲目的に、過去の偉人たちが残した偉大な業績を信じ、それにすがって魔法を使っているにすぎないのだ。


「敵の戦力がよくわからなかったから、念には念をいれて作戦立てたけど、あそこまでしなくても勝てたかもね」

「まぁ相手に1つもポイントを与えない完璧な試合だったし、良かったんじゃないかしら?」

「そうかな…そういえば、そもそもなんでこの競技ってストライク『ボール』なんだろうね?ボール使ってないよね?」

「いまさらの質問ね…でも確かに言われてみれば球技ではないわね…」


「『魔法球技』は元々、子供たちでも安全に遊びながら魔法の技術を身につけられるように考案されたものよ。ストライクボールも元々は実際のボールを使っていたそうよ。それがファイアボールとかの魔法が使われるようになって、そのうち今の形になったみたいね。バトルボールとかの他の球技と違って、魔法が人に当たる心配が少ないから、ルールが少しゆるくなったらしいわね。今は確かにボールを使う必要はないけど、競技名はそのまま残っているみたい。今はこのストライクボールから派生した『魔法射撃マジックシューティング』競技もあるわよ。的が動いたり、自分が動きながら撃ったりして、より実戦的な感じね」

リサがそう説明した。


「バトルボールも最高に気持ち良かったわ。ありがとう、ルーシィ」

ミスズから感謝を述べられて、少し驚いたように目を見開いたルーシッド。

「ううん、あれはミスズの身体能力あっての作戦だから。完璧に使いこなしてたね」

「手にはめて使えるから動きやすくて使いやすかったわ。それに生成した砂を球体にするイメージをするだけで良かったから、細かい調整は必要なかったし。そう言うの苦手な私でもスムーズに使えて、試合に集中できたわ」

他のバトルボールに出場した選手も口々に、試合の感想やルーシッドに対する感謝、魔法具の使用感などに関して述べる。ランダルもこう言った。

「あの魔法具の便利なところは、一回起動したら後は球体をイメージするだけで使えるっていう点だね」

「あれは、『終了条件を提示しない詠唱ブランクスクリプト』で発動しているからね。マジックアローとかと同じ原理だよ。まぁそのせいで使用時間が20分に限られちゃうけど。魔法石をもっと調達できればいけたんだけどね」

「20分で十分だったよ。お釣りが来るくらいにね」

クリスティーンが笑いながらそう返した。



リサはその様子を見ながら考える。


ルーシッドが今回のバトルボールのために作ったというオリジナルの魔法具にも驚いた。以前、地下迷宮探索の時にジョンと共に作ったという魔法具を見せてもらった時も驚いたが、それ以上の驚きだった。

確かに今までも折り畳み式で魔法回路マジックサーキットの面積を小さくできる魔法具は存在していた。例えば、ものを温めたり焼いたりするために使われる魔法具などがそうである。だが、それでもサイズが2分の1になるだけだ。しかも、大きさの都合で形態用の魔法具は自動演奏装置オートマチックメロディカではなく、鍵盤を自分で叩くタイプだった。

それがルーシッドが今回の試合のために使用したいと持ってきた魔法具は、可変式の魔法具であり、見事に魔法回路マジックサーキットがガントレットの表面を覆う装甲として折り重なっていた。しかもそれを引き金を持ち上げるだけで作動できるのだ。演奏装置メロディカに関しても今までに見たことのない独創的な構造だった。どちらも作り方が全く想像できないほどに緻密なグラム構築が必要なはずだ。それらを全て1人でやってしまったというのだから、この子は本当に何者なのだろう。



「明日の午前はいよいよエリアボールの初戦ね。エリアボールは明日勝てば後は最終日の決勝だけど、ストライクボールとバトルボールは当たりが悪くて、あと2試合ずつだわ。明日の午後がストライクボール、明後日の午前がバトルボールの2回戦ね。連戦をによる疲労を避けるため、予定通り明日のオーダーは今日とは変えるわよ。じゃあ明日の試合の作戦についてもう一度確認していくわよ?」


シアンが進行し、ルーシッドが補足する形でミーティングが進んでいく。

そうして夜は更けていくのだった。

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