初日③ スクールギルド
「そういえば、『スクールギルド』はどうするかもう決めたのかしら?」
この世界における『ギルド』とは、同じ職業の人が集まって結成された組織のことである。
ギルドに所属すると、ギルドに入ってきた仕事の依頼を受けたり、ギルドが所有している建物の中に自分の作業ブースを借りたりすることができるようになる。
ギルドメンバーは仕事の仲介料や作業ブースの賃貸料として一定額をギルドに納める必要があるが、ギルドの所有する機材や資材を自由に使うことができるという利点がある。
ギルドに所属せずに、独立して仕事を行っている人などもいる。
このギルド制度を真似て作られたのが、『スクールギルド』である。いわゆる部活やクラブのようなものである。
ギルドに参加することで、その後の仕事にもつながるような技術や技能を実践的な形で学ぶことができる。もちろんただの趣味のようなギルドも存在するが。
他の学校と腕を競い合う『ギルド対抗戦』などもあり、大きな盛り上がりをみせている。
ディナカレア魔法学院にも、火属性魔法ギルドなどの基本属性系ギルドをはじめ、魔法剣術ギルドや魔法調薬ギルド、魔法具開発ギルド、新魔法研究ギルドなど多くのギルドが存在している。
そして、入学から一週間は午後からの時間を使って新入生がギルドを見学したり体験したりすることができるようになっていた。この間は午前授業となり、午後からはそれぞれのギルドがブースを作って展示したり、デモンストレーションをしたりして、新入生を勧誘する機会となっていた。
「いや…全然考えてなかったけど…そういえばサリーって何のギルドなの?」
「私はねぇ…
サラはすごく嫌そうに言った。
『
それゆえ、
普通であれば大変名誉なことであり、ディナカレア魔法学院の
「へぇ~、そうなんだ、じゃあ同じギルドには入れないね…Fランクじゃ
「う~ん…でも
「あぁ、あれね、510点だったよ」
「……あれ500点満点なんだけど…?」
「んー、なんか最後の問題の解答が模範解答より良かった?みたいで加点されてた」
「し、信じられない…私、勉強の方もかなり頑張ってきたつもりだけど420点だったわよ。しかも最終問題って…あの嫌がらせみたいな問題でしょ?あんなのわかるわけないわ」
ルビアはルーシッドのありえない点数に頭を抱えた。
「ルビィ、落ち込まないで、420点はかなり高い方よ。逆にルーシィが頭おかしいのよ」
「…ひどい言われようだね」
「多分ルーシィがいなければペーパーテストで1位だと思うわ。今回の最終問題って何だったのかしら?最終問題は毎回超難題で、今まで満点だった人は誰一人いないと言われているけど」
「『土属性魔法か水属性魔法のどちらかを用いた飛行魔法を可能にするにはどうしたら良いか』って問題だったね」
「飛行魔法かぁ…しかも飛行に全く向かない土属性か水属性だなんて…この問題解かせる気があるのか?」
ライカが述べたことにみながうなずいて同意した。そこにいる誰もがその問題の理不尽さを理解したようだ。
一般的に使われている飛行魔法は火属性や風属性である。土属性と水属性の飛行魔法は今のところ確認されていないし、文献にも存在しない。そもそもこの問題は出題者側も完璧な解答を求めて作った問題ではないのだ。発想力や着眼点、独創性などを見るための問題であって、飛行魔法を受験生が完成させることができるなど思っていないのである。そもそも解答が存在しないのである。
「え、でも待って…その最終問題で満点どころか加点ってことは、ルーシィ、新魔法をテスト時間内で開発したってこと?何それ、意味わかんない」
フェリカはあきれたように言った。
「ルーシィならやりかねないけど…ちなみに、土属性と水属性どっちで考えたの?」
「時間が余ってたから、両方作ったけど…ちなみに、解答には書かなかったけど、詠唱文もできてはいるよ。私魔法使えないからまだ試してないけど、多分使えると思うよ」
「そんな馬鹿な…」
「1つでいいのに、2つ作ったから加点されたってことね…はぁ…ルーシィには毎回驚かされるわね」
「あっ、あのっ!…わたし…土と水の飛行魔法、試してみたい…なぁ…なんて…」
フランチェスカはおずおずと尋ねる。
魔法には、全員が詠唱文を知っている魔法と、ある特定の人しか知らない魔法がある。
全員が詠唱文を知っている魔法は、かつての偉大な魔法使いたちが詠唱文を文献に記している魔法や、ディナカレア魔法学院などの国立の魔法研究機関が発案、公開しているような魔法である。
個人やその一族だけ、あるいは特定の団体しか詠唱文を知らない魔法もあり、その場合には
他にも、どういう魔法だったかという記述は文献に残っているものの、詠唱文が不明な魔法なども多くあり、そういった魔法を復活させた例などもある。
なので、新しい魔法の詠唱文となると、それを他の人に教えるかどうかはその人個人にゆだねられているのだ。場合によっては国などから打診がきて、非常に高額で買い取られるという場合もある。
とりわけ今回のような、今まで不可能だとされていた土属性や水属性の飛行魔法の詠唱文となると、いったいどれだけの価値があるかは想像がつかないくらいである。
「ちょっと、フラニー、ずるっ、じゃなくて、さすがにそれは…」
サラは自分の感情を飲み込んでたしなめた。
「そ、そうよね~…ごめんなさい、ちょっと好奇心が抑えられなくて…新魔法の詠唱文なんてさすがにそう簡単に人に教えられないわよね…」
「あはは、いいですよ。放課後みんなで試してみましょうか」
「え、いいのっ!?新魔法よ!?」
「いいですよ、私も実際に試してみたいですし。今までも色々新しい魔法作ってはサリーに試してもらってたしね?サリーはどんな魔法でも使えるから、実験台としてはほんと優秀で助かるよ」
「なんかひどい言われ方をしている気がするわ…」
「えっ、ちょっと…今までにも作ったことあるの…?」
「そうですね、20個くらいは作りましたかね」
「じゃ、じゃあサリーがよく使ってるオリジナル魔法って…」
みんながサラを見ると、サラは目をそらして口笛を吹いた。わかりやすいとぼけ方である。
「サリー!あなたこそずるいじゃない!」
「…むー、やっぱりルーシィは
「サリーがそう思っても、他のメンバーが認めないと思うよ」
「むぅ~…」
サラは黙り込む。確かに
「ところで、フラニー先輩たちは何のギルドなんですか?サリーと同じですか?」
「いえ。私は、
「へぇ、結構忙しそうですね」
「まぁね。正直言えば、
「うぇ!?ルビィはともかくあたしもですか?あたしは全然ですよ!
フェリカはぶんぶんと手を振って否定した。
「いえ、リカ、ルーシィがFランクという評価なのも不思議だけど、あなたがDランクというのも不思議よ。あのルーシィとの対戦で見せた相手の動きを封じる不思議な魔法。あれがあの場限りのものでなく常時使えるものだとしたら、あなたはランク以上の実力者のはず…まぁあの魔法が何だったのか秘密にしなければいけないなら別だけど」
「あ、いや別に、やり方…がちょっとだけ秘密なだけで、魔法自体は多分知ってると思いますよ…あれは『ルーン魔法』です」
「る、ルーン魔法ですって…!?文献でしか見たことがないわ。古代の魔法で使い手はもういないと言われていたはず…あなた、それを復活させたの?」
「ん~…復活させたというか何というか…まぁそこら辺はちょっと言えないっていうか…」
「ま、まぁ、それぞれが持つ固有魔法の秘密は無理に聞き出さないのがマナーだから構わないわ…そう、でもそれなら納得ね。ルーン魔法はランクには反映されないでしょうから」
フェリカは苦笑いした。そう、フェリカにとってルーン魔法は切り札だ。魔法力がそこまで高くない自分がここまでやってこれたのはルーン魔法があったからだ。でも、やはりランクが低いことに違いはない。ランクで評価されるなら自分はDランク、平均以下なのだ。気にしていない風に明るく振舞ってはいるが、負けず嫌いのフェリカは本当は悔しかった。だから、本当は強いのにFランクという不当な評価を受けているルーシッドに自分を重ねているのかも知れない。
その後の話で、ライカは
「でも、ここだけの話、危険なギルドもあるから気をつけてね」
サラの顔色が少し変わった。
「え、なにそれ?」
「思想が少し偏っているギルドとか、迷惑行為が目立つギルドとか。あとは、正式にギルドと認められていない、いわゆる『闇ギルド』とか…この学校にも色々あるのよ」
「
「その中でも特に注意した方がいいのが
「あぁ…純色至上主義…ってやつか」
魔法界には最初、純色しか存在していなかったと言い伝えられている。魔法界の誕生や魔法の起こりについては、子ども用の絵本などの題材にもなっており誰もが知っていることだが、実際のところは、寓話や神話のような部分も多く含んでおり、明確なことはわかっていない。
しかし、どの国にも共通している言い伝えによれば、この魔法界は『人間族』『魔獣族』『妖精族』3つの種族が協力して作ったものだと言われている。その際、人間は『知恵』を、魔獣は『体力』を、妖精は『不思議な力』を出し合い、皆で協力して仕事を進めていたのだが、元来気まぐれでいたずら好きな妖精たちのせいで仕事がなかなか進まなかった。
それを見かねた妖精族の長が、人間の王に話を持ち掛けて作り上げたのが、『妖精達は人間の指示に従わなければならない』という2つの種族の間の盟約による『
この法によって、妖精たちは人間の指示の下で統制されて働くようになり、この世界が完成したというのだ。
そして、その時に人間に与えられた妖精達を統べる力が『魔力』であった。その時に与えられた魔力が純色と言われている6色である、と言い伝えでは言われているのだ。
現代の魔法界においては、純色はかなり珍しい存在となっている。長い歴史の中で、色が様々に混ざり合ってきているからだ。
しかし、現在においても純色を保っている一族が少なからず存在している。同じ色の魔力を持つ一族の間でだけ婚姻関係を結ぶことによって純色を保ち続けているのだ。純色の魔法使いたちは全員ではないが、自分たちが純色であるということに強い誇りを持っており、自分たちこそが魔法使いの正統な血族であると考えている。
特に、四大色の魔法使いにその傾向は強くみられ、定期的にその四色それぞれの中から最強の魔法使い4名を選出し『エレメンタル・フォー』と呼んでいる。
使える魔法は1つの属性に限られるが、その属性に関しては絶大な力を誇る。まさに一点特化型である。弱点属性だろうが何だろうが、圧倒的な力で蹂躙する。それが、彼らの戦い方である。かつて『エレメンタル・フォー』の放った魔法によって、街が一つ壊滅したと言われているくらいである。それだけ規格外の力を持っているゆえに、混色の魔法使いたちの中にも彼らを支持する者たちはおり、魔法界において『エレメンタル・フォー』が一部の信者から偶像視され、その発言力が無視できない存在となっているのが事実である。
「私も、この魔力のせいで、
「え、なんで?」
ルーシッドはきょとんとした顔で返事をした。
「彼らはあなたの魔力を絶対狙っているわ。どんな色にもなることができる魔力を持つ私と、どんな色もついていない透明な魔力を持つあなた、私たちと純色の魔力を持つ魔法使いが子を成したら、その子供の魔力は何色になるのかしらね?」
「あー…なるほど」
「わたしに関してはやってみないとわからないけど、ルーシィはほぼ確実に相手の魔力の色になるはず…ルーシィは純色の魔力を残すのにはすごく好都合なのよ。ルーシィがもし彼らの手に落ちたら、子を産むためだけの存在として、いいように使われてしまうかもしれないわ」
「………」
そこにいる全員が沈黙した。本当にそんなことがあり得るのだろうか。あり得るとすれば、それはあまりにも非人道的であってはならないことだ。だが、
「もちろん、もし仮にバトルになっても、ルーシィが負けるなんてちっとも思ってないけど…私だって負ける気はしないわ。でもまぁ、用心するに越したことはないわ」
「うん、そうだね。気を付けるよ
…そういえば、ちょっと気になったんですが…ライカ先輩も純色ですよね?」
「あぁ、そうだよ。私の本名は、フルミネ・マシロ・ライカと言う。マシロはクシダラの言葉で
「そうだったんですね。ギルド体験週間…何も起こらないといいですけどね」
ルーシッドは自分にとって厄介な存在となるかも知れない純色の魔法使いと、
同刻、ディナカレア魔法学院のある場所で、
「この機を逃す手はない。さらに我々、純色の魔法使いの支持者を集めるのだ」
「だが…
「そんなものを恐れていてどうする?純色の魔法使いこそ、正当な血統、最強の魔法使いなのだ。そのことをやつらにわからせてやるのだ」
昼休みが終わり、いよいよ新入生に向けたギルド体験週間が始まろうとしていた。それは同時に、このディナカレア魔法学院に巻き起こる動乱の始まりでもあった。
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