入学試験ーポルトエプルーヴー⑥ 決勝戦、そして入学式…
「手加減はなしよ!」
「えぇ、約束ですから、本気で勝ちにいきます」
「私も全ての力を持って、あなたに挑むわ!ルーシッド、こんなわくわくする対戦は初めてよ!」
「私も同感です!」
試合開始の合図が鳴り響く。それと同時にルーシッドがいつものように、魔方陣を展開する起動キーを言おうとしたその時だった。
ルビアがいない?
そう、すでにそこにはルビアの姿はなかった。そして次の瞬間、ルーシッドは背後からの攻撃を受けていた。ほんの一瞬の出来事で、ルーシッドは全く反応できなかった。キンッ!という金属と金属がぶつかったような音がして、ルーシッドは自らの意志に反して攻撃を弾き返した。ルーシッドが振り返るとそこには何の姿も無かった。そして前を向き直っても、ルビアの姿はない。ルビアは完全に姿を消した。
『ルーシッド様、
エアリーがルーシッドにそう伝える。ルーシッドは戦闘時には常にこの自動防御システム『フォートレス』を起動していた。
全く見えなかった。一瞬で後ろに?どんな
ルーシッドは物理障壁で弾いたとはいえ、この模擬戦で初めて自分に攻撃を当てたルビアの能力について考える。
常時展開の物理障壁ですって?…なるほど…本当に恐ろしいくらいに強い…でも、
ルビアは自分の必殺の一撃を弾いたルーシッドに対して、改めてルーシッドの強さを認めるも、突破口を見つけ出そうとしていた。
考えろ、考えるんだ。ルビアの魔力色は何だった?
名字はスカーレット。黒は後から足された?
ここまで使用したのは
いや、待って。
黒の魔力と言っているだけで、
さっきのは……
そうだ、影だ!
「
ルーシッドがとっさにそう叫んでジャンプしたその時、ちょうどルーシッドの影からルビアが短剣を真っ直ぐに突き出しながら飛び出してきた。ルーシッドは地面に着地することなく、空中の見えない板を踏んでいるかのように、そのまま空中に停止した。
「やはり……
ルーシッドは、影の中から姿を現したルビアを空中から見下ろしながらそう言った。
「ご明察。『
手に持った漆黒の短剣を振り下ろしてルビアが答える。
「
「はぁ…本当になんでも知っているのね…」
ルビアはあきれたようにため息をつく。
「それは…
「まぁ本物といってももちろんレプリカだけどね」
「なるほど、詠唱なしで
「えぇ、神々の武器はそれ自体に特殊な効果があるわ。適した
「これがとっておきの隠しだまですか?」
「まぁ、これで勝てたら楽だったんだけどねっ…!」
“opFAte iBreG, shis, DOP, hes!!”(
「あっ、
ルーシッドの影から黒い手のようなものが伸びてきて、ルーシッドの足をつかまえる。
「しまっ…」
その黒い手はものすごい勢いでルーシッドを引っ張った。ルーシッドは突然の事態に反応できず、無色の魔力で作った透明な板から滑り落ちる。その先にはルーシッドの影から姿を現したルビアがいた。ルビアは手に持っていたカルンウェナンを鋭く突き刺す。
「
ボンッ!!という大きな破裂音がして、ルーシッドは重力を無視した動きで真横に吹き飛び、足をつかんでいた手を引きはがし、地面を転がるようにして着地する。
「
「それでも…あなたの詠唱速度には及ばない…」
『
“DOP, return, gulp me, wear U”
ルビアがそう唱えると、ルーシッドの影から黒い塊が分離し、ルビアの影に戻った。そして、その黒い塊はそのままルビアを飲み込み、ルビアの体に漆黒の服を形成していく。それは漆黒のドレスだった。大胆に胸元と背中が開き、右脚も太ももに至るまで大きくスリットが入った妖艶な黒のドレス。しかし、手にはめたレースの手袋からは長い爪が生え、背中からはカラスのような漆黒の羽が生えていた。特徴的だったスカーレット色の髪も真っ黒に染まっていた。その妖艶さと恐ろしさが入り混じったルビアの姿に会場が異常なほどの熱気に包まれた。
「なっ……?」
「これが我がスカーレット家が開発した影の究極魔法『
そう言うと、ルビアはその漆黒の羽を広げて空に舞い上がった。
「私の全てをこの一撃に込める!!行くわよルーシッド!!!」
“oPen the fiAry GATE.
(開け、妖精界の門)
in-g,rE,DIeNT = scar-LET.
(食材は緋色の魔力)
re:ciPE = FEuiLLE-TagE.
(調理法は折パイ)
greAT SOLaR DeiTY, LUGH.
(偉大な太陽神ルーよ)
pLEAse L-END Me UR BURNing jave-LIN.
(我に汝の灼熱の槍を貸し与えたまえ)
shoOT the EnEmY! DeaD shot magia jave-lin, MagiA VardAS = BRIONAC!!”
(敵を撃て!必中の魔槍『ブリューナク』!!)
ルビアがそう唱えると、振り上げた右手に炎が集まりだし、真っ赤に燃え盛る槍が形成されていく。だが、それは槍と言うにはあまりにも巨大であった。神殿の柱のような太さの槍がどんどんとその形を形成していく。
「うわぁ…
『了解です』
「
ルーシッドの前に大きな魔方陣が一つ、そしてルーシッドの後ろには円を描くようにいくつもの魔方陣が展開される。
「
ルビアに向けて大砲の銃身のように魔方陣が幾重にも構成される。
「
ルーシッドの前の空気の温度が急激に下がり始め、氷が形成されていく。その氷の塊はルビアに向けて展開された魔方陣に沿ってどんどんと伸びていき、槍のように先端が尖っていく。
「力と力の真っ向勝負です!!」
「望むところよ!!」
「「いっけぇえぇぇぇえぇぇぇぇ!!!!!」」
ルビアが腕を振り下ろすとルーシッドに向けて灼熱の魔槍『ブリューナク』が真っすぐに飛んでいく。それと同時にルーシッドの作った氷の槍も重力に反して、空気を滑るようにしてルビアに向けて飛んでいく。
『
「はぁ…はぁ…私の今使える最強の
「素晴らしい魔法でした!お世辞抜きであなたは今まで戦った中で誰よりも強かった!」
「
ルーシッドがそう言うと、ルーシッドの前でバチバチと放電が発生し、その光がどんどんと強くなっていく。そして、それが水晶玉のように球体になり、ルビアに向けて飛んでいく。
「ま、まさかっ!
ルーシッドの作った眩いほどの人工光源体に照らされたところから徐々にルビアのドレスがはがれていく。そして、背中の翼も光に溶けていくのと同時にルビアは自由落下を始める。
「きっ、きゃあぁあぁぁぁ!!」
ルビアは思わず悲鳴を上げる。会場からも悲鳴が上がる。しかし、ルーシッドが落下地点に走っていきルビアを見事にキャッチした。
会場からは大迫力の戦いのフィナーレに対して、割れんばかりの歓声と拍手が送られた。
「あっ、ありがとう…」
ルーシッドにお姫様だっこされる形となり、照れながらルビアが感謝を伝える。
「いえ…大丈夫ですか?」
「う、うん……あーぁ…やっぱり全然かなわなかったなぁ…」
ルビアは天を仰いだ。自分が持っている全ての力を出し尽くしても、全く歯が立たなかった。
「いや、そんなことは…ホントにルビアは強くて、綺麗で、かっこよかったですよ」
「ふふっ、ルーシッドもね」
ルーシッドは少し恥ずかしそうに顔を赤くした。
「る、ルーシィと呼んでください…親しい人はそう呼ぶので…」
「じゃあ、私の事もルビィと呼んで。親しい人はみんなそう呼ぶわ。それにその敬語もやめてよ」
「わ…わかったよ…る、ルビィ」
「……ねぇ?さっきから何で目を合わせてくれないの?ルーシィ?」
「いやぁ…その…目のやり場に困るというか…」
「えっ…?」
ルビアが自分の体を見ると、そこには服が無かった。つまり全裸だったのである。シャドウドレスの魔法が解けたことによって、服がはがされてしまったのだ。本来であれば元々着ていた服に戻るはずなのだが、予期せずに
「きゃあぁぁぁ!!ちょっと、ルーシィ!?知ってたんなら、あんた
「無理だよ、だって、私の
会場はいまだに冷めやらない熱気で満ちていた。
そんな中、フランチェスカも興奮ぎみにサラに言った。
「ルーシッドもすごかったけど、ルビアもすごかったわね…」
「えぇ…」
「良かったわね、これでルーシッドも入学できるわね?」
「そうね…」
そうは言ったがなかなか難しいだろう…とサラは思った。あの頭の固い教師陣が何癖をつけてルーシィを入学させないという可能性は高い…ルーシィは本当によく頑張った。目立つのが嫌いな控え目のルーシィが、私の「一緒の学校に通いたい」という無理なお願いに答えるために一人で頑張ってくれた。
ここからは私が頑張る番
ここからは私の戦いだ
入学試験の全ての日程が終了し、ディナカレア
「いやぁ…ルビアの魔法力は頭一つ抜きん出ていましたね!」
「スカーレット家は謎が多い一族ですが、まさかこれほどの実力とは…」
「数々の高難易度魔法もそうですが、
「今回の総代はルビアで決まりですな!」
みなが興奮したようにルビアについて話す。去年のサラ・ウィンドギャザーといい、優秀な生徒が在籍しているとなれば、学院の知名度や評価もさらに上がるからだ。しかし、そんな中一人の教師がおずおずと話す。
「でも…優勝したのはルーシッド・リムピッド…ですよね…?」
「あぁ…あのFランクの…
「…実は、彼女はペーパーテスト満点だったんです。満点は入学試験史上初です」
「な、あの超難問の最終記述問題に答えを出したというのか?」
「はい、完璧、というか、何というか…出題した私たちですら思いつかないような極めて斬新な発想でした…」
「いやしかしだな…Fランクが合格したという前例がない…」
「そうですよ、そんな者が合格したとなれば、我が学院の名に傷がつきます」
「しかしどう説明します?公衆の面前で彼女はその実力を示しましたよ」
「簡単な話です。あれは『ルール違反』です。魔法実技試験のルールは『
「な…なるほど…確かにそれなら理由になるな…」
今まさにルーシッドの不合格が決定しようとしていたその時だった。
「失礼するわよ~」
一人の女性が会議室に入ってきた。
「り、理事長!!」
「どう?合格者はだいたい決まった?」
「はい、ぼちぼちと!」
「いい?厳正中立に頼むわよ?ペーパーテスト、
「はい、それはもちろん…」
「いやぁ、しかし今回も燃えたわね!特に決勝戦!何あれ?1対1の
「ははは…」
「……でもあれよね、ルビアの魔槍『ブリューナク』は、あれは『ルール違反』よね?あれ対人用じゃないわよね?あれはドラゴンレベルの魔獣を一撃で仕留めるレベルの
「い、いや…しかし、あんな素晴らしい才能を持った魔法使いを不合格にするのはちょっと…」
「理事長、そのくらいは大目に見てもいいんじゃないでしょうか?結局相手は無傷だったわけですし。それにあれほどの威力の
「でも相手が死ななかったのは、相手がその
その言葉に一同が沈黙する。
「いや…まぁ、それを抜きにしてもやはり、理事長が言っておられたように総合的に見てもやはりルビアは合格かと…」
「そっか…、うん、そうよね……そのくらいのルール違反じゃ不合格にならないわよね。だって総合的に判断するんだものね
……じゃあ、ペーパーテスト満点で、模擬戦優勝のルーシッドも総合的に見て合格よね?」
「あっ、あの、いや…しかし、彼女は…」
「
再び一同が沈黙する。
「興味深いと思うのだけどねぇ。気にならない?あのとてつもない力の秘密。私は気になるけどなぁ、お話してみたいわ~」
皆が何も答えないので理事長は一つの提案をした。
「……わかりました。じゃあこうしましょう。ルーシッドは、やっぱり不合格とします」
一週間後、ディナカレア
しかしそこにルーシッド・リムピッドの名前は無かった。
時は少しばかり過ぎ…
ディナカレア
模擬戦優勝のルーシッド・リムピッドは不合格。準優勝で総代に選ばれたルビア・スカーレットは総代を辞退した。ルビアは新入生の席に座って不満そうに腕を組んでスピーチを聞いていた。
「ルビィ、何で総代辞退しちゃったの?」
隣に座っていたフェリカ・シャルトリューがルビアに小声で尋ねる。ルビアとフェリカはルーシッドの一件以来、すっかり仲良くなっていた。
「今回の総代は私じゃない。ルーシィよ。ルーシィがいないのに私が総代だなんて筋が通らないわ。今回の総代は本来なら空席のはずだわ」
「ルビィ男前。惚れ直しちゃう。あーぁ…ルーシィか~…どうしてるかなぁ…一緒の学校に通いたかったなぁ」
「……私だって…家の事情がなければ、ルーシィの凄さがわからないこんなクソみたいな学校なんて辞めてやるところよ」
「わーぉ、ルビィかっこいー!惚れ直しちゃう!」
「何回惚れ直すのよ、あんた」
そうして入学式は滞りなく終わり、それぞれがクラスに分かれ、担任の先生が挨拶し、クラスメイトもそれぞれが自己紹介をする、という最初の顔合わせが行われていた。ルビアとフェリカは同じクラスになっていた。クラス分けは入試の成績を元に決定されるが、実質的に一番
「えー、じゃあ最後になりますが、皆さんに転入生を紹介します」
担任の先生がそう告げると、クラスはどよめいた。入学式の日に転入生なんて聞いたことがない。どんな事情があると言うのか。
「じゃあ、入ってください」
先生の呼びかけに答えて、転校生が扉を開けて入ってくる。
「ちょっ…る、ルビィ!!ルビィ!!!」
つまらなそうに窓の外を眺めていたルビィの肩を隣の席のフェリカがバシバシと叩く。
「いたっ、痛いってば…一体なんだってい…ぅ………」
「あ…あの…どうも…ルーシッド・リムピッドです。ちょっとした事情で、正式な入学ができずに、転入という形になりましたが、よろしくお願いします」
ルーシッドはぺこりと頭を下げた。
ルビアは席を勢いよく立ち上がった。目に涙が浮かぶ。
「やぁ…ルビィ、ひさしぶっ…!」
ルビアは席から走り出してルーシッドを強く抱きしめた。
「ちょっと…ルビ、ぐえっ…!」
遅れて走ってきたフェリカも抱き着く。
「入学おめでとう…ルーシィ…!」
「ルーシィ!!会いたかったよー!!」
「あはは…ありがと、心配かけてごめんね」
「……わかりました。じゃあこうしましょう。ルーシッドは、やっぱり不合格とします。
代わりに転入生ということにします。我が校の転入試験は、以前の学校などからの推薦状があれば、『ペーパーテストのみ』で良いというルールです。ルーシッドに関しては、入学試験のペーパーテストの成績から見て、これも免除します。推薦状は私が書いても良いのだけれど、サラ・ウィンドギャザーが先ほど私の所に直々に持ってきました。彼女ほどのしっかりとした実績がある
入学式に出席していたサラは小さな声で、そこにはいない自分の親友に歓迎の挨拶を送っていた。
「ようこそ、ディナカレア
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