詩集ーことの葉ゆうげ

月乃ゆみ

織姫と恋心


黄昏れ時の海をひとり座って見ている。

寄せては返す波音が、私を過去へと引き戻す。


「織姫の織る布は

恋人たちの想いが詰まってるんだよ。」

と、彼は言った。

恋人たちの恋心が糸となり、

織姫の手によって美しい布へと形を変えていくんだよ。


そう話す彼の横顔が少し照れていた。

夏の砂浜でふたりで寝転んで見上げた星空。

天の川がきれいに見える所へ、旅をしようと彼は言った。


ふたりでどこが良いのか、語り合ったよね。

もう、遠い昔のことのように感じる。


彼とは旅に出て天の川を見ることはなかったけれど、

今度、私はそこで暮らすことになった。

旅立つ前に、この海に来た。

私よりもロマンチストだった彼と来た海。


織姫は今の私のこの想いも、織るのだろうか。

叶うことがなかった想い。

それでも確かに存在した想い。


私は立ち上がって海に背を向けた。


波音は、私の背を押すように繰り返される。

お行きなさい。

静かに静かに繰り返される。




織姫は覚えていた。


夏の陽射しに負けないくらい、煌めいていたふたりの恋心を。

キラキラと輝く衣が織りあがったことを。


今、新しく紡がれた糸は彼女の想い

小さな光を宿したその糸を織姫はそっと手に取った。

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