第38話執務室にて
アルバートが入学試験を受けた日の夜、王城の執務室に飛び込んでくるものがいた。
「た、大変ですっ!!!」
「どうした、ルクセンド」
いつものことか、と思いながら国王エドワードは飛び込んできた男に視線をやる。
部屋に飛び込んできた男の名はルクセンド。
フォルトナンセ王国の宰相をしている。平民の出にもかかわらず、学生の時、現国王であるエドワードのお目にかない官僚にならないかと誘われたそうだ。その後は数々の功績を立て、その手腕を誰もが認めた。そうして昇進し、現在は官僚の最高位である宰相を務めている。
王国の頭脳とも呼ばれている。
「本日行われました王立フォルトナンセ学園の入学試験にて大変なことが起こりました!!!」
「落ち着け。それでなんだ、大変なこととは?」
エドワードはまるで子供を見るような目でルクセンドを見ている。
こんな男が王国の頭脳と知っているのは昔から付き合いの長いエドワードくらいだろう。
2人の時は堅苦しい口調をやめろと言ったはずなのだが……。
エドワードはそんな事を思いながら続きを待った。
「水の賢者様が施した魔法障壁が破られました」
「そうか、魔法障壁が破られたか……って魔法障壁が破られた!? 水の賢者が施したこの国最強の障壁だぞ!?」
「はい、障壁が破られたと学園長である水の賢者が伝えにきました」
一旦エドワードは息を整えて、思考を整理する。
「誤報、では無いのか?」
「はい、何度も本人に確認しましたが事実のようです」
「しかし、いったい誰がそんな事を……」
「5年前のあの少年ですよ。ハワード侯爵家四男アルバート。ハワード領魔物掃討作戦の時に父のジャック殿と王城に来た少年です」
そう言われて、5年前のことを思い出す。
「ああ、あの少年のことなど忘れるはずもない。何せ、大精霊ウンディーネの契約者なのだからな」
「ええ、しかし10歳にして水の賢者の魔法障壁を破るとは。でも驚くのはそれだけではありません」
「どうした? 校舎が壊れたとかなら修理費は王室が出そう。何せあそこは王立だからな」
「いえ、それもあるのですが……」
「いや、それもあるのか。で、何なんだ?」
「彼の撃った魔法は火魔法の初級魔法『火球』だそうです」
「……どういう事だ? 全く理解できない」
「では詳しく説明します。魔法の属性的に水は火に勝ります。しかし今回、水属性を主としたこの国最強の魔法障壁を水に勝るはずのない火属性魔法、しかも初級魔法の『火球』で破ったという事です」
「お前の言っている事は分かっている。しかし少し理解が追いつかんな」
「つまり、規格外、という言葉一つで彼の存在を言い表すことができます」
「なるほど、規格外か」
「つきましては、彼をこの国に属させることが重要となります」
急にオーラが変わった、とエドワードは思った。
「彼を他の国に属させる事は国益を損なう恐れがあります。何らかの形でこの国に引きとどめておかねばならないかと」
「しかしあの少年の夢は冒険者とか言ってなかったか?」
「ええ、それは承知です。冒険者という身分を保障し、かつ国が行動の枷にならないような、そんなものがあれば良いのですが……」
「名誉騎士爵はどうだ?」
「しかし、それは平民に贈られる最大の爵位でございます。しかし彼は平民ではなく貴族です」
「ならば、これからは貴族、平民など関係なく多大な功績を残した者に名誉騎士爵を与える事にすれば良いのでは?」
「その考えはよろしいですね。しかし多大な功績が……」
「5年前にあの少年は国難を退けた英雄なのを忘れているのか?」
「そうでしたね。それも含めて名誉騎士爵授与はいいと思われます」
「ああ、あまり自由を制限されずに、かつ王国の人間だと他国にアピールできる」
「前向きに検討しなければなりません。近頃帝国の動きも怪しくなっていると報告を受けております。何があるかわからない時こそ、早めに対応をお願いいたします」
「分かった」
そう言葉を交わし、ルクセンドは執務室を出ていった。
「しかし、あの少年はいったい……」
エドワードは誰もいない部屋の中で一人そう呟いた。
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何やらアルの知らないところで大きなことが起こりそうですね。
予告もなく三人称視点にしてしまい申し訳ありません。混乱している方もいるかと思いますので一応書かせていただきます。
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