第3話 三回まわってワン!


道具なしクッキングを強いられてる僕は、中身のない頭をフル回転させてどう乗り切るかを考えた。

幸運なことに食器棚だけあった。

高そうな食器がズラリと並んでる。

まあ、あったところでどうなんだと思ったが……

ちょうどいい大皿があったので今回はこれを使う。


よし、まず最初はキャベツを手でちぎろう。

一玉をちぎりにちぎって山盛りのちぎりキャベツが出来た。

やれば出来るじゃん!

次はもやし……はそのままでいいでしょ!


問題はレバーだなぁ……

生レバーを手に取ってみる。

ヌルヌルとした柔らかい感触にちょっとワクワクしたが、これが手でちぎるにはなかなかに難しい。

滑る、思った大きさにちぎれない、手が臭い……

が、十分ほどかけて一口大にちぎれた!

あとは……味をつけよう!


んー…………

何かないのか……?

冷蔵庫の中、流し台の下、食器棚の中色々探したけどあったのは味塩だけ。

ないよりマシか?とりあえずレバーに塩をかける。

二、三回か?いや、もう少し!

もうちょっとかな……?

二十回ぐらい振った、後悔はしてない、後は揉む。

なんかびちゃびちゃしてきちゃったけどいいや。

あとは火を通すだけ……か。

フライパンもないし、火を通せそうなのは電子レンジぐらいだよなぁ。

キャベツも、もやしも火を通したいから全部一緒に入れてチンだ!

大皿にレバーとキャベツともやしを山盛りにして電子レンジへ放り込む。



――五分後


もう出来たかな……

電子レンジを開けてみる。

うぉっ!?くっせぇ!!

何だこれは……何が出来たんだ……


「どうしたー?」


遠くからご主人様の声が聞こえる。

今この状況で来られたらやばい……!


「な、何でもないですよー!」


凌いだ……かな?

…………よし、気付かれてない!

レバーは火通ったかな……

キャベツの下敷きになったレバーを覗いてみる。

うわぁ……まだ赤いよなあこれ…………なんかキモぉ……

あと十分だ!!

再び電子レンジへ放り込む。


その間にゴミを片付ける。

急にご主人様が来たら何言われるかわかんないから、全部袋に突っ込んで……これで大丈夫!

キャベツのラップ、もやしの袋、レバーのトレーを一つの袋にまとめて放置。

あとは出来上がりを待つ!!



――さらに十分後



再び電子レンジが鳴った。

火が通ってればいいんだけど……

電子レンジを開けて皿を持とうと思ったその時。


「あちっ!!!」


あまりの熱さに声が出てしまった、そして持ちきれなかった皿がバランスを崩して床に落ち、ガシャーン!!という音がさらに追い討ちをかける。


「何してるんだー?」


ご主人様の声が聞こえた。

足音が一歩、また一歩とキッチンへと近づいてくる。

もうダメだ、もう終わりだ……

どんな罰も甘んじて受けよう、そう思い僕は床に散らばった謎の料理の残骸と割れた皿を見つめる。

ガチャっとドアの開く音と同時に土下座をした。


「すいませんでした!!」


怖くて顔を上げられない、きっと物凄い顔でこの惨劇を目の当たりにしてるのだろう。


「なんだこの有り様は?」


ご主人様はその場から動こうとはしなかった、声色はさっきとはかわらないようにも思えたが、それがまた恐怖を増幅させる。


「お前は料理も作れないのか?」

「…………ごめんなさい」

「なんでこうなった?」

「料理道具がないとは思わなくて……」

「だからって皿を割ってどうするんだ?」

「…………ごめんなさい」

「この皿いくらすると思う?」

「え、ご、五千円……ぐらい?」

「その十倍だな」

「えぇぇえええ!?あ、あの、どうしよ……」

「割っちまったのはしょうがないからな……まあ、しばらくはもっと俺の言うこと聞くしかないな」

「は、はい……すいませんでした」


あんまり怒られなかった……?

いや、でも五万の皿割ったんだからこの後どんな事されるかわからないよなぁ……

そんな事を考えてるとご主人様は、おもむろに床に落ちた料理もどきを一口、口に運んだ。


「ちょ、ちょっと何食べてるんですか!?」

「クソみてぇな見た目だけど案外美味いじゃん」

「え、ほ、本当ですか!?じゃあ食べれるとこだけでもすくって食べますか!?」

「それはいい、きちんと片付けとけよ」


その一言を残しキッチンを出て行った。

一人取り残された、料理と僕。

さっき美味いって褒めてくれた……?

ってか一口食べてくれた……?

なんだろうこの気持ちは。

あんなに怖がっていたのに……本当は優しいんじゃないか?

なんか案外この生活も悪くないんじゃないかと思えてきたぞ!!

なぜか舞い上がり、ウキウキで後片付けをしだす。

しかし、僕はただでは終わらない人間だ。


「痛っ!く〜〜っ……!」


割れた皿で指を切った。

血がダラダラ流れることに焦り、急いで水で流す。

しかしなかなか血が止まらない。

またご主人様に迷惑をかけるのか?

仕事中だったら機嫌悪くなっちゃうかもな……

でも血が…………

様々な葛藤の中選んだ答えは……

よし、このキッチンから抜け出すぞ!

素直に報告に行くことにした。

覚悟を決めてキッチンを抜けて、リビングへと向かう。

定位置でパソコンに向かい作業してるご主人様が見える。


「あ、あの……ご主人様?」

「そこに置いてある、使え」

「え、そこ……?」


テーブルの上を見るとそこには絆創膏が置いてあった。

なんで?

まさか僕の声を聞いて準備しておいてくれたのか?


「ご主人様!まさか僕のことを思って!」

「早く片付けろ、キッチンが生臭くなるだろ」


全く!素直じゃないなぁ、ご主人様は!

おそらく今日は機嫌がいいんだ、ご主人様はそういう人だと思うことにした。

急いで、且つ丁寧に皿と料理を片付けて僕は再びリビングに戻った。


「ご主人様、終わりました!」

「そうか、今日はもう料理はいい。好きに時間を潰せ」

「ごご主人様?さっきの絆創膏って僕のために?」

「たまたまだな、思いあがるな」


ダメだ、ニヤニヤが止まらない。

実はご主人様は僕のこと大好きなんじゃないか?

相手が男だということも忘れて、喜びふけっていると。


「そうだ、ちょっと今日のお釣りを寄越せ」

「え、お釣りですか?えーと…………はい、これです」

「二千円引くからな」

「えぇ!?なんでですか??」

「あの皿の分、食費から引いていくことにした」

「そ、そんな……それじゃあ、今月は後七千円でやりくりしないといけないんですか!?」

「そういうことだ、精々がんばれ」

「せ、せめて料理道具だけでも欲しいです……!!」

「お前がお利口にしてればいいんじゃないか?」

「わ、わかりました……」

「試しに三回まわってワンって言ってみろ」


ご主人様はすごく楽しそうな顔をしている。

やっぱりこの人は鬼だ。

僕はしょうがなくご主人様の言う通りにした。


「わん!」


なんでこんな事をしてるんだ……

急に恥ずかしくなってきた……

ご主人様は笑いながらまたパソコンに向かった。

まだ僕が飼われてから一日目……

名前も知らない飼い主との生活はどうなってしまうのだろうか……?

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