第24話 ベストコーデ
シフォンのブラウスとフレアスカートに始まり、茜が持ってきたアイテムは実に様々だった。ワンピースだけとってみても、切り替えなしのIラインワンピからシャツワンピ、ドッキングワンピまでいろんな種類のものを試着させてもらった。
何を着ても茜は、キャーキャー声を上げながら似合う可愛いと褒めてくれるし(その辺りはさすがプロと言うべきかもしれない)、相当な回数着替えたにもかかわらず案外疲れなかった。むしろ楽しかったくらいだ。
素敵な洋服に身を包むのは気持ちがいいし、何より気分が上がる。
「たぶん、候補はこの辺じゃないかな」
最終的に、茜がピックアップしたコーデは三つだった。ざっくりとしたオフタートルのニットにチェック柄の台形スカート、淡いストライプ柄のシャツワンピにカーディガン、細めボーダーのカットソーにワイドパンツ──どれもおしゃれだ。
「まあ、全部あげるから最終的には好きなの着ていけばいいんだけどね」
茜はそう言ってにっこりと笑う。今、とんでもないことを言われた気がするのは気のせいだろうか。
「え、あの、全部あげるってどういう……」
恐る恐る聞き返すと、茜はきょとんとした。
「あれ? 言ってなかったっけ。これもう全部着ない服だからもらってほしいの」
そう言って、並べた三つのコーデを指さす。玲奈は驚いて目を見開いた。
「聞いてないです! 緊急事態だから貸してくださるんだと思ってました……」
玲奈が言うと、茜はぷっと吹き出した。
「初デートが『緊急事態』ってかわいすぎるわよ玲奈ちゃん!」
そう言って笑いながら、手際よく洋服を片付けていく。そして、LDKに続くドアを開けた。
「さあ、最後に現役男子高生の意見を聞くとしますか!」
祐輝は並べられた三つのコーデを順番に眺め、最後に玲奈を見た。
「で、何?」
言葉少なに言う祐輝に、茜はふふんと得意気に笑った。
「だーかーら、一番グッとくるのはどれよ? リアル・男子高生的に」
玲奈はなんとなく不安になる。いくら祐輝でも男子からしたらどれも一緒だと思えるかもしれないし、あるいは玲奈にはどれも似合わないと思っているのかもしれない。内心おろおろしていると、祐輝と目が合った。
「それでしょ。生徒会長は」
こともなげに言って、茜に視線を戻す。驚いて茜を見上げると、その顔には満足げな表情が浮かんでいた。
「さすがねーあんたは」
どういうことなのだろう。一人混乱していると茜がにっこりと笑いかけてきた。
「最終的には玲奈ちゃんが決めればいいんだけどね。でも現役アパレル店員と現役男子高生の意見が一致しちゃったみたい」
そう言って、隣の部屋から姿見を引っ張ってくる。
「と、いうわけで! 園田姉弟のおすすめデートコーデです!」
正面に姿見を置かれ、玲奈にもようやく意味が分かった。候補は三つではなく四つだったのだ。
「これ……」
玲奈は今、首元にビジューがついたカットソーにギンガムチェックのクロップドパンツを着ていた。トップスの大人っぽさとパンツのカジュアルさが絶妙に調和している。
「玲奈ちゃん、わりと腰が高いタイプだからパンツスタイルがよく似合うのよ」
茜が鏡越しに解説をしてくれた。確かに、普段よりもずっとスタイルが良く見える。一言で言うとバランスが良い感じがするのだ。
服を売る仕事をしているくらいだから当然なのかもしれないけれど、茜のコーデ力は本物だ。
「すっごく可愛いです……!」
振り返るとあかねは優しく微笑み、玲奈の肩をとん、と叩いた。
「気に入ってもらえてよかったわ。それじゃ、良い時間だしご飯にしましょ!」
茜の言葉に玲奈は目を見開く。──ご飯?
「──はいはい。どうぞ」
後ろから祐輝の声が聞こえた。そう言えば、なんだかいい香りが漂っている。
「……えっ?」
驚いて振り向くと、祐輝がローテーブルに食事を並べているところだった。
「簡単なもんだけど」
そう言う祐輝の手にあったのは親子丼だ。サラダとみそ汁も添えられている。どうやら玲奈が着せ替え人形になっている間、祐輝はこちらの部屋で食事の準備をしていたらしい。させられていた、と言うべきか。茜が祐輝と話していたのはこのことだったのだと今更ながら思いいたる。
「園田くん、料理できるんだ。すごい」
玲奈が思わず言うと、祐輝は「いや」と首を振った。
「簡単にしか作ってないから。親子丼の味付けはめんつゆだし、出汁入り味噌使ってるし」
祐輝の口調は淡々としていて、謙遜している風ではない。けれど、普段からある程度料理をしているのは間違いないように思える。
「さっすが我が弟! ほんとありがとねー!」
茜は朗らかに言って、広げた衣類を手早く片付けた。手伝おうと思うものの、あまりの手際の良さに手伝いを申し出る余地もない。玲奈は祐輝の方を手伝うことにした。
「お姉さんと仲、いいんだね」
コップと割り箸を手に話しかける。けれど返ってきたのは「まあ、普通」という気のない返事だった。
「帰りは家まで送ってくってさ。それから──」
祐輝はいったん言葉を切り、ちらりと茜の方を振り返った。けれど彼女にこちらを気にする様子はない。
「頑張りなよ。生徒会長」
そう言って静かに微笑み、祐輝は玲奈に背を向けた。
(あれ……?)
なんだろう、今何か引っかかった気がする。いや、気のせいだろうか。けれどその違和感の正体に手が届かないうちに、玲奈は茜の声に意識を引き戻された。
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