第7話 姿勢と変化
(うう……まさかここまできついとは……)
良い姿勢を保つのは思いのほか大変だった。気づけばいつの間にか楽な姿勢に戻っていることがしょっちゅうあるし、何よりそれが無意識なのだ。
つくづく、自分にとっては悪い方がデフォルトなのだなと思わされる。
それでも、母親なんかはやはり目ざとく気付いて、「玲奈、最近姿勢良くなったんじゃない?」などと言ってきた。
それからじっと目を見て、「お化粧も始めたみたいだけど、目にだけは入らないようにするのよ」とも言った。
自己責任の放任主義に見せかけて、案外気にかけてくれているのかもしれない。
一方学校では、琴音以外誰も何も触れてこなかった。
何百人もの生徒の中の一人の地味で冴えない女子が多少変わったところで、誰も気に留めないのだった。高校生はそこまで暇じゃない。
それに、最初からかわいい女子がいくらでもいるのだ。
「──玲奈? 玲奈だよね?」
聞き慣れた声に振り向くと、やはりそこには琴音がいた。
「琴音。おはよう。どうしたの?」
おそるおそる、といった感じで話しかけてくるなんて琴音らしくない。何かあったのだろうか。
「いや、それはこっちの台詞だって。なんか雰囲気が違うから……」
そう言って琴音は、玲奈の体を上から下までチェックしている。
「え、そんなに?」
街のガラスウィンドウに映るシルエットは確かに変わった気がする。けれど第三者──それも琴音のような親しい人間が後ろ姿で迷うほどの変化なのだろうか。
「いや、実は中学の時の友達が、姿勢良くして過ごすだけで三キロ痩せたって言うから……」
何か言われたときのために考えてきたもっともらしい言い訳だった。姿勢を変えるだけで本当に三キロも痩せるのかどうかは知らないけれど。
「え、何それマジ!? あたしもやる! どうやんの?」
急に元気になる琴音に思わず吹き出してしまった。琴音は特に姿勢が悪いわけではないので、玲奈と同じことをやったとしてもあまり意味がない気がする。
けれどせっかくなので、お腹の伸ばし方は教えておいた。
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