第4話 偏差値

「──あれっ? ふたえにしてる!」

 目が合うなり、玲奈の変化に目ざとく気付いたらしい。同じクラスの友達・城山琴音はそう言ってまじまじとこちらを見つめた。

 琴音とは高校に入ってからの付き合いだが、最初の席が近かったために入学直後から仲良くなり今に至る。親友と言ってもいいかもしれない。

「あ、うん……」

 どう反応していいかわからず、歯切れの悪い返しになってしまった。けれど、さすがだなと思う。琴音は玲奈の顔について「何かが違う」ではなく、何が違うのかを的確に言い当てた。

 ふたえに「なってる」ではなく「してる」と言ったのも、意図的にそうしていることをわかっているのだと思う。

「言うほど違和感もないし、きれいにできてると思う。やっぱ玲奈は器用だよね」

 そう言って琴音は、机の上に乗り出していた身を引っ込めた。気が済んだらしい。

「でもなんで急に? なんか心境の変化でもあった?」

 琴音の口調からは意識的なさりげなさが感じられる。気にはなるけれど追及はしたくないのだろう。

「うーん、そういうわけではないんだけど……なんか流れで指南してもらっちゃったからやってみようかなって感じ」

 答えながら、二つ折りの手鏡を取り出す。特に崩れたりはしていない。

「変……じゃない?」

 鏡をのぞき込んだまま尋ねると、琴音はあっさりとうなずいた。

「大丈夫。しかもそれで顔面偏差値が十──は言い過ぎか。八くらいは上がってる」

「え、ほんとに?」

 模試で偏差値を八も上げようと思ったら並大抵の努力じゃすまない。でも顔面偏差値ならこんなに簡単に上がってしまうのだろうか。

(って、それは私のもともとの偏差値が低いからってだけなのかもしれないけど……)

 果たしてこれは喜ぶべきなのか、よくわからない。

「っていうかさ、世の中には二種類の人間がいるよね」

 琴音が話を変えたので、玲奈も鏡から顔を上げる。

「生まれつきふたえの恩恵を享受できる人間と、そのふたえになるためにひとかたならぬ努力を要する人間」

(な、なんだそれは……)

 思わずずっこけそうになる。なぜそこで二分できると思ったのか。

「……一生ふたえの恩恵を享受できずに終わる人間、もいると思うんだけど」

 気のない反論を試みると、「じゃあそれも追加―」とさらに気のない返事が返ってきた。

「適当すぎる……」

 呆れた風に言ったものの、このユルさはなんだかんだで心地いい。

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