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 白のワンピースに着替えて部屋を出た沙良は、待ち構えていたアスヴィルの姿を見てカチンコチンに固まった。


「………」


「ね? 言ったでしょう。オトメンって」


 なぜだかミリーが勝ち誇ったように言う。


 だが、想像をはるかに超える光景に硬直した沙良には、その声は届かなかった。


 フリフリである。


 フリフリのエプロンである。


 部屋から出た沙良の視界に飛び込んだのは、シンプルな黒い上下の服の上に、フリフリの白いエプロンを着込んだ、いかつい顔をしたアスヴィルの姿だった。


「いやぁ、いつ見ても半端ない破壊力ですよねぇ」


 楽しそうにケラケラ笑いながら、ミリーは、どこから取り出したのか、同じくフリフリの白いエプロンを沙良に着させる。


「さ、心行くまでお菓子作りしちゃってくださいなぁ」


 ミリーは沙良にエプロンを着させ終わると、深緑のソファにごろんと横になった。


 手伝う気は、サラサラなさそうである。


 アスヴィルの目の前に取り残された沙良は、おろおろと目を泳がせた。


 見てはいけないものを見ている気がする。


 しかしアスヴィルは、自分の今の格好が周囲を凍りつかせるほどの破壊力を持っていると認識していないのか、何事もなかったかのような顔でキッチンに立った。


「まったくの素人だと聞いているが、本当か?」


 淡々とした声で訊ねられて、沙良は慌ててアスヴィルの隣に、人二人分くらいの隙間を開けて立った。


「は、はい! はじめてです!」


「そうか。では、比較的簡単なクッキーやバターケーキにしようか」


「は、はい! よろしくお願いしますっ」


「沙良様ぁ、そんなに緊張しなくても、取って食われたりはしませんよぉ」


 ソファでごろごろしながらミリーが茶々を入れると、アスヴィルは彼女を振り返った。


「たまにはお前も……」


「しません」


 言葉半分ですぱっと拒否されて、心なしかアスヴィルは残念そうだ。


 気を取り直したように沙良に向き直って、彼は言った。


「それでは、はじめようか」


 ――沙良は少しだけ不安になったが、それは口には出さなかった。

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