第164話 お風呂
た……タオルで隠した方が良いのだろうか。
温泉はNGだけど……大丈夫だよね?
「タオルは付けてきてね」
僕の心を見透かすように衣織から正解が知らされた。残念なようなホッとしたような気分になった。
この扉の向こうに裸の衣織が……そう思うだけで鼓動がありえない速さになる。
人生においてこれほどの緊張があるとは……満席のホールで、クラシックギターを弾く方がまだ緊張しない。
しかし、いつまでも衣織を待たせられないし、僕が風邪をひいてしまう。
僕は意を決してバスルームの扉を開けた。
「あんまりジロジロ見ないでね」
「う、うん」
心配しなくても僕も恥ずかしいし、緊張で見れない。
つか、真面目に湯気と入浴剤でよく見えない。
僕は衣織と向き合って湯船に浸かった。
やっと人心地ついたけども……目の前に裸の衣織。
浴槽は広いけど……それでも手を伸ばせば衣織の身体に触れることができる距離感。
僕……鼻血でてないよね?
「鳴、寒かったでしょ?」
「え、あ、うん……まあ」
「くしゃみしてたもんね」
聞こえてだんだ。
「温かいね、お風呂」
「うん……」
何を話せばいいのか分からないし、どうしていいのか分からない!
これは、何もしないのが正解なの?
それとも迫った方がいいの?
そんなことを考えていると、衣織の方から僕に抱きついてきた。
な……なんて柔らかいんだ……。
そして衣織の顔が僕の耳元に……。
「私、鳴ならいいよ?」
僕の頭の中で何かが弾けた気がした。
僕は浴槽のなかで激しく衣織を抱きしめた。
抱きしめて、キスして、そして……。
——「私、先に出てるね」
「うん」
いよいよ衣織と結ばれる時が近づいている。
シャワーを浴びてから僕もバスルームをでた。
——そして衣織の待つベッドへ……。
頭がボーっとする。
気持ちが高ぶり過ぎたせいだろうか。
自分の吐息が熱いのも分かる。
ん……なんだ……?
目の前がくらくらする。
「鳴?」
あ……これは……。
ダメなやつだ。
「鳴!」
不覚にも僕は倒れてしまった。
気がつくと、僕はベッドで寝ていて頭に絞りタオルがのせてあり、隣で衣織が、手枕でうとうとしていた。
のぼせてしまったのか、風邪をひいてしまったのか分からないが僕は千載一遇のチャンスを逃してしまった。
そういえば……衣織の寝顔をこの距離で見るのははじめてだ。
自分の彼女ながら可愛い。
僕はついつい頬をプニプニしてみた。
「う……うん」
衣織は起きなかった。イベント続きだったし、きっと疲れているのだろう。
僕は鼻をツンツンしてみた。
「う……うん」
衣織は起きなかった。
でも、なんか幸せだ。
結局、僕と衣織はこのまま眠ってしまった。
翌朝、大パニックになったのは言うまでもない。
————————
【あとがき】
やっぱり鳴クオリティ!
本作と舞台を同じくした新作を公開いたしました。
『幼馴染みもアイドルのクラスメイトも憧れの先輩も居ないインキャな僕にラブコメなんて似合わない。』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054897223156
同じ学園を舞台にした物語で主人公は衣織や結衣と同学年です!
是非とも応援お願いいたします。
本作が気になる。応援してやってもいいぞって方は、
★で称えていただけたりフォローや応援コメントを残していただけると非常に嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
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