第113話 凛は人気者

 転入初日、凛はいきないりクラスの人気者になった。休み時間の都度、凛の元へ人だかりができた。帰国子女であのルックス。人気が出るのも当然だ。


 そして、皆んなが凛を取り巻くのには愛夏も一役買っている。凛がクラスに馴染めるように、色々と心を砕いてくれている。


 そして凛自身のキャリアもすごい。


 僕がギターをやめている間に凛は国内のギターコンクールを総なめにし、海外のコンクールでも好成績を残していた。


 まあ話題に事欠かないやつなのだ。


 

「凛、すごい人気だなあ」


「そうだね」


「あいつ、無理してないか?」


「うーん、どうだろう?」


「あんなにも愛想がいいイメージなかったからな」


 言われてみればユッキーの言う通りだ。あんまりフラストレーションを溜められると後で全部僕に返ってくるから若干恐怖である。



 ——昼休み。凛を一応ランチに誘ったが、クラスメイトと約束したとのことで、僕はいつも通り衣織と屋上で2人っきりのランチ……のはずだった。


 が、いつもの場所に向かうと時枝さんと穂奈美さんも陣取っていた。


「よっ師匠!」「ハロー音無くん」


 彼女たちはすごく熱心でスコアを見ながら衣織に色々と質問を投げかけていた。相当な実力者なのに手を抜かない姿勢は好感が持てる。でも、これが毎日続くと僕が困る。


 衣織と2人っきりになれないってこともあるが、朝の登校時同様、周りの視線が痛すぎるからだ。



 ——放課後、凛から僕に声を掛けてきた。


「なあ兄貴、凛も軽音入るから、一緒に行こうぜ」 


「お、軽音にするんだな」


「うん、クラシックギター部と迷ったんだけどね……父ちゃんの言いつけもあるし、軽音で兄貴の演奏のダメ出しでもするよ」


「お手柔らかにお願いします……」


 母さんとはぐれた時に部のみんなと既に面識があった凛は、すんなりと部に溶け込んだ。教室でも思ったが何気に色々わきまえていて、僕の知っている凛とはちょっとイメージが違った。僕よりも全然大人な感じだ。


 ルナそっくりな見た目に名前を呼び間違えられる一幕もあったが、嫌な顔一つせずきっちり対応していた。


 これについては恐怖である。


 名前を呼び間違えられた回数だけ、間違いなく僕に厄災が降りかかるからだ。


「凛ちゃんも相当な実力者なんでしょ?」


「とんでもないです。私なんて、まだまだですよ?」


 結衣さんの問いかけにも大人な対応で返す凛。ギターの実力だけでなく社交性でも僕は負けているかもしれない……ブランクの間に色々と差をつけられた感がすごい。


「凛ちゃんのギター聴いてみたいな……できれば鳴とセッションで!」


「いいですよ」


 即答し、ドヤ顔で僕を見つめる凛。


 そう言えば帰国してから凛は僕のレッスンばかりで、僕は凛の演奏をまともに聴けていなかった。


 もしかして……これは凛の本気が聴ける?


 ヤバイ……ワクワクしてきた。


 凛とのセッションに心を踊らせる僕だった。




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