第18話 これはキスなのかもしれない

 私は、クラーナに顔を舐められていた。

 その時、クラーナの視線が私の口に向いたのだ。

 それは、私の口を舐めたいということのようである。


「ちょ、ちょっと待って……」


 流石に、それは止めなければならない。

 だってそれは、要するにキスということではないか。


「わ、わかっているわ……流石にそこは駄目よね」

「う……」


 私の言葉に、クラーナは露骨にテンションを下げた。

 なんだか、とても悲しそうだ。


「と、というかクラーナだって、間接キスを恥ずかしがってよね?」

「……そうだったはずなんだけど、あなたの口元が気になって仕方ないのよ」


 どうやら、これは獣人の本能的なものらしい。


「……ごめんなさい。気持ち悪いわよね……」

「ううっ……」


 クラーナの悲しそうな表情を見ていると、すごく罪悪感が芽生えてくる。


「……ク、クラーナ」

「アノン……?」


 よく考えてみると、別に、唇の一つや二つくらいいいのではないだろうか。

 確かに、ファーストキスではあるが、女の子同士だし、そこまで気にする必要はないかもしれない。


 そもそも、これはキスではないとも考えられる。クラーナが、私の唇を舐めるだけだ。


「わかった……特別に口元も舐めていいよ」


 そんなことを考えて、私はクラーナに許可した。

 こんな悲しい顔をされて、許さない人はいないと思う。


「本当にいいの?」

「うん、大丈夫」


 それに、クラーナなら、キスされてもいい。

 そう思えるくらい、私はクラーナのことが好きになっていた。

 いや、もちろん友達としてだけど。


「それじゃあ、いくわね……」

「うん……」


 クラーナの口が、私の口に近づいてくる。

 そこで、私は舌で舐められると思っていたのだ。

 

 だけど、クラーナはそのまま口を閉じていた。

 クラーナの唇が、私の唇と重なっていく。


「え……」

「ん……」


 柔らかくて、なんだか心地よい感触と、クラーナの体温が伝わってくる。

 心臓の鼓動が早くなっていく。


「ん!?」

「んん……」


 口づけは、さらに深くなり、私の中にとけ込んできた。

 もう、何も考えられなくなってきた。


「……あ」


 そこでクラーナは唇を離し、声をあげた。


「……ごめんなさい。それと、ありがとう」

「う、うん……」


 これは、キスだ。

 舐められたとかではない。


 どうして、クラーナはこんなことをしたのだろう。


「その、舐めるんじゃなかったの……?」

「それは、ごめんなさい。止められなかったわ……」


 止められなかったのなら、仕方ないのかな。

 でも、やっぱり恥ずかしかった。

 

 だけど、幸せだったのも確かだ。

 クラーナとのキスは、案外悪いものではなかった。


「その……おいしかったわ」

「えっと……」


 その感想は、恥ずかしいのでやめて欲しい。


「これからも、してもいい?」

「あ、うん……」


 結局、私はクラーナからのそんな提案まで受け入れてしまっていた。

 なんだかんだ言いつつ、私もこれが気に入ったのかもしれない。


 こうして、私とクラーナの舐める問題は終わっていった。

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