第15話神獣視点

 腹立たしいことだが、聖女は夢を神のお告げだと思っている。

 余が手を貸してやっているのに、恩知らずにもほどがある!

 だが聖女といえど卑小な人間だから、過大な期待をするのは可哀想であろう。

 余は諦めて正体を伝えず指導を続けた。

 

 聖女がここに来てから四月は経つであろうか?

 今の聖女の強さは人間の範疇を超えている。

 過去の存在したどの英雄勇者も超えた存在となった。

 それもとうぜんであろう。

 余直々に四月も手取り足取り指導してやったのだからな!


「おのれ魔獣!

 今日こそオリビアの敵を討つ!」


 うっとおしい、暑苦しい、ウザイ人間だ!

 だが、心からオリビアを愛しているのは間違いない。

 オリビアがここに来て一カ月を過ぎた日から、境界を乗り越えてオリビアを助けに来たのだからな。


 視野は狭いが愛情は豊かだ。

 人間のオリビアには、番いとなる雄が必要だ。

 人間は夫婦の夫と表現するが、言葉を飾ろうと番いの雄であることに違いはない。

 オリビアに限らず、生物の最大の欲は子孫を残す事だ。

 世話をすると決めた以上、よき番いを探し与えてやる責任が余にはあるのだ。


 だが今のままではとても力が足らぬ。

 魔獣や精霊に相手をさせて、二ヶ月以上鍛えてやってるが、聖女の足元にも及ばない弱者だ。

 魔獣や精霊が上手く相手をしてくれているから、この国一番の強さにはなったが、この程度では聖女に相応しくない。


 聖女と同等とは言わぬ。

 過去最強の英雄に並べとも言わぬ。

 せめて過去最弱の勇者程度には強くなってもらわねば、聖女とは釣り合わぬ。

 この大陸最強になったとしても、その程度では余の可愛い聖女と番いにはさせられぬ!


 なんといっても聖女は狙われているのだ。

 聖女の力を封印するくらいの力と技を持っている敵がいるのだ。

 いや、敵だと断定するのは難しい。

 少なくとも聖女を殺さなかった。

 どんな理由があるかは分からないが、生まれた時には殺さなかった。


 ここに送って殺そうとしたモノと同じなのか?

 それとも別のモノなのか?

 分からない以上下手の動きはできぬ。

 相手が悪神という可能性もある。

 神獣である余が目立てば、余を殺しに来る可能性もある。


 聖女が相手なら、聖女に力を与えた神がいるから、直接介入してくる可能性は低いし、人間を偏愛している神が多いから、ウザイ人間を鍛え上げればよい。

 なるほど、そういう事か!

 人間同士の争いで聖女が殺されるのなら、聖女に力を与えた神も介入しない可能性があるのだな。

 だからまどろっこしいやり方をしている可能性がある。

 これは、ウザイ人間を強くしなけらばならん!

 今で以上に厳しく鍛えてやる!

 

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