第5話

「わん。

 わん、わんわん!」


 可愛いわんちゃんが鳴いています。

 何か訴えたいことでもあるのでしょうか?


 ビックリしてしまいました!

 急に雲が沸き起こったと思うと、嵐が起こり雷鳴がとどろきます。

 豪雨のなかなのに、とんでもない火事が広がります。

 まるで教会の話で聞いた地獄の業火のようです。

 ですが、なぜか私の周りには一粒の雨も落ちてきません。

 周囲の木々は風に嬲られ枝が吹き飛んでいるのに、私には一陣の風も届きません。


「わん。

 わん、わんわん!」


 抱きかかえていたわんちゃん、ハクが私の注意をひこうと鳴いてます。

 なんて愛らしいのでしょうか。

 また撫でて欲しいのかもしれません。

 でも撫でてあげようとしたら、するりと腕から逃げ出してしまいました。

 思わずハクの逃げた方に目をやると、なんと家があるではありませんか!


 先ほどまでは森の木々と下映えの草木しかなかったはずです。

 そこに木々がねじれて組み合わさったような、樹木の家ができています。

 まさかとは思いますが、ハクが私のために作ってくれたのでしょうか?

 ハクはただの子犬ではなく、力ある魔獣なのでしょうか?


 いえ、絶対にそんな事はありません。

 ハクのような可愛らしい存在が、恐ろしい魔獣であるはずがないのです。

 恐怖と疲れで、私が家を見落としていただけです。

 それに偶然家に似ているだけで、こういう形の木なのかもしれません。

 ここは魔境と呼ばれる場所です。

 私の知らない木々があっても不思議ではありません。


 でも、そうだとしたら、この家に見える木は、魔の木ではないでしょうか?

 家のように見せかけて、人や動物を捕らえて食べてしまう、魔樹と呼ばれるような存在なのかもしれません。

 迂闊に近づいたら食べられてしまうかもしれません!


「わん。

 わん、わんわん!」


 ああ、危ないはハクちゃん。

 勝手に入っては駄目!

 危険なのよ!

 ああ、ハクちゃんが魔樹の口に飛び込んでしまいました!

 ハクちゃんを見殺しになんてできません。


 ハクちゃんを追って、思い切って魔樹の口に飛び込みましたが、そこには信じられないモノがありました。

 完全な家になっていたのです。

 入って直ぐに机に丁度いいでっぱりと、椅子に丁度いい凹みがります。


 蔦で区切られたように幾つかの部屋に分かれています。

 いえ、部屋に分かれているように見えるのです。

 蔦が絡まってベットに使えるようなでっぱりの上は、柔らかくて寝心地のよさそうな苔が密集しています。

 掛け布団に使えるような、巨大な葉まであるのです!

 トイレにピッタリの椅子のようなでっぱりのある、小部屋まであるのです。

 あまりの都合のよさに怖くなってしまいました!


「わん。

 わん、わんわん!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る