23話 侵入

力の使いどころか……


リピの魔法により、たった三日足らずでレイラの潜む邸宅に辿り着く。

屋敷の周りには夜警の兵士達が大量に徘徊している。

かなりの数だ。


だが中には必要最小限の人間しかいない。

その動きから力のない只の使用人だと言う事が分かる。


いつ裏切るかわからない配下よりも、自分が仕掛けたトラップの方が信頼できるのだろう。人を裏切る奴は、人に裏切られる事を恐れる。

今から報いを受けさせてやるから首を洗って待っていろ。


「俺一人で行く」


「一人で?それは無茶だろ?」


レイラが何を言ってるんだという目で俺を見る。

此処にいるのは、リピを入れて10人。

当初の予定は、全員にポトフの透明化を配って侵入する予定だった。


だがそれは、屋敷の中にも大量の兵士がいる事前提の作戦だ。

他の奴らに雑魚を任せて俺がレイラと戦うつもりだった。

だが奴が屋敷に一人だと言うのならば、俺一人で出向いて引導を渡す。


幸い俺には冥界の目がある。

これがあれば全てのトラップを回避する事は容易い。


「俺は本気だ。お前達がいても足手纏いだ」


俺は冥界の力を発動させる。

但し一瞬だけだ。

口で言うよりも此方の方が早い。


「今の……力……」


レイラ達の顔色が変わる。

魔王と契約で得た冥界の力は、死を司る力だ。

人の本能を根源から揺さぶり恐怖を呼び起こす。


「王子様……」


リピが震えて、泣きそうな顔で俺を見る。

まさか俺が、こんな邪悪な力を放つとは思いもしなかったのだろう。


「これでわかっただろう。俺は王子じゃない。お前も世界樹に帰れ」


そう言うと俺はポトフを召喚し、透明になって屋敷に一人向かう。

気配を感じ取れる奴と万一遭遇しない様、早めに冥界の瞳も発動させて夜警の動きを把握する。


「ぐぅ……」


何度やっても中々慣れない。

困ったものだ。

中に忍び込み庭を見渡すと、辺り一面魔導式地雷マジックボムだらけだった。

よくもまあこれだけ埋めた物だと感心する。


魔導式地雷マジックボムは頭上を生命体が通過すると炸裂するトラップだ。

一発で即死する事はないが、喰らえばそこそこのダメージにはなるだろう。

それに侵入を間違いなく発見される。

喰らう訳にはいかない。


安全に進めるのは扉からまっすぐに伸びる道だけだが、生体感知機能が施されている。そこを歩けば侵入が瞬く間にばれてしまうだろう。


俺は跳躍する。

地雷センサー地雷センサーの小さな隙間に体を滑り込ませ、そこから何度か同じ様に跳躍して扉の前に辿り着いた。


ドアノブに手をかけ、そして出来るだけ音がしない様ゆっくと――へし折る。

ノブは回すと警報が鳴る仕組みになっていた。

へし折る時少し音がしてしまったが、警備の人間に反応はない。

中の人間にも動きはなかった。


へし折って開いた穴へ指を突っ込み、留め金部分を引っこ抜いてドアを開ける。

屋敷内もトラップだらけだ。

恐らく特定のアイテムを所持していないと発動するタイプの罠だろう。

でなければ人がここで暮らす事など到底不可能だ。


俺は跳躍して大階段の手すり部分に着地。

そのまま手すりを駆け上がる。


2階に上がった正面に大部屋がある。

そこが本丸だ。

だがその前に、小部屋で休んでいる使用人達を気絶させておく。

戦闘音で目を覚まして騒がれても敵わないからだ。


「さて」


残すはレイラだけとなった。

奴の部屋の周りには、びっしりと罠が敷き詰められている。

のこのこ歩いてはいれば酷い目にあうだろう。


そこでおれは勢いをつけて――トラップを飛び越え、体当たりで奴の部屋の扉をぶち抜いて侵入する。


大きな音がしたが、外の警備兵迄は届かない。

使用人達も気絶させてある。

何も問題はなかった


「誰だ!?」


レイラは部屋の中央にあるベッドから起き上り、俺を見る。


「な……お前は……」


俺が誰か気づいた瞬間、奴の目はまるで亡霊でも見たかの様に見開かれる。

さぞや驚いた事だろう。


「久しぶりだな、レイラ。殺しに来てやったぞ」


さあ、復讐の開始だ。

俺は口の端を歪めて笑う。

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