2話 女盗賊レイラ

ふざけた理由だ。

ふざけた理由ではあるが……

ラキアが何故自分を裏切ったのかは分かった。


だが問題はパーティーの仲間達だ。

彼らは、只王の命で婚約させられたラキアとは違う。

長く苦しい旅を共にしてきた仲間達だ。

その彼らが何故自分を裏切ったのか。


俺は未だにそれが信じられない。

そこには確かに強い絆があった筈なのだ、

その彼らが何故?


「何故仲間は俺を裏切った?お前が何かしたのか?」


そうとしか考えられない。

彼らが裏切る等、在り得るはずがないのだ。

きっと止むを得ない事情があったに違いない筈。


「ぶっふぉあ……な…なに……それ?……本気で言って……ぶふぅっ」


ラキアが噴出し。

笑いを堪えるかの様に口元を手で押さえる。

正直何がおかしいのか分からないし、彼女の行動は不快極まりない。


「良いから答えろ!!」


不快感から思わず声を荒げてしまう。

だが彼女は笑うのを止めようとはせず、それどころか腹を抑え込んで蹲る始末。

彼女は数十秒笑い続けると、やっと収まって来たのか深呼吸しながら立ち上がる。


「あんまり笑わせないでよね。まさか貴方にギャグセンスがあるなんて、夢にも思わなかったわ」


「いいから質問に答えろ!」


「別にいいわよ」


俺の怒りなどお構いなしに、彼女は真っ赤な唇を歪める。

その様子はさも楽し気であり、その眼は心底哀れな物でも見るかの様に俺の事を見下していた。


「まずは盗賊。レイラはね――」


盗賊レイラ。

燃える様な赤毛と瞳の色が特徴の女盗賊。

性格はさっぱりしており、常に冷静沈着で決して取り乱す事のない縁の下の力持ち的存在だ。


盗賊故戦闘力は高くはなかったが、彼女の他者を幻惑するスキルは戦闘のサポートとして遺憾なく力を発揮してくれていた。

更には高い危機察知能力に加え、ダンジョンなどに仕掛けられた罠を彼女が解除してくれていた事で、俺達は安全に魔王の元へと辿り着く事が出来たと言っても過言ではない。


世間では盗賊という職業に偏見を持つ者も多いが。

彼女に関しては、紛れもなく世界を共に救った仲間と胸を張って言える。


そんな彼女が俺を裏切ったのだ。

余程の理由があったに違いない。


「金よ」


「へ?」


「聞こえなかったの?お金欲しさにあんたを売ったのよ」


「ば……馬鹿を言うな!彼女に限ってそんな真似をするはずがない!!」


ラキアはやれやれと言った様子で首を振り。

大きく溜息を吐いた。


「あんたねぇ。あの女は盗賊よ?」


「だが共に魔王を倒した仲間だ!」


「それだって魔王討伐の報奨金目的にきまってるじゃない。あんたが居なくなったら報奨金の取り分が増えるってんで、一も二も無くあの女は首を縦に振ったわよ?他のメンバーはともかく、盗賊信じるとか。あんた底抜けのお人よしねぇ」


「彼女は……彼女はそんな人間じゃあ――」


「ああ、そうそう。あんたの御自慢の装備。おまけであれも寄越せって五月蠅かったから、彼女に上げたわよ」


その言葉を聞いて、俺の頭の中にレイラとのやり取りが頭を過る。

確かに彼女は俺の装備の事を凄く気にしていた。

あれは俺の杖やローブには神霊石という世界に数個しかない魔石が使われており、それに天文学的価値があると知ってからの事だった気がする。


つまり彼女は……俺の装備をそういう目で見てた?

いやでもしかし……


「どうやら、思い当たる節があるみたいね?」


俺が頭を抱え込んでいると、それ見た事かとラキアが言葉を投げかけてくる。

睨み付けると彼女は嬉しそうに目を細めた。

俺が苦しむ様が楽しくてしかたないといったその様子に、性格の悪い女だと改めて思い知らされる。


「そうねぇ、じゃあ次は戦士の話をしてあげるわ」


彼女はゆっくりと戦士が何故裏切ったのかを俺に語りだす。

そして俺はその内容に戦慄する事になる。

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