第4話 出陣

「うわあ。すごい!

これがゲームの中だなんて信じられない!」


目に飛び込んでくるカラフルでありながら統一感のある街並みも、賑やかな人々の声も、頬を撫でる風も、出店の食べ物の匂いも、全部が全部とてもリアルだ。


私と同じ第2陣の人たちも次々と現れる。我さきにと走って冒険に向かう人、キョロキョロと周りを見渡している人、勧誘している第一陣の人たちもいる。


「大海との待ち合わせ場所は女神が水瓶を持っている像がある大きな噴水だったよね」


その場に向かおうと、ぐるりと見渡せば、目的地は真後ろにあった。

大海はまだ来ていなかったので、噴水近くのベンチに腰掛けた。

待っている間に、ガイドさんにまず初めにすることとして教えてもらった、自分のステータスを確認する


「ステータスオープン」


透明なウインドウが空中に浮かぶ形で現れる。


―――――――――――――――――

名前 ソラ

種族 鬼っ娘

Lv 1

HP 200

MP 150

攻撃 0

防御 0

速さ 0

知力 0

運  20


スキル 

AP 0

SP 20

――――――――――――――――――

そうだった、スキルとらないと。


ウインドウのスキル欄からスキルを選ぶ。

下にスクロールしていくと、ユニークスキルと書いてある欄があった。

タップして詳細を確認すると、ユニーク種族専用のスキルらしい。

特別な分所得する際にかかるSPが他のと比べて桁違いに多い。

普通のが2~3ptなのに対し、ユニークのは一番少なくて10ptかかる。

ユニークスキルから1つ、普通のスキルから2つ取得しただけでSPがすっからかんになってしまった。

私が選んだのは【羅刹化】【雷魔法】【料理】の3つ。最初のがユニークスキルだ。一番SPが多かったから取ってみました。

残りの2つはなんとなく。料理は好きだから。雷魔法は、何故かとらないといけない気がして…。

私はフッとよぎった「ダーリン!」と叫ぶトラ皮ビキニの鬼娘を頭を振って消し去った。


そして完成した私のNEWステータスがこちら!



――――――――――――――――――――


名前 ソラ

種族 鬼っ娘

Lv 1

HP 200

MP 150

攻撃 0

防御 0

速さ 0

知力 0

運  20


スキル 【羅刹化lv1, 3min】【雷魔法lv1】【料理lv1】

AP 0

SP 0


――――――――――――――――――――


【羅刹化:MPを100消費して、身体能力を大いに向上させる。スキルLvが上がるごとに継続時間並びに強化度が上がる】


【雷魔法:lvが上がるごとに使える魔法が増える】


【料理:lvが上がるごとに作れる料理のレパートリーが増える】


雷魔法のlv1で使えるのは【サンダーボール】だけみたい。

そういえばユニーク種族を当てたことに気をとられて自分の容姿見てないな。

後ろに噴水あるし見てみよう。


そうして噴水を覗き込めば毎朝鏡で見ているお馴染みの顔。

虹彩は変われど、顔の造形は全く変わっていない。


「どこに鬼要素があるんだろう?」


一見したらヒューマンとたいして変わらない。頭に手を乗せてペタペタ触ってみると、2本の角らしきものがあった。


「うー、小さすぎて見えない」


どんな角なのか気になって噴水を見ても、角が見えない。

顔をギリギリまで水面に近づけると、


「うぎゃ!!」


女子としてあるまじき声とともに、バランスを崩してそのまま噴水に顔から突っ込んだ。

うぅ、皆こっちみてる。すごく恥ずかしい。

羞恥のあまり動けずにいると、首根っこを掴まれて、ひょいと持ち上げられた。


「騒がしいと思って来てみれば、初っ端から何してんだよ」


「その声、もしかして怜ちゃん?」


私を掴んだまま溜息をつく銀髪紫色の目の美丈夫は幼馴染の怜ちゃんだった。

とりあえず、降ろしてくれないかな。これじゃあ親猫に連行される子猫みたいで恥ずかしいんだけど。


「そう。大空であってるな?

まあ、噴水に頭から突っ込む馬鹿なんてお前ぐらいしかいないだろうけど」


「ぐぬぬぬ。

とりあえず降ろして!」


「はいはい。

っとそのまえに、【クリーン】」


怜ちゃんの詠唱で水浸しだった身体が瞬時に乾いた。

ふおおおお、魔法って便利!

私が一人感動していると、怜ちゃんが吹きだした。む、絶対子供っぽいとか思ったな。


「名前は何にしたんだ?」


「リアルと同じ“ソラ”だよ。表記はカタカナだけど。

怜ちゃんは?」


「ソラは他の名前にしたら呼ばれても気づかなそうだもんな。

俺はゼロだ」


「言い返せないのが辛い。

それじゃあ私もゼロって呼んだ方がいい?」


「……いや、いつも通りでいい。

大海もそう呼ぶからな」


最初の間はなんだったんだろう。


「じゃあ、レイちゃんって呼ぶよ。

ところで、大海は?」


「あー。そこらへんで他のプレーヤーに捕まってる。

あいつ有名だからな」


「へえ、さすが大海だね。

お姉ちゃん鼻が高いよ!」


レイちゃんとベンチに座って話していると、息を切らした黒髪青目の男の人が寄ってきた。


「レイ!

お前俺を盾にして逃げただろ!」


うん、この声大海だね。コバルトブルーの瞳以外リアルとほとんど変わらないからわかりやすいよ。


「お前だって学校でいつもそうするだろ。

仕返しだ」


ベー、と舌を出すレイちゃんにとびかかる大海。二人とも相変わらず仲いいねえ。

私が暖かな目で二人を見ていると、大海がこっちを振り向いて、勢いをつけたまま抱きついてきた。


「おうふ」


「大空!大空大空大空大空大空大空大空!!

可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いよ、大空!」


「わかった!わかったから!落ち着いて、大海!」


可愛く見えるのは血縁者故の欲目と、色彩が違うからだよ、大海。

なんかHPがゴリゴリ削られている気がする。

あ、なんともないのね。いや、でも現在進行形で苦しいよ!!


「ごめん、大空。

待たせてしまったね」


「気にしないで。

二人とも私をこのゲームに誘ってくれてありがとう」


笑顔でお礼を言えば、どういたしまして、と二人とも笑顔を返してくれた。


「大空はソラでよかったよね。

俺もそのままカイだから、いつも通りによんで」


「うん。

カイとレイちゃんの種族はなんなの?」


まじまじと二人を改めて見る。

初期装備Tシャツと短パンの私と違って、見るからにレベルが高いです、って服を着ている二人。

カイは深い青をベースにした騎士のような恰好で、レイちゃんはカイよりも軽装で銀と黒を基調とした服を着ていて、耳と尻尾が生えている。


「俺は普通にヒューマンにした」


「俺はシルバーウルフの獣人だな。

ランダムを2回回したらレア種族が出てきたから、これにした。

種族の影響で髪の色が変えられなかった」


さっきからぴょこぴょこ動いている耳と尻尾はオオカミなんだ。

レイちゃんは肩あたりまで伸びる少し癖毛の銀髪をハーフアップにしている。

うん、流石私の幼馴染。どんな格好でもかっこいいね。


「レイちゃん、もふもふ触らせて?」


手を合わせて、ねだる。

レイちゃんはリアルでも180㎝を超えているからどうしても見上げる形になってしまう。レイちゃんがしっぽを差し出してくれたので遠慮なくその尻尾に抱きつく。

うーん、もふもふ!!

私も獣人にしとけばよかったかも。


「くっそ!

レイの勝ち誇った顔腹立つ!

こんなことなら俺も獣人にしとけばよかった!」


さすが双子と言いますか、カイも同じなんだ。

いいよね、もふもふ。


「は、ざまあ」


「カイはランダムしなかったの?」


「…したよ、二回」


「何が出たの?」


「……」


「カイ?」


「……コロポックルとバニーガール」


「あれ?私カイのことずっと弟だと思っていたのに妹だったの?」


「ぶっふっ!」


レイちゃんが吹きだした。


「だから、お前、聞いても、教えてくれな、かったのか」


よっぽどレイちゃんのつぼにはいったらしく、ずっとわらってる。

それをカイが絶対零度のまなざしで睨みつけている。


「レイはあとで殺す。

ソラはなんにしたの?」


「私?

ユニーク種族の鬼っ娘が当たりましたー!」


ぶい、と笑顔でピースを向ければ、口をあんぐり開けた二人が。

うっわ、あほ面でもイケメンとかふざけてるわ。


「は!?

確かに角みたいなの生えてるけど、ユニーク種族とか初めて聞いたよ!

ソラ!APの振り分けは?」


く、首とれる!

カイががっくんがっくん揺らしてくるから目が回りそうです。


「あれね。よくわからなかったから、とりあえず全部運に振り分けた!」


「よりによって運かよ。

律儀にフラグ回収しやがって」


フラグ?レイちゃんは何の話をしてるの?


「スキルはまだとってないよね!?そうだっと言って!」


「え?もうとったよ?

三つとったらポイントなくなっちゃった」


あははは、と笑えば二人が崩れ落ちた。

私何か変なこと言ったかな?


「どうしたら20もあるポイントが三つとっただけで無くなるんだよ。

…ちなみにそのスキルは?」


「【羅刹化】【雷魔法】【料理】!」


「うわあ、なにそれ……

なんでちゃんと教えなかったんだよ、俺!!」


「いや、ここは攻撃魔法を取ってただけマシだろう」


カイがうずくまって使えなくなってしまったので、レイちゃんの方を向く。


「あ、そうだ。

スキルで試したいのがあるんだけど、レイちゃん実験台になって?」


「実験台って……

まあ、いいけど」


レイちゃんの許可をもらうと、私は【羅刹化】を唱えた。

頭のてっぺんからつま先まで力がみなぎるような感覚がする。

レイちゃんが息をのんだのがわかった。


「ソラ、お前

「よいしょ」

!!?」


おおっ!思った通りだ。

私は今レイちゃんをお姫様抱っこしている。

180越えの男の人を持ち上げているのに重さを全く感じない。


「このままこの町一周できそう

「お願いだからやめてくれ!!!」

えぇー」


渋々、レイちゃんを地面に降ろす。

何故か疲れ切った顔をしていた。


「【羅刹化】解除」


―残り時間3分40秒の状態で解除いたします―


これはありがたいね。何回かに分けてスキルがつかえるわけだ。


「ソラ、それはどういうスキルだ。

髪と目の色が変わっていたぞ」


「え、何色に?

【羅刹化】は身体能力を著しくあげるスキルだよ」


「髪は白で目は赤。

毛先から徐々に変わっていった」


おお、色のバリエーションが増えた。


「そろそろ町の外に出てみるか。

置いてくぞ、カイ」


レイちゃんは私の手を取って歩き出した。

この人混みじゃあ迷子になるのは目に見えているので大人しくその手を握り返した。

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