第173話 妖精の識別は無理?

本はパタパタと飛んでいるわけではなく、妖精が運んでいる。


本の大きさは、太さもある図鑑サイズ。そこに妖精達が上に乗ることで、浮き上がる。


「「……っ」」

「どうだ? 想像通りの姿だろ?」


妖精には、カゲロウのような薄い羽が背中に二対。光を纏いながら、時折僅かに震えるように動くのは確認できる。


「「……」」


じっと妖精を観察、見つめる徹と征哉。ゆっくりと、二人の眉間に皺が寄るのを見て、宗徳は何を考えているのかを察する。


「あれだろ? あの羽、意味あんのかって思っただろ」

「……っ」

「……あんま羽ばたき? が……ない……」

「それな。俺も最初思った」


妖精達は、本をまるで空飛ぶ絨毯のように使って飛んでいる。


単独で飛んでいるのも居るのだが、それらは虫のように残光を残して一瞬で通り過ぎていくため、どうやって飛んでいるのかわからない。羽がどう動いているのかも目視では確認できなかった。


「アレ、羽じゃねえんだよ」

「「は?」」


間違いなく羽のように見えるが、羽ではないのだ。


「魔力が光みたいに噴射されてんだよ。だから、ほれ。飛んでない奴は小人にしか見えんだろ?」

「っ、羽がないっ」

「っ、て、手、振ってる……」


窓辺にある机のフチに腰掛けている妖精には、羽がなかった。


そして、本の上に乗って飛び立とうとする者には、背中に羽が生えていく。


その中の一人(?)が手を振っていた。


「おっ。サダルム。今日は禁書庫じゃねえのか?」


そこに近付いていく宗徳に釣られるように、一定の距離を保ち、徹と征哉がついていく。


サダルムと呼ばれた妖精は、本に正座するように座って浮き、近付いてきた。そして、元気に片手を上げて笑う。


《ノリちゃんっ。やっほっ。ようやく寝かしつけられたからさあ。あっ、その子が息子? 似てなくない?》


宗徳を通り過ぎ、徹と征哉の周りを回る。


《どっちが息子?》

「そっちだ。髪に白いの混じってるだろ?」

《ほんとだ! そっか、年取ってる方が白いのがあるんだっけ》

「今は染めてんのもいるから、絶対にそれが基準になるってわけじゃねえよ? あと、女には気をつけろ。それで判断してるって知られると、叩き落とされるぞ」

《あはっ。気を付ける〜》


ケラケラ笑いながら、宗徳の隣りでふわすわと滞空する。


「こいつは、サダルムだ。サダルム。息子が徹で、その息子の征哉だ」

《よろしく〜》


それを目で追いながら、徹が少し頭を下げ、遠慮がちに尋ねる。


「っあ、ああ……ひょっとして、人の区別が付かない……のか?」

「こいつら、見た目、年取るってことがないから、年齢を見分けられんらしい」

《普通に人を見分けるのも苦手〜。ほら、ボクら、顔似てるっしょ?》

「……確かに……」


机の上の妖精達は、出現させる羽の色と髪色が微妙に違うが、ほぼ同じような顔。背丈も同じくらい。服も簡素な長めの上衣に膝下までの短いズボンだ。


男女の性別があるかさえ分からない。髪も肩の辺りまでの者がほとんどだ。たまにもっと長い者はいるが、かなりの数が居るため、見た目では分からなくなる。


《人がそう見えるのと一緒で、あんま顔で見分けつけないの。ボクらは魔力で識別するから》

「……なるほど……視力に頼らないと……」

《あっ、うん。そういうことっ。けど、もう君たちはこうやって会ったから、もう分かるよっ。よろしく、トオル、セイヤ》

「「っ……よろしく……」」


そうして、顔合わせも出来たこともあり、宗徳は話を進める。


「サダルム。こいつらにここを案内してやってくれ。魔法とか、異世界とかそういう話が好きだから、教えてやって欲しい」

「「っ……」」

《いいよ〜》

「じゃあ、頼んだ」

《ほいほ〜い》

「「……」」


軽い返事に、二人は不安そうだ。それにサダルムは気付いたらしい。


《大丈夫だよ。言ったじゃん、魔力で判断するって。二人の容量もわかってるし、影響の受け方も分かるからさっ。イタズラしたがるのも居るけど、まあ、決定的に危ないことはしないから》

「「……」」

「それ、余計に不安にさせるぞ?」

《ええ〜。大丈夫だよお》

「まあ、信用してるけどな」

《うんっ。この屋敷の主が望まないことはしないよっ》

「おう。頼んだぞ。俺は畑に居るからな」

《は〜い》

「「……」」


若干不安そうな二人を書庫に残し、宗徳は庭の畑へと向かった。










**********

読んでくださりありがとうございます◎

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る