第133話 魔女を魅了するもの

宗徳が送信した召喚術の写しを前に、魔女達が騒いでいた。


「これ、描いたの誰? 良い腕だわ!」


『異世界派遣開拓室』のクーヴェラルから『次元管理対策室』へ渡されたそれは、手書きにされた紙を写したものと、そのまま現場を写真として写したもの。


「わざわざ手書きもというのがスゴイわ〜。写真だと映らない部分があるんだよね〜。いい加減改良してほしいわ」

「これでも改良されてるとか言われたわよ?」

「それでもさあ。あの変人共、これくらいしか役に立たないんだから、きちんと仕事してもらわないと」

「あはは。ワタシらに言われたかないだろうね〜」

「「「確かに!」」」

「……」


こうして魔女達が集まるのは珍しい。興味のない事や、やらされる事が大っ嫌いで、書類仕事なんて嫌悪の対象だ。


何かに打ち込むと、周りが一切見えなくなり、その場で思い立ったなら、研究の成果を確認するのに場所など意識しない。


魔女達の居る階層は、手前が気分転換のサーキット。奥が個人の研究室だ。その研究室には、それぞれ強固な結界が張られている。


そんな彼女たちだからこそ、招集した所で気付かないし、集まるはずがない。そうして、イザリは諦めていた。


「……今夜から嵐か……」


明日は雨どころではない。もう今すぐ、雹が降りそうだ。天変地異の前触れかと驚愕するイザリだった。表情が特に変わらないので、周りは気付いていない。


奇跡的に集まり、仕事らしいことが出来そうな予感に、イザリはそうは見えないが感動もしていた。


イザリは他の部署にも顔を出す。だから『いつかあんな風に部下達と頭を突き合わせながら仕事をしてみたい』と思ったことは一度や二度ではなかった。


協調性のない魔女達を、どう言って仕事に興味持たせて働かせるか。それを一人で考える日々。魔女の中で自分が異質であることも理解していた。


「……集まってもらってすまんな」

「あ〜、だってイズ様が珍しくお気に入りを作ったって聞いたから」

「めっちゃ興味湧いた!」

「あのルイ坊が懐いてんだもんっ。気になるよ!」

「あそこの部署に居るのは分かってるもんね〜。クーちゃんに恩を売っておいて損はないわ〜」

「……」


欲望が、興味が奇跡的に一致した結果だったようだ。だが、この機会を逃す手はない。


「では、しっかりやってくれ……」

「やるわよぉ。コレ見てめちゃくちゃやる気も出たものぉ」

「コレさあ、アレじゃん? あの辺の次元って、ほとんど消滅したじゃんねえ? 生き残ってる世界があったとはね〜」

「あ、やっぱし? この文字とか、見たことあると思ったのよ」

「ああっ。あの三百年くらい前に、管理者が自爆した所だ!!」

「あんた今気付いたの? ってか懐かし〜。あそこの神って、動物系じゃん? ココは? どんなやつなんだろっ。もふもふは正義よ!」


魔女達は、早くも召喚陣を見て色々と読み取ったらしい。そして賑やかだ。いつもはイザリが黙々と解析し、そこへ出向いて破壊、消滅させる。その間、一言も発せないこともある。


「って言うか、本当に良く描けてるわねえ。これは良い魔女になるわよ?」

「良い眼を持ってるね〜。ワタシらでもここまで正確に一発では描けないわ〜」

「イズ様のお気になんでしょ? 今度紹介してくださいよお。私、久しぶりに後輩欲しい〜」


写真にも映らない所は、眼にも映らない事が多い。けれど、コレはきちんと召喚陣になっているし、正しく情報が読み取れる完璧なものだ。


もちろん、崩れて一部欠けている所もあるが、それ以外が完璧なので、魔女達には問題なく虫食い状態でも読み取れる。


「……コレを描いたのは男だ……」

「……」

「……」

「……」


一瞬の沈黙。だが、魔女達はがっかりしたとか、興味を無くしたとかではない。


「……確か、女体変化薬ってあったよね?」

「古いのはダメよ? 新しく作らないと」

「材料は〜、ルイちゃんに〜、採ってきてもらえば〜、いいよね〜」

「これだけ素質あれば、長生きもするよっ」

「あれ? そういえば、あの部署って若い子はほとんど入れてないよね? それに、善ちゃんの部下でしょ? なら七十くらい?」


彼女たちは宗徳を仲間にするつもりらしい。イザリとしても、宗徳が来るなら、寿子もセットだなと呑気に考えている。


「ねえねえっ。コレの処理に行くってことは、会えるんだよね?」

「そうじゃん! 任せてよ! しっかり誘惑してくるからさ!」

「男ならウチらの魅力でイチコロだもんね〜」


男は誘惑して利用するものと、魔女達は認識している。しかし、イザリには、今回はそれが上手く行くとは思えなかった。


「宗徳には、寿子がいる。恐らく、誘惑など出来んよ」

「え? そんな、男なんてワタシらの魅力に勝てっこないわよ?」


そう。魔女が誘惑して落とせなかった男などいない。年も関係なかった。だが、イザリは首を横に振る。


「真の夫婦の仲は裂けないものだ」

「……」

「……」

「……」


そんなことがあるものかと、魔女達は半信半疑だ。ならば、ここらでそういうことも知ると良いだろうとイザリは考えた。


「会ってみるか。仕事のついでにな」

「そうする!」

「この陣も面白そうだし」

「久しぶりに出かけるわ〜」

「夫婦……夫婦ねえ。興味深いわ」


色々な意味で興味を持ったようだ。ならばこのやる気を使わない手はない。


「では、行くぞ」

「は〜い」

「わ〜い」

「久しぶりに空も飛べそうね〜」

「魔法、魔術ありなら、自由に飛べるものね〜。楽しみ!」


仕事に向かうという感じではないが、すすんで行動してくれるのなら問題ない。


準備すると言って散っていく魔女達。遅くなったら置いていくと言うのも忘れない。


そして、残されたイザリはフウと息を吐いて、珍しくクスリと笑った。


「ふふ。宗徳に逆に魅了されるかもな……」


そんな事を思いながら、宗徳や寿子と一緒に居られる機会だなと少しソワソワと落ち着かなくなる自身に驚く。


「もう魅了されているのかもしれんな」


自分はもう落ちているかもしれない。そうして、イザリはゆっくりと立ち上がる。


常にはない微笑みを浮かべ、あの世界の入り口へ向かう。すれ違う者たち全てを知らず魅了していることには気付くことはなかった。


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