第125話 勇者より……
宗徳の右肩には神であるフクロウがおり、左腕には徨流が巻き付いている。
「レン。こっから気合い入れろよ」
「はい! 凄い数ですね」
「だな……こりゃあ骨が折れる」
分かれてしまった神の半身は、八十階層に居るらしい。七十ではなく八十というところが、いじらしい。
そして、七十五階層に入ったところで、ガラリと様子が変わった。一気に魔獣や魔物が増えたのだ。それは、通路の先が見えないほどだった。
「こいつらは本物じゃねえな。気楽にいくぞ」
「はい!」
《きゅ!》
《くるる!》
宗徳達はいっそ気持ちよさそうに魔法を連発し、剣で遠慮なく斬り捨てる。
「宗徳さん、魔力大丈夫ですか?」
「問題ねえよ。一度底を知ったからな。なんとなく感覚で残量が分かる」
無理して魔力を使ったのも悪いことではなかった。何事も経験しておくものだと宗徳は改めて思う。
「すごい……僕、今でも曖昧で、一々ステータスを確認しないと分からないんですけど……」
「勘だぞ?」
「宗徳さんの勘は信用できそうです……」
廉哉ももう分かっている。宗徳は感覚の人だ。他人に教えられない人種だ。その方が信用できる。
「三分の一は残りそうですか?」
ボス戦の前なのだ。魔力は残しておいてもらいたい。廉哉が心配なのは、宗徳がボス戦を経験していないからだ。ダンジョンを知らない宗徳がボス戦を知っているとは思えない。
結局六十階層でもボス戦はなかった。それが宗徳らしいとも思うが、この先はそうはいかないだろう。
だが、廉哉は宗徳のことをまだまだ知らなかったらしい。
「ん? 八十まで行くと……多分半分は残るぞ?」
「へ? 半分も!?」
宗徳は自身のステータスを確認した。
固有名称【時笠宗徳】
レベル【479】
種別【人族】
HP【13800/15200】
MP【8050/15500】
かなり善治に近付けたなと思うとニヤケそうになる。数字で確認できることが、これほど安心で楽しいことだとは思わなかった。
「間違いねえよ。この調子だと半分は残る」
「えっと……半分だと大体どれくらい……」
「七千ちょい」
「なっ、七千!?」
「おう」
そう話している間にも、魔獣を倒して進んでいく。
この世界はゲームと違い、レベルが上がると全回復ということもない。廉哉はレベルが気になった。
「ち、因みにレベルは……」
「あ〜……よし! 今ので四百八十になった!」
「よっ、四百!?」
《くっ……くる……っ》
これに神までも絶句した。
廉哉が勇者として神と戦った時でさえ、実は百二十ほどだった。現在は百五十に届くところだ。二百さえ遠い。それを知れば、宗徳の異常さが分かる。
「僕……本当に勇者だったのかな……」
《く、くるる!》
慰めようと、神は廉哉の肩に移動する。その重さと暖かさを感じながら、廉哉はしばらく宗徳について行くことしかできなかった。
六十階層を出てから一時間ほど。
宗徳達は八十階層の最奥に辿りついていた。
「行くぞ」
「はい」
《きゅきゅ!》
《くるっ!》
扉を押し開ける。そこは光の通らない闇だった。
淀んだ空気は生温く感じる。息をしたくないと思うものだ。
そして、その先には特大の闇があった。
「……っ」
廉哉はゴクリと喉を鳴らした。邪神との戦いを前にした時の緊張感を思い出すようだ。
カタカタと震えそうになる体を叱咤し、せめて宗徳と並ぼうと重くなった足を動かす。宗徳は今どんな思いを感じているのだろうと、その表情を窺うように見上げた時だった。
「空気が悪い! こんなところに居たら病気になるわ!」
「へ?」
宗徳は唐突に部屋の中へ風の魔法を撃ち込む。
「そいや!」
「えぇぇぇっ!!」
ラスボス相手に慎重さも何もない。それに廉哉は驚愕した。
撃ち込まれた風魔法が、黒い空気を一箇所にまとめていく。負けないようにだろう。濃く、大きくなるその塊に、宗徳は両手を向ける。
「っ、宗徳さん……っ」
次はどんな大技を使うのかと息を詰める廉哉。しかし、気付いてしまった。
「……え……き、気のせい……?」
目がおかしくなったのだろうかと廉哉は目を一度閉じる。
ふうと息を吐いてから、もう一度注目した宗徳の両手には霧吹きが握られていた。
「へ?」
「消毒、消毒」
交互にシュッシュッとする宗徳に、廉哉の目は点になった。
「……消臭スプレー……?」
そして、このシュッシュッにより、黒い空気は確実に消えていったのだ。
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読んでくださりありがとうございます◎
投稿ミスっておりました。
申し訳ありません。
次回、10日頃の予定です。
よろしくお願いします◎
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