第119話 とりあえず溜め込まないように
そこで宗徳は笑みを見せる。
「あ、これだけは言っとくが、前に召喚された勇者は考えてたぞ。こっちの事情も何も知らんのに、必死で考えて……邪神が倒しちゃならんもんだと突き止めてな。お前ら助かったな~」
「え……?」
「……?」
少々張り詰めていた空気がパチンと弾ける。誰もが瞬きを止めた。
「はっはっはっ。意味分からんのか? もし、邪神を倒してたら、この大陸はもう存在しなかったぞ?」
「……?」
「へ……?」
「倒して……ない?」
住民達だけでなく、王族や宰相達もぱちぱちと二度三度、目を瞬かせる。
「こんな状態では済まんかっただろうよ」
もう一度大変なことになるところだったぞと伝えておく宗徳だ。すると、住民達が騒ぎだす。
「……あの時に死んでたかもしれないってことか……?」
「ってこと……だよな……」
「そうだよっ。今回みたいにあの人達の助けもないんだ。きっと……息子は死んでた……」
「勇者様が……助けてくれてたんだ……っ」
「考えたら酷いよね。私たち……見ず知らずの場所に連れてきて、神さまを倒せなんて……あの時の勇者様……まだ成人前の子どもだった……」
「ああ。覚えてる……小さいのに強いんだなって、パレードで送り出したよな……それで、疲れた顔で帰ってきてた……けど、それでもしっかり手を振って……俺ら、めちゃくちゃ呑気だったよな……」
ここでようやく、そういった意見が出てきたことに、宗徳は嬉しくなる。少し目を向けると、廉哉は見つからないようにだろう。コンテナハウスに慌てて引っ込んでいた。思いの外、廉哉のことを覚えている人が多かったようだ。
「……勇者様に、ちゃんともっと、礼をしなきゃならんかったな……」
「ちゃんと元の世界に帰れ……たのか? なあっ、勇者召喚って、無茶なことなんだよな? 本当に戻れるのか?」
「……俺には、そこまであいつらがやるとは思えん……」
「そうだよ! あたし、覚えてるよ! 勇者様を見つけたら教えろって、あの時騎士達が怖い顔して言いにきた! その上、絶対に何も売るなって」
「俺のとこにも来た!」
「おい。まさか……邪魔になったから始末するとか……」
「……あり得そうなんだけど……」
住民達の視線が拘束された状態で震える王族達を見た。数人の騎士や貴族達も必死で目を合わせないようにしているのが分かった。
それを見て、宗徳は思わず吹き出す。
「ぷはっ。おっ、お前ら、そんな顔してたら『始末しようとしてました』って言ってるようなもんだぜっ」
正直な奴らだなと笑い声を上げれば、住民達が固まった。そして、一気に爆発する。
「お前らなんてことを!」
「ふざけんな! 確かに俺らもあの時に変に思わんかったのは悪い! けどなっ。頑張ってくれた子どもをっ……」
「無理やり親御さんから奪っておいて殺したの!?」
「なんて奴らだ!」
「そうやって、今までお前らは、俺らが考えないのをいいことに、都合の悪いやつを消してきたんじゃないのか?」
「信じられない!」
白熱していく住民達。それを、宗徳達もユマも止めなかった。
寧ろ、率先して宗徳は王族達を前に並べてやった。目をそらしていた騎士や貴族も正座で座らせる。宰相も自主的にそこに加わっていたのに気付き、逆に慌てた。今にも石が飛んでくるところだったのだ。
「おいおいっ。宰相さんはダメだ。あんた一番まともだろ。居なくなると困るからっ」
「で、ですが……わたくしが命を賭してでもあの時お止めできていれば……っ」
ここで、廉哉を見ていても誰もそれがあの時の勇者であると気付かないのが不思議に思えた。
廉哉は混乱状態にあったとはいえ、宗徳の周りもチョロチョロしていたのだ。さすがに目に付くだろう。だが、そんな様子が全くない。
住民達も、姿を覚えている者が居ただろう。召喚されてこちらで五年。この国を出たのはほんの数年前だ。だから、酷く落ち込む宰相に確認する。
「なあ。勇者のこと、覚えてるか?」
「ええ……もちろんです……?
何を言っているのかとコテンと首を傾げた。この宰相。可愛い系のおじいちゃんだなと、変な所で感心する。
《くきゅきゅ》
「ん? 母ちゃんから? そんなことできんのか」
徨流が母親であるリヴァイアサン。レヴィアから通信があると言ったのだ。
《きゅっ、きゅきゅきゅっ》
「は~、義理堅い神様だなあ。それで、見たことある奴らも分からんのか」
《きゅっ》
誇らしげに理由を伝えてくれた。徨流を見て、近付いてきた寿子が確認する。
「もしかして、レン君の正体がバレない理由が神様にあるんですか?」
「おうっ。こっちの大陸に来た時に、廉を知ってる奴に見つからんよう、術をかけてくれているらしい。こりゃあ、早いとこ会いに行かんとな」
「ふふ。そうですね。では、今から行って来てください。ここは、どうにかしておきます」
本気で石が飛び始めていた。ちょっと見ないうちに開き直りかけていた王族とかはどうでもいいが、宰相とユマはダメだ。二人を寿子が守るように結界を張っていた。
死なないようにはするだろう。今回のことも含め、それなりに住民達も発散すべきだ。これから大変なのだから。
「なら、廉とちょっくら行ってくるわ」
「ええ。徨ちゃんも気を付けてね」
《くきゅ!》
そうして、寿子にこの場を任せ、宗徳と廉哉は神の封印されている場所へと飛んだのだった。
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読んでくださりありがとうございます◎
宰相さんは守らねば
次回、6日です。
よろしくお願いします◎
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