第089話 昔の勇者の偉業?

徨流の白に近い青の髪は地面に付くスレスレの長さまであり、背中にたてがみのように真っ直ぐ流れている。


大きなクリクリとした瞳は、本来の姿の時にとても良く似ていた。


特徴的なのは、髭のようなものの代わりなのだろうか。前髪が二本の触角を形作っていた。


服装は母親が洋装なのに対し、徨流は和風な子どもの着物のような感じだ。


「宗徳さん、徨流にとうちゃんと呼ばせてるんですか?」

「ん? ああ、下の子どもらもそうだろう。寿子は『さぁちゃん』らしくてな。なんでかと思ってたんだが、母ちゃんがいたんならそうなるか」


最初の頃は、子どもたちと同じように寿子のことを『おかあさん』とか『かあさん』と呼んでいたのだが、最近は『さぁちゃん』になっている。


これは、近頃ギルド職員達の子ども達に寿子がそう呼ばせているからだろう。


「さあちゃんは、さあちゃんなの」

「そうだな。けど本当の父ちゃんもいるだろう」


その場合、宗徳も呼び方を変えるべきではないかと抱き上げ、目線を合わせながら確認する。


これに答えたのは母親だった。


「人と違い、父親はおりません。わたし共は、単体で子を成すのです」

「へぇ……そういうこともあるんだな」


そこで、やっぱ魚類なのかとなぜか酷く納得した。


「それで、ここはどういう所なんだ? 空気もあるし、海の中なんだよな?」


改めて上を見ると、この場所を覆っている遥か上にある膜が発光しているようだ。雲のない青空にしか見えない。膜はかなり高い場所にあるのだろう。この場所からは、海の中が見えることはなかった。


「海の中で間違いありません。ここはわたし共、魔物の国です」

「魔物?」


彼女が目を向けた先にあるのは、地上の人々が住むような石造りの家が並ぶ場所。今いる場所は小高い丘になっているらしく、家々の並ぶ様子がよく見えた。


それはまるで町だ。人影も見えるが、魔物がいるようには見えなかった。


「完全な魔物や魔獣とはいえません。人々と同じように意思を持ち、国を成しております。地上では人々に混じって生きることもできず、かといって、本能のままに生きる魔物や魔獣と同じではない。そんなはぐれ者達の国なのです」


唐突にこの場所へ突っ込んで行ってしまったので、のんびりと上から眺める余裕はなかった。国と呼べるほど広いのかと町を見渡す。


その間、屈みこんで地面を撫でてみたり、周りに見える木々を確認していた廉哉が呟くように彼女へ尋ねた。


「この土地は地上から持ってきたのではありませんか?」

「はい。千年ほど昔に、異世界から訪れた宗主様が陸を切り取り、そのまま沈めてこの場所を作りました」

「沈めたってすげぇな」


そんなことができるのかと不思議に思っていると、町の方ではなく、その手前にある神殿のような建物に向かうよう案内された。


「とうちゃん、あそこにアレがあるよ」

「アレってなんだ?」


手を繋いで歩く徨流が嬉しそうに見上げて伝えてきた。


「まるいやつ」

「丸い……もしかして、法具か? 湖の底にあった石みたいな」

「うんっ。ここにもあるのっ」


しばらくして到着した建物。ここで、初めて女性以外の人に会った。


「レヴィア様。そちらの方は……」

「彼らは宗主様と同じ勇者です。アレを持ってきてください」

「承知致しました」


簡素で真っ白な法衣のほうなものを着た男性が奥へ消えていく。中には祈りを捧げたり、教典なのだろうか本を読む者たちがちらほらと見られた。


そして、祭壇の正面にそれがあった。


「おっ、確かにアレと同じみたいだな。本当はあんな色だったんだな」


徨流が棲んでいた湖の底で見つけたものも、イザリに届けたものも、本来の色を失っていたのだとこれを見て確信できた。


水面のように揺れる光が見て取れる。緑や青、黄色。それらが石の中で美しく揺らめいていた。


「あれがこの国を海底に留めている魔石の一つです。同じものがあと四つございます」

「へぇ……すごいもんだな」


そういえば、徨流のいた場所も空気のある洞窟が下にあったなと思い出す。それを察したわけではないだろうが、あの場所について教えてくれた。


「この子の居た場所は、かつてこの地を移した宗主様。勇者と呼ばれていた方の隠れ家だと聞いています」

「だからちゃんと空気があったんだな。それも、向こうの世界にある鳥居とかあったしな」


だが、そうなると、その勇者は自力であちら側に渡る力を持っていたということになる。隠れ住むような必要はないように思った。


「変わった人だったんかな……」


イザリが法具に関係ある者のことを知っていそうだったなと思い出しながら、奥から何かを持って戻ってきた男性へと目を向けた。


**********

読んでくださりありがとうございます◎



勇者がいたようです。

また明日です。

よろしくお願いします◎

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