第086話 一体何なのでしょう
本来の大きさになった
「ケーリア国っつたか? どんな国か覚えてるか?」
「はい……あまり良い国ではなかったですね……」
これは傷付けてしまっただろうかと、後ろに乗っている廉哉の顔を少し振り返ってみれば、暗い表情をしていた。だが、自身の胸の痛みに耐えているようなものではなかったので安心する。
その証拠に、廉哉はゆっくりと話し始めた。
「あの国から逃げていた時、同じ大陸にある国も回ったんですが、全体的にあの大陸は貧富の差が激しいように感じました」
廉哉は、身の危険を感じて勇者としての力を利用し、なんとかケーリア国を脱出した。しかし、安住できる場所を探すのは難しく、その折に見て回った他の国もいい印象はなかったらしい。
「それは暴君なのか……土地の問題か?」
「両方ですね。こう……大地に力がないような……草木もあまり豊かに茂っている場所というのがなかったように思いますし、王の印象も良くないです……」
干ばつの起こる地域も広くあり、作物も葉物だけでなく、根菜の育ちも悪かったようだ。その上に税収だけはきっちりしていたとなれば、国の印象は悪くなる。
「そりゃぁ……よくこっちの大陸にちょっかいかけずにいられるなぁ」
宗徳が聞いた話では、大陸内での戦争が多いということだった。それだけ生活に困窮しており好戦的ならば、海を渡ってこちらの大陸を攻めようとするはずだ。しかし、そうはならない理由があった。
「間にある海には、リヴァイアサンが居るんです。大きな船は沈められてしまうらしくて、大軍を送り込むということが出来ないんですよ」
「リブァイヤさん? ん? どっかでその言葉……」
口に出してみると言い難い。この響きをどこかで口にしたような気がすると、宗徳は腕を組んで首を傾げる。
すると、徨流が体を揺らして主張する。
《ギュア》
「うわっと、あっ、そうだリヴァイアサン! 徨流がそれだ!」
「え? リヴァイアサンはもっと顔が尖ってたはずなんですけど……本当だ……あ、変異種なんですね」
《グルル~》
廉哉も鑑定能力があるらしく、徨流を改めて見て気付く。廉哉はこの本来の姿になった徨流を知らなかった。
「寿子さんから、あちらで龍神と呼ばれていたと聞いていたので、てっきりそういうものだと思ってました」
「おう。俺も言い難い名前より、龍神様な認識だからな。忘れてたぞ」
見た目も伝説にあるような龍の姿なのだから、この認識はある意味仕方がない。
「で? どうなんだ徨流。知ってるやつっぽいか?」
《グルゥ》
「あ、マジ?」
《グルゥっ》
「なら挨拶しなけりゃいかんな」
「えっと……会話できてるんですか? でもそういえば……いままでも宗徳さんとだけは……」
廉哉にはグルグル鳴いているようにしか聞こえないのだ。とはいえ、普段の小さい姿の時も、宗徳とはなんとなく会話しているように感じていたのだろう。本当にわかっているのかは、子ども達も聞いていない。
誓約者だからかなと、周りもなんとなく納得しているため、改めて聞く者はいなかった。
「分かるぞ? こうビビっとくる感じでな。言葉じゃねぇんだが……これってなんだろうな?」
《グルル?》
徨流も宗徳に訴えれば通じるので、それがどういう風に伝わっているのかは気にしていない様子だ。
「直感みたいな感じなんでしょうか……不思議ですね。それで、知り合いなんですか?」
「おう。母ちゃんだとさっ」
「えっ、そ、そうなんですかっ。あ、でもやっぱり魔獣って親離れしたら情とか……どうなんでしょう」
ある程度育てたら独り立ちという感じで、種族によっては親子であっても関係ないということにならないだろうか。そう廉哉は心配していた。
「そうだなぁ。まぁ、会ってみてだな。話が通じんかったら逃げりゃいいだろ」
「そうですね……それに、一般的なリヴァイアサンはこうして水から離れて空を飛んだりしませんし」
「……んん? 飛ばねぇの?」
「ええ。水面から多少浮き上がることはありますが、ほとんど水の中の生き物ですから」
この世界でリヴァイアサンというのは、魚の魔物の分類だと廉哉に説明され、宗徳は目を瞬く。
「……おい、徨流……お前なんで飛んでんの? ってか水にほとんど浸かってねぇし……寧ろ風呂好きってどうなんだ?」
「そういえば……温かいお湯、平気でしたね」
「魚じゃねぇじゃんっ」
《グルルル?》
人の好むお風呂の温度でも平気で浸かっていたりする徨流だ。この前など『風呂ってぇのはこうして頭にタオルを置いて入るんだぞ』なんて言いながら、宗徳に渡された小さな四角い布を頭に乗せて半身浴していた。
徨流も本当にお湯でも平気らしく、更には、子ども達の布団の上にとぐろを巻いて眠る。今更だが肺呼吸も問題ないということだ。
「ま、まぁ、変異種ですし……多少のイレギュラーはあるかと……」
廉哉がよく分からないフォローを入れる。
「……ってか、徨流……魚じゃないって言ってんよ……ならお前なんなんだろうなぁ……」
《グルっ》
「お、おう。徨流だな……そうか。そうだなっ。徨流は徨流だっ。よし、それで行こう」
「……そうですね……」
ただ、これで母親に親子とまではいかなくても、同種の仲間と判断してもらえるかは謎だった。
「会って大丈夫でしょうか……」
「いいじゃんか。徨流も会いたいだろうし」
《グルルゥっ》
「ほれ、会いたいってさ。そんじゃ、母ちゃんに挨拶と行くかっ」
《グルル~ゥ》
「……はい……」
呑気な宗徳と徨流に、廉哉は大丈夫かなと内心心配しながら、見えてきた海に目を向けたのだった。
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読んでくださりありがとうございます◎
会いにいくそうです。
では次話どうぞ!
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