第050話 少年の正体は

フードを取った少年に目を向ける。近付いてきた少年に、宗徳は少しばかり目をみはる。


金髪に緑の瞳の少年が、なぜか黒髪に黒い瞳の少年の姿がダブって見えたのだ。だが、ここは異世界。そんな事もあるのかと宗徳はすぐにこれを大した事のないものと頭を切り替えた。


「改めて、俺は宗徳。よろしく頼む」

「うん……あ、はい。僕は廉哉といいます……」

「レンヤ……?」


これはまた、日本人みたいな名前だなと奇妙に思った。


一方、廉哉は尋ねて良いものかどうか迷うような様子を見せる。先ほど帰した二人がいた時はぶっきらぼうな言い方だった彼だが、こちらが素なのかもしれない。


「時間を、無駄にする気はないのですがっ……聞きたい事があります……」


少し怯えるようにも見える。これは怖がられたかと反省しながら、宗徳は笑みを浮かべる。


「いいぞ。なんだ?」


こんな少年に、早く仕事をしろと責めるほど鬼畜ではない。


「む、ムネノリさんは、地球をご存知ですか!?」

「んん? ああ……というと……もしや、お前さん、日本人か?」

「はい!! よ、良かった……あ、会えた……っ、あっ、す、すみませんっ。すぐに地図をっ……」


そう言いながら、唐突に溢れ出た涙を乱暴に腕で拭う。


「こらこら、そんなんで擦るとバイキンが入るだろっ。ほれ、タオルがあるぞ」


宗徳は空間収納から、清潔なタオルを取り出して渡してやった。


「あ、ありがと……ございまっ……うっ、くっ……っ」


しばらく漏れてしまう嗚咽を必死で抑えている様子だった。顔に押し付けたフワフワなタオルは、石鹸の匂いがする。それを大きく吸い込むようにして、次第に落ち着いたようだ。


《くきゅ……》

「お、徨流そっとな」

《くきゅふ》


泣いている少年が心配になったらしい。他に人もいないので、徨流はしゅるりと宗徳の腕から離れると、廉哉の頭をツンツンと突くようにして覗き込む。


「っ……龍……?」

「こいつは徨流だ。問題になった霧の中心にいたリヴァイヤサンでな。まぁ、報告を聞いたところによると、こいつは暴れたり人を傷付けたりしてない。今は俺がそばにいるし、まだ子どもだからな。害はないぞ」

《きゅふっ》

「っ、ふっ、くすぐったいよ」


やっと笑顔が見えた。


「あ、先に地図……仕事します」

「おう。頼む」


目を赤くしたままだったが、廉哉はしっかりと役目を果たしてくれた。


「これで合っていると思います……」

「ありがとなっ。さて、廉哉はこの後の予定は?」

「……ありません……ここに来たのは、奇妙な城が建ったと聞いたから……もしかしたら、僕と同じようにこちらへ来た人がいるかもしれないと思って……帰る方法を知らないかと……」

「ん? 帰れなかったのか?」


宗徳は、ライトクエストのようにこちらへ来る術があり、何か目的を持ってこの世界にいるのだと思っていたのだ。


泣いたのは、ただ、地球の人に会えた事が嬉しかっただけだと。ホームシックとでもいうのだろうか。そんなものだと思っていた。


「帰れませんっ……僕を召喚した国は、僕に邪神を封印させた後、僕を殺そうとしました……っ」

「何だとっ!? ちょっ、廉哉、とりあえず善じぃ……ここのギルドマスターに説明しろ。俺では色々まだ分からない事が多いからな。大丈夫だ。お前を追い出したり、殺させたりしない」

「っ……はいっ……お願いしますっ」


早速、善治に会わせようと立ち上がった宗徳だったが、そこで善治は今休んでいるということを思い出した。


「あっ、すまん。今は善じぃが寝てるわ。そうだなぁ……俺の部屋に来い。子どもらがいるが、そろそろ昼だからな。妻が戻ってくるだろう。まずそっちに行くぞ」


宗徳はすぐに戻ると同僚に言い置いて、廉哉を連れて部屋に向かう。すると、途中で寿子に出会うことができた。


「寿子」

「あら、あなた。その子、どうしたんです?」

「廉哉は日本人だ」

「えっ!? 私達の他にもこちらに?」

「そのことについて色々聞いておいてくれ。俺はまだ仕事が残ってるからな。子どもらと部屋にいてもらってくれ。そんで、善じぃが起きたら会わせてやってほしい」


悪い奴ではないことは、ここまでの様子で分かる。宗徳は自分の目を信じているのだ。そして、彼の鑑定結果はこれだ。



固有名称【廉哉】

レベル【126】

種別【人族(勇者:召喚された者)】

HP【5690/5780】

MP【8600/8600】



「ええ。分かりました。私は寿子。レンヤ君ね。一緒に行きましょう。そろそろお昼だし、一緒に食べましょう」

「食事……っ、はい!」

「じゃぁ、子ども達を迎えに行って食堂に行きましょうっ」


寿子に任せれば問題ないだろう。


「そんじゃ、俺はもう一仕事してくるからなっ」


そう声をかけると、寿子に注意された。


「お夕飯の時間には帰ってくるんですよっ。七時ですからねっ。徨流ちゃんもよっ」

「おうっ」

《くきゅふっ》


返事をすると、宗徳は会議室へ急ぎ戻ったのだ。


**********

読んでくださりありがとうございます◎


勇者らしいです。

次話どうぞ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る