第033話 色々出来るみたいです

宗徳と寿子は、黒い霧というのを見ながら呆然としていた。


「あ、あの……やっぱり、お二人に何かあってはいけません。また新たな討伐隊が国で組まれるでしょう。その時までここに人が近付かないようにすれば良いのですから……」

「危険ですので、これ以上は近付かないでいただきたい」


ここまで案内してくれたミラーナとリーヤは、立ち止まってしまった宗徳と寿子を気遣うように言う。


しかし、宗徳達が少々虚ろな目をしてしまっているのは、あの黒い霧に手が出せないと思っているからではない。


「……四百二十……そりゃぁ、軽く引っ叩くだけで大怪我させるはずだぜ……」

「……あ、あなたなんて四百四十四……嫌なゾロ目を見てしまいましたわ……」

「あの?」

「ムネノリ殿?」


そう、二人は見てしまったのだ。お互いに自分たちのレベルというものを。


「数字って怖ぇのな……」

「これ、実は普通なんじゃないですかね……」

「ねぇだろ……」

「ですよね……」


善治がアレだったので、もしかしてとは思ったのだが、百七どころか四百いっていた事には驚いた。これが不味い事は理解できる。そして、更にこんな事ができた。


「なぁ、俺、あの黒い霧の奥にいる奴の事、分かるみたいなんだが……」

「あら、丁度良いですね。私はあの霧を消せそうな気がしています……」


宗徳の目には、毒霧の中にいるそれが何なのか、どれくらいの強さなのかが分かった。


見えているのはこれだ。



固有名称【リヴァイアサン(神変異種)】

レベル【385】

種別【(元)神獣】

HP【9037/12500】

MP【12080/15000】



カッコ書きが重要かもしれないというのは分かった。これを、寿子ではなくリーヤ達に尋ねたのは、当然だがリヴァイアサンというものがどんな生き物なのか分からなかったからだ。


「なぁ、リヴァイアサンのシン……カミヘン?シンペンか? いや、やっぱカミヘンか。神変異種ってなんだ? あと、種別がカッコで元って括ってあって神獣らしいんだが、なんか知らね?」

「っ、えっ!? か、鑑定が出来るんですかっ!? それが出来るの……伝説の神眼師様ぐらいしか……」

「そっちより、今何と言われました!? 神獣っ? リヴァイアサンですかっ!?」


大混乱させたようだ。


すると、冷静な寿子が何かを思い出すように呟く。


「リヴァイアサンでしたら、アレですよね? 神話の……確か、海に棲むという魔物の」

「へぇ。なんで知ってんだ? こっちのこと調べたのか」

「いやですねぇ。地球での神話です。普通にある奴ですよ?」

「なにっ!? 向こうでもそんな魔物がっ!?」

「だから神話ですって。まったくあなたは……」

「マジか……地球も危ねぇんだな……」

「だから神話ですってばっ。空想のものですっ!」


いつの間にか普段通りになった二人に、更にミラーナとリーヤは混乱する。宗徳と寿子の話の意味が分からなかったのだ。


その上、あの毒霧や見えたモノに手も足も出ないのだと認識して呆然としているものだと思っていたのに、いきなり掛け合いを始めれば驚くのは当然だろう。


「あ、あの……ムネノリ様っ。リヴァイアサンと本当に……」

「お? そうだぜ? 間違いねぇ。りゔぁいあ……うぬ……なぁ、寿子。『う』に濁点は『ぶ』と同じでいいんだよな?」

「その認識でまぁ、間違いではありませんね。英語では発音が違ってくるはずですが」

「よく分からんが……なら『ぶ』の後に小さい『あ』だから、母音で……『ば』って読めばいいよな?」

「ええ。それでいいです」

「なら、間違いなくリヴァイアサンと出てるぞ」


カタカナ表記は、未だに身構えてしまう時があるので、少々宗徳は苦手としていた。こういった日本語に本来ないものだと、認識していても正しいかどうか自分が疑わしいと思うくらいには不安なのだ。


「そ、そうですか……リヴァイアサン……そ、その……レ、レベルとかも分かったりします?」


ミラーナが尋ねるので、宗徳は正直に答えた。


「おうっ、385だとよっ」

「3っ!? 三百っ!?」

「それが本当なら、この国にっ……いや、この世界に敵う者なんてっ……あ、いや、だが……百を超える方々が何人か集まればあるいは……っ、いや、それにしても、国に報告をっ」


ミラーナもリーヤも面白いほど動揺している。だが、宗徳と寿子はまるで気にしていなかった。


もうこの後、どう挑むかで話し合いが始まっている。


「寿子は、あの毒を何とか出来るって言ったか?」

「ええ。昨日、本を読ませていただきましたから」

「読んだだけだろ?」

「何の毒かは分かりませんが、何と何を混ぜれば良いのか、わかるんですよ。草の名前が【鑑定】の時のように一覧で出ていますから」


ただしこれは、寿子が名前を知らないと分からないもので、たまたま昨日、薬草の図鑑を見ていたのが良かったらしい。


「へぇ。便利だな」

「あなただって、あの中にいるのが何か見えるなんて便利ですね」

「……」

「……えっと……」


リーヤは既に口を開く気力がなくなっているようだが、ミラーナはまだ何とかツッコもうと考え続けていた。


だが、宗徳も寿子も、もう次の事に思考が動いているのだ。二人の事は、ほとんど目に入っていない。


「私はその辺りの薬草を見てきます」

「おう。なら、ちょい俺はあの奥の奴に挨拶してくるぜ。それに、どうもあの中で彷徨ってんのが五人くれぇいるみたいだしな」

「あら。それも見えるんですか?」

「おう」


宗徳には、どれだけ視界が悪くともそこに何がいるのか分かるようだ。


寿子は便利ですねとまた呟きながら、薬草を探す為に森の方へ向かっていく。それを慌ててミラーナが追いかけていった。


「う~む。この感じだと……」


そう呟いて、宗徳は寿子が向かって行った森を見る。すると、そこにどんな動物がいるのか分かったのだ。姿が見えなくても、そこに潜んでいるのが何ものか分かる。


同時に寿子がヤられるような強そうなものがいない事が確認出来てホッとした。


「こりゃぁ、透視とかに近いな」


その見解は正しく、宗徳のこの能力は単純な【鑑定】ではなく【神眼透視】と呼ばれる特別な能力だった。だが、それを宗徳が知る由もなく、ただ便利だなと思ったのみだった。


「隠れん坊では無敵だな」


そんなことを言いながらニカッと笑う様は子どもにしか見えない。


「さてと、おい坊主。まずあの中の奴らを連れ出すぞ。手を貸せ」

「……え!?」

「とはいえ、あの霧は体に悪いんだよなぁ? 吸わんように……マスクじゃ意味ねぇか……なら、風かっ」


宗徳は自身の体を風の膜で包むイメージをする。それはあっさり上手くいったようだ。


楕円形の丸い卵型で風の膜が張られた。実は、ちゃんと息が出来るのはたまたまだ。息が出来るというのが普通だと考えていたために成功したのだ。


宗徳がこうして結果的に成功するというのは、地球でも昔からよくある事だ。気に止める事はない。


「坊主にもやってやるよ。結構快適だぜ」

「は、はぁ……お願いしますっ」

「おうっ、任せろ」


そうして、宗徳はリーヤの周りにも風の膜を張ると、いよいよ黒い霧に向けて歩き出したのだ。


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また明日です。

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